MFI — 世界初、自動車部品サプライヤのメタバースを活用した工場革新

作成者:山﨑 秀一投稿日:2022年9月27日

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3次元コンピューターグラフィックスでモデリングされたインターネット上の仮想空間「メタバース」。従来のエンタテイメント、ゲーム、スポーツ、レジャー、ショッピングだけでなく、いまや工場のエンジニアリング革新ツールとして利用されはじめている。

工場に仮想空間が存在していることが体感できる。→ Intelligent and Sustainable Martur Fompak International Now in Metaverse with SAP MII, ME and Data Intelligence on Vimeo

自動車部品サプライヤ工場の製造設備やエネルギーなどの現実世界のさまざまなオブジェクトが、メタバース上で3Dモデリングされていることや、現実と仮想のふたつの空間が、双方向に統合された工場内の様子が解説されている。

  • 現場にあるすべてのものは、デジタル化の対象
  • 人の代わりに作業する機械(ロボット)のシミュレーション
  • 異なる場所にある遠隔オフィスからの同僚との共同作業
  • 圧縮空気、電気、ガスなどのエネルギー
  • カスタマーやビジネスパートナーとの共同作業
  • デジタルツインによるメタバースへの現実世界の正確な反映
  • 温室効果ガス排出量はじめとするKPIのリアルタイムダッシュボード

今回は、自動車部品サプライヤのMartur Fompak International 社(以降、MFI社)の工場の製造現場での最新のデジタル技術を活用した変革事例をお伝えしたい。

MFI

MFI社は、1986年にトルコのイスタンブールで創業した非上場の自動車部品サプライヤである。自動車のシート、インテリア、ライトを主力製品として事業を伸ばし、現在では、日欧米のメジャーな自動車メーカーを含む200のクライアント、世界7か国23工場、 6,000人を超える従業員を抱える規模にまで成長している。独立系メーカーとして、トルコ国内の自動車会社に依存せず、グローバル事業展開を主軸として、これまでトヨタ自動車、フォード、ルノーなどの自動車メーカーやテクノロジーパートナーから数々のタイトルを受賞している。それが信頼の証となり、成長の糧となり、さらなる新規クライアント開拓を加速させている。

受賞・認証の一覧:Company | Martur Fompak International

MFI社の改革で最も興味を引かれたのは、これまで多くの自動車部品サプライヤに見られた1度限りの改革に留まらない、継続的なDXを続けていることである。一言で言えば、「歩みを止めないDXのショーケース」だ。ここで言うDXとは、サイロに捉われず、レガシーを打破し、先端デジタルテクノロジーを活用したビジネス改革を意味する。

MFI社は、2012年にSAP ERPを採用。当時欧州の部品サプライヤの間で標準的な考え方となっていた全社経営情報の一元管理の実現を目指した。当時はまだDXという言葉はなかったので、今敢えていうなら、この時点の取り組みを DX⓪と呼べるかもしれない。自動車部品サプライヤ向けベストプラクティス(SAP Best Practice for Automotive Supplier)に包含されている業務プロセスを鑑とした、SAP標準の導入方法論に則り、調達・生産・品質・物流・販売管理および財務会計・管理会計まで、部門横串のエンドツーエンドな水平統合と、経営管理から生産管理までの垂直統合を実現した。

DX⓪導入効果

  • 鮮度と精度の高い適切な粒度のデータ活用によるKPIマネジメント
  • 会計締処理日数削減
  • 社内ペーパーレス化とレポート処理工数削減
  • 調達原材料・内製部品の在庫最適化
  • 納入リードタイム短縮
  • 品質不良発生時の損失低減
  • 自動車メーカーの工場監査適合率向上

MFI社はERP導入により持続的な経営のための土台を構築した。しかし、彼らはDX⓪に満足してシステム基盤を塩漬けすることなく、その後次々とデジタル技術を活用して業務革新を重ねている。ここでは、SAPソリューションが関わっているふたつの取り組みを、DX①、DX②として紹介したい。

DX①:100ミリ秒の世界

MFI社は、2019年、自動車業界にさらなる高品質のコンポーネントを供給する企業を目指し、製造実行管理(MES)、品質管理、原価管理、生産管理の高度化を目指した製造プロセス改革に取り組んだ。この改革では製造現場機器のストリーミング データを収集分析するためのIoTソリューションとデータ分析機能が鍵を握る。

以前は、機器とプロセスの可視性が不足していたため、現場の機械が故障するか、製造部門で溶接されたフレームの品質部門での試験結果が得られるまで、問題追跡はされなかった。DX①達成後は、リアルタイムの溶接プロセスストリーミングデータを100ミリ秒の頻度で収集・分析している。

