Arpa Indastriale – 事実に基づく変革のためのインテリジェントファクトリー

作成者:東 良太 投稿日:2022年10月3日

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北イタリアのインテリア材企業が持つ変革哲学

これほどの変革を進める企業には、どのような哲学があるのだろうか。イタリア語で「山の麓」を意味するピエモンテ州は、ブラに本社を置くArpa Industriale (以降、Arpa)が取り組んだ「サステイナビリティとクオリティを両立する次世代ファクトリー」(以降、次世代ファクトリー)を読んだ後、沸き上がったのは、純粋な興味だった。この取り組みは「SAP Innovation Awards 2022 – Social Catalyst カテゴリー」を獲得した。

Arpaは1954年に創業した、インテリアを彩る表面パネルをデザイン・製造する企業だ。高圧ラミネート(HPL)加工を得意としており、とくに2013年に発表したハイブランド「FENIX」はインテリアの世界に革命をもたらした。マットな質感、ソフトな手触りで指紋が付きづらく、少々の傷であれば熱を加えることで修復できるこの素材は、高い人気を有する。企業規模は大きくない(売上:154.4M €(2020年度)、従業員:575人)が、高い収益力(NOPAT(税引後営業利益率):11.9%)を有し、野心的なサステナビリティ対応方針を立てている。同社のサステナビリティ目標を見てみよう。

意図的な変革を起こす責任ある経営

私たちの目標は、環境フットプリントを削減することです。
そのために、ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を用いて、影響を測定しています。私たちが最も重視しているのは、CO2排出量です。私たちは、2026年までに排出量を50%削減し、その後の数年間でカーボン・ニュートラルを実現します。

出典:Arpa Industriale HPより筆者意訳

これはArpa全体の目標だが、生産工程が複雑で廃棄が起こりやすい「FENIX」の高圧ラミネート加工で、すでにカーボンニュートラルを実現したという。これに加え、品質と収益性を大幅に向上した取り組みが、今回取り上げる「次世代ファクトリー」だ。同社の「サステナビリティ実現」方針には、この取り組みのベースになった変革の原則が見て取れる。

サステナビリティの実現

サステナビリティとは、夢見ることではなく、実行すること。行動することなのです。だからこそアルパは、環境、ビジネス、自社、お客様にとって「勝利」になる行動を常に取ります。私たちはサステナビリティを継続的に改善し、具体化していきますArpaのサステナビリティは、常識と事実に基づくアプローチ、そして事業計画への完全な統合を意味します。

出典:Arpa Industriale HPより筆者意訳

夢見るだけではなく実現するために、行動がなにより重要である点に、異論がある読者の方はいないだろう。では、その行動を「継続的に改善」し、「具体化」するために必要なことはなんだろうか。Arpaによると「事実に基づくアプローチ」であるという。Arpaの取り組みを確認しながら、このアプローチを解きほぐしていこう。

測定できないものは管理できない

Arpaが「次世代ファクトリー」によって変革に取り組んだのは「FENIX」生産プロセスだ。「FENIX」の需要は爆発的に増加し、機会損失を防ぐために生産量をすぐに引き上げる必要に迫られていた。一方で、高圧ラミネート加工の工程は複雑で難しく、欠陥や無駄(廃材)が多いという課題も抱えていた。

Arpaは、自分たちのサステナビリティ目標を「夢見るだけでなく実現」し、さらにその価値を社会に対して持続的に提供するために、既存生産ラインの追加や改善ではなく、従来の生産プロセスを聖域なく変革するという道を選んだ。そして、その手段が「すべての事実を測定するための次世代ファクトリー」だった。

このファクトリーでは、事実に基づいたアプローチ、つまり「測定できないものは管理できない」という原則の元、SAP ERP(統合基幹システム)から連携される受注オーダー、生産計画、製造指図に加え、作業手順や作業時間、1,600個以上のセンサーによる機器稼働状況、エネルギー使用量、排出量、プロダクトの品質、廃棄量など、全てのデータが測定・記録される。

そのデータをもとに、SAP HANAが持ち合わせる人工知能で機械学習を行い、行動と結果の依存関係を分析する。これによって、人工知能が生産プロセスを、最もコストが低く、高品質で、廃棄が少なくなるように改善し続けることを目指した。「次世代ファクトリー」のエッセンスを、以下の動画で垣間見ることができる。

Industry4.0の高みへ – Arpaのインテリジェント・ファクトリー
リンクはこちら。字幕選択で日本語が選べます
Arpaの取り組みが秀逸なのは、一部だけではなく、全てのプロセスとデータを統合し、絶え間ない「測定と改善」を自動化していることだ。生産プロセスにおいて、どのような改善提案が行われるかを考えると、その有用性がよくわかる。
  • SAP ERPに入力された販売オーダーを元に、同一製品生産予定の有無やマシンメンテナンス予定を考慮した詳細生産スケジュール、納期が自動提案される
  • 同時に、SAP Manufacturing Integration and Intelligence(SAP MII)を経由してSAP Manufacturing Execution(SAP ME)へ製造指図が設定される
  • 原材料は自動引当され、生産時にSAP Extended Warehouse Management(SAP EWM)とレーザー誘導車(LGV)が連携して自動搬送・設置される
  • 設定された製造指図に基づいて技術者と機器が協働して生産がおこなわれ、作業実績が記録される
  • 生産時の機器稼働詳細、原材料の廃棄量、エネルギーや水の使用量などのデータが、SAP Plant Connectivity(SAP PCo)を介してセンサーから収集される
  • 完成品は、カメラ撮影画像により品質チェックされて結果を記録、問題ない場合はSAP EWMとLGVが連携して棚入れ、完成品在庫に計上される
  • 生産状況や収集データは、SAP Analytics Cloud(SAC)のダッシュボードにリアルタイムに表示され、技術者の判断や対応が必要な場合はアラートが出る
  • ダッシュボードに表示されたデータを含む、収集した全データをSAP HANAの機械学習アルゴリズムが分析し、改善提案がアップデートされつづける