MFI社は導入したリアルタイム溶接プロセスをビデオで公開している。→ Martur Fompak International Smart Welding on Vimeo

DX①システム概要

  • 86台のロボット、86台の溶接機、53台の PLC、および53個の溶接セル内の278個のセンサーが接続され、MFI社のIoTゲートウェイ ソフトウェアによって処理されるプロセス、パラメータ、ステータス、およびメンテナンスインジケーターを追跡している。 MFI社のゲートウェイ ソフトウェアは、分析とSAP HANA プラットフォームへの統合のためにSAP Streaming Analyticsを介して統合されたデータを受信している。
  • SAP HANA上のSAP BW/BOは、すべてのリアルタイムデータがレポートし、グラフで視覚化され、製品コスト、消費量、サイクルタイムなどのプロセス指標を計算する。
  • 溶接機から収集されたパラメータ値とラボの侵入テストの結果を照合して作成されたデータセットを使用して、製品の品質を予測する機械学習アルゴリズムを展開およびトレーニングしている。製品の品質は、100ミリ秒間隔でストリーミングデータにより、リアルタイムに分析されている。

DX①導入効果

  • 3年以内の投資回収
  • 品質不良理由による返品の減少
  • エネルギー消費と消耗品の節約
  • 故障による損失とメンテナンスの遅延の削減
  • 製品コストに影響を与えるワイヤー、ガス、空気、電気の消費量を自動計算
  • 過去のトレーサビリティデータの提供
  • 品質部門の検査業務負荷の軽減
  • 生産部門の実績管理業務負荷の軽減
  • 実験室での溶接部の破壊試験の作業負荷とコスト削減
  • 保守部門は、機器状態予測を通じて、故障時の即時対応性を向上させて生産ダウンタイムを削減

 

DX②:社会課題克服への挑戦

自動車部品サプライヤは、各国法制度と取引先自動車メーカーからの要求に対応しなければならない。欧州市場でビジネスを成長させるためには、人々の幸福と健康の向上を目的とした、欧州グリーンディールや炭素国境調整メカニズムに即した、経営と業務オペレーションが要求される。そこでは、GHG排出量をはじめとする、サステナビリティに関する主要なKPIと、それに関連する指標の測定と開示が不可欠である。また、再生可能エネルギーの使用率を増やすためのイニシアチブも叫ばれている。さらに、自動車メーカーとのサステナブルな取引に向けた自社製品の優位性を示すためには、製品ごとのカーボンフットプリント計算および開示が不可欠である。MFI社は、これらの社会課題の解決とサステナブル経営へ向けて前進するために、冒頭の動画で紹介したメタバースを取り入れたDX②に取り組んでいる。

DX②システム概要

  • リアルタイムOEE
  • 電流、電圧、ワイヤースピード、プロセスステータス、製品、溶接点、溶接ガス、電力、圧縮空気などの100ミリ秒間隔のストリーミングデータを機械学習に取り込み品質予測実行
  • 電力、溶接ガス、圧縮空気の消費量、および温室効果ガスの排出量の製品/別、溶接ポイントごとのエネルギー監視と分析
  • 現場から得たデータをもとにした再生可能エネルギーの使用量算出
  • 各製品のリアルタイム炭素排出量計算
  • 統計的プロセス管理

DX②導入効果

  • 2018年の基準年から2020年までに12%のGHG排出削減の達成
  • 自動車事業の競争レベルを維持するために、各製品のカーボンフットプリントの個別計算
  • 物理的な障壁が取り除かれたデジタルコラボレーションプラットフォームの実現(会社の同僚、パートナー、クライアント)
  • 新しい生産施設またはラインをシミュレートし、レイアウト、プロセス、製品、機器の相互作用を備えた非の打ちどころのない物理的環境の準備
  • 遠隔地から作業による労働環境の安全性と柔軟性の高度化

 

未来へつなぐ

地球規模のサステナビリティ課題、自動車産業100年に一度の大変革、COVID-19によるパンデミック、希少資源・半導体の供給不足、国際紛争などの事業を取り巻く環境の厳しさが積み重なる昨今、MFI社が歩みを止めずに継続して取り組む改革は、社会に誇れる企業として成長し続けるための必須科目だと思う。MFI社は、経営基盤を盤石なものとするDX⓪、いまをさらに強くするDX①、カーボンニュートラルや労働問題などの社会課題に打ち勝つDX②を、まるで業務の一環として実践しているかのようだ。今回取り上げたMFI社のDXに対する視座の高さや自分ごと、マイルストーン、取り組み内容は、これからDXに取り組もうとしている日本企業にとって何らかのヒントとなり、一社一社のDXの成果が、社会をよりよい方向に導く手助けになれば嬉しい限りである。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、Martur Fompak International社のレビューを受けたものではありません。

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