このように、End to Endプロセス、サプライチェーン・データ、機器データを統合して分析しているため、例えば、カスタマイズされた販売オーダー内容に応じて最適な「生産スケジュール」、「原材料の必要量」、「製造手順」、「素材取り扱いのパラメーター(生産時の素材張力や温度等)」、「仕掛品や完成品の安全・戦略在庫量」などを人工知能が提案・自動実行することが可能となる。ERPが持つEnd to Endプロセス、サプライチェーンデータと、ファクトリーが持つ現場データを連携させているArpaのITアーキテクチャ図を以下に掲載する。

出典:SAP Innovation Awards 2022 Entry Pitch Deck A Next Gen Factory Incorporating Sustainability and Quality

夢と献身を組み合わせる

前項では、成果の一例としてカスタマイズされた販売オーダーを取り上げたが、「次世代ファクトリー」において人工知能が改善しつづけるプロセスはそれだけではない。リアルタイム機器状況データを用いた予知保全は、機器の予期しないダウンによる機会損失リスクを減少させる。また、5,000以上のパラメータを用いた予測アルゴリズムは、エネルギー・水の使用量、廃棄物や品質を最適な状態に保つ。さらに、「FENIX」次世代ファクトリーで学習されたベスト・プラクティスはテンプレート化してArpaの全工場に展開される予定であり、成果は拡大しつづけるだろう。

この取り組みによって、Arpaが得た成果の一部を以下に記載する。(出典:SAP Innovation Awards 2022 Entry Pitch Deck A Next Gen Factory Incorporating Sustainability and Quality

  • 80%:エネルギー、水、その他のリソース使用量を削減
  • 75M€:1年間で生産コストを削減
  • 96%:スクラップ廃棄物を削減
  • 6倍:以前の(HPL)高圧ラミネート工場に比べ、生産性を向上
  • 24時間365日:SAP EWMで制御されたレーザー誘導車が生産を継続
  • 従業員ベスト・プラクティスを人工知能が継承することによる満足度向上

成果の最後のポイントに、定性的な従業員満足度の向上が記載されている。生産プロセスと技術を高いレベルで習得したArpaの熟練工は、その技術が人工知能に継承され、改善されていくことに満足を感じているという。

実は、Arpaの本社および「次世代ファクトリー」が建築されたピエモンテ州ブラの周辺は、2020年2月、新型コロナウィルス感染爆発の初期、世界的に最も罹患者が多く、特に高齢者の死亡に関する痛ましいニュースが多かった地域のひとつである。ちなみにイタリアで初めての新型コロナウィルス罹患者が出たコドーニョは、ブラからさほど遠くない、距離約180kmにある。

生と死を身近に感じた熟練工が、命あるうちに技術を伝えたいと考えるようになったことは想像に難くない。彼らにとって、技術は先達より受け継がれ、さらに自らが改善を加えた遺伝子であり、未来へ繋げることはまさに夢だ。Arpaは、「技術を伝えるという熟練工の夢」と「社会と自社の持続可能性を引き上げる組織の夢」の両方を踏まえ、「次世代ファクトリー」を創ることにより、高い技術を未来に橋渡した。その過程では、経営者と技術者、双方の献身的な行動が必要だっただろう。

このブログの執筆前調査で、Arpaの根底に流れる考え方を感じたエピソードをひとつ紹介したい。Arpaは「Alpecin-FENIX」というサイクリング・チームのスポンサーをつとめている。キャプテンはマチュー・ヴァン・デル・ポールという選手で、2021年のツール・ド・フランス 第2ステージで全サイクリストのあこがれであるイエロー・ジャージ(累積タイムがもっとも早い選手におくられる最高の栄誉)を獲得した。彼のツイートを追っていたとき、以下の言葉が目に飛び込んできた。

Dreams and dedication are a powerful combination
夢と献身は強力な組み合わせ

マチュー・ヴァン・デル・ポールのツイートより

現在26歳の彼は、10年以上チームに所属し続け、データに基づくアプローチで次世代のサイクリスト育成に取り組んでいるという。支援するサイクリングチームを検討する際にも、Arpaは自らの考え方(夢見ることではなく、実行すること、行動すること)をベースに置いていることに、嬉しい驚きを感じた。

夢見るだけではなく行動する

Arpaは、社会に対する貢献を謳い、それを夢で終わらせないために大胆に行動し、「FENIX」生産で目標を実現した。一方、社会に対する貢献を持続するには、企業自体が収益を上げ続ける必要がある。よって、品質向上と極限までの廃棄減少により、自社の収益性向上を同時に実現した。そして、これらの結果を生み出すために必要だったのが、事実に基づくアプローチであり、データによりプロセスを改善しつづける「次世代ファクトリー」だった。

大きな夢を描くが、自社の既存プロセスやシステムの変更に大きな制約があり、行動できなくなるケースをよく目にする。ここまで読んでいただいた方の中にも「規模が大きくないArpaのひとつの工場だからできたのだ」と感じた方がいるのではないだろうか。

それは素晴らしい気づきだ。最初のステップとして、自社内の規模が小さい工場や生産プロセスを対象に、夢へ向かって行動すればよいということを、今回のArpaの事例が教えてくれている。有名なイベノーションの考え方に「Think Big, Start Small, Learn Fast(大きく考え、小さく始め、早く学ぶ)」がある。大きな夢を描いたならば、それを夢で終わらせないただひとつの方法は、行動を始めることだ。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、Arpa Industrialeのレビューを受けたものではありません。

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