サステナビリティに向けた実践手引き16~Holistic Steering and Reporting as Enabler~
作成者:福岡 浩二 投稿日:2022年9月30日
今回は、前回に引き続き「非財務の業績評価」をテーマとして、前回触れられなかった「人的資本」と、関連するSAPソリューションを紹介します。
まず、「人的資本」の定義ですが、理屈っぽくならないように、類似語との違いに絞って説明しておきます。
昔から「人的資源」という言葉がありますが、これは「ヒトが関わる活動の効率化」という意味合いが強いです。つまり「モノ」や「カネ」と同じ意味合いで使われ、無駄なコストにならないようにしましょう、ということです。
それに対して「人的資本」は資本、つまり「企業価値を生む源泉」であることを全面的に出しています。もっと荒っぽく言うと「個人の活動が企業全体に影響を与えている」ということを示唆しています。
人的資本が求められる背景は?
既に国際的な動向として人的資本の開示義務化の動きは起こっています。2021年11月に経産省が取りまとめた非財務開示に関するレポートから代表的なケースを引用しておきます。
なぜここまで「人的資本」が注目されているかというと、大きくは下記2つの国際的なダイナミズムによるものです。
1.デジタル革命によるスキルシフト
業界によって差はありますが、デジタル技術が従来の仕事のやり方や収益モデルに大きなインパクトをもたらしてきています。それに対応するためには経営/事業戦略を大幅に変えるだけでなく、それに見合った人材再配置が必要となります。
例えば、自動車業界ではCASE(「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」)という言葉で表されるように自動車自体の意味合いが変わろうとしています。
さらに近年では、「脱炭素」への対応がギアチェンジを促し、それに伴ってソフトウェア人材やサービスシフト・サステナビリティへと対応ができる人材が必要とされています。
そのために、経営による変革の意思だけでなく、それがそのまま人事面での調達・育成(再教育含む)まで動的に繋がっている仕組みづくりが求められてきます。
2.経済のグローバル化への対応
多様性やそれを受け入れたリーダーシップなど、企業価値に影響を与える要素に「ヒト」が大きく関わるということが認知されてきています。
欧米を中心として企業を測るものさしはある程度国際的に標準化が進んでいます。つまり、上記の産業動向を受けて、投融資機関からは、その評価を正しく行うために「人的資本」データへの開示要求が高まっており、冒頭の国際開示動向に影響を与えています。
以前こちらで投稿した通り、SAPでは非財務の財務インパクト開示を実験的に行いました。実はこの進め方も「ビジネスヘルスカルチャー(いわゆるWell-Being(幸福)を測る独自指標)」と「従業員エンゲージメント」など人的資本に関わる指標から段階的に行いました。
財務インパクトだけでなく、内部意思決定や社外向けソリューションについても繋がっています。以前にこのテーマでSAPが回答したインタビュー記事を1つだけ紹介しておきます。
SAP・スコット・ラッセル氏「技術が生む価値を顧客向けに解き放つ」(日経ESG 2021.12.09)
上記記事でも触れているソリューションについて紹介します。
関連するSAPソリューション
人的資本はあくまで経営のコンセプトです。それを具現化するための道具としてSAPでもソリューションを提供しています。
経営層と実務層に大別すると下記のような製品群が主に対応します。
経営層:非財務含めた業績評価で開示や内部意思決定を支える SAP Sustainability Control Tower
実務層:Human Resource分野での課題を包括的に解決するSAP SuccessFactors Human Experience Management(HXM) Suiteソリューション
実務層の製品については、本Blogでも多彩な論点で各専門家が解説しており、こちらからアーカイブを見ることが出来ます。
経営層向けについては、2021年末にSAP Sustainability Control Tower(以下SCT)をリリースしたので、ここではその特長を触れておきます。
まず、非財務指標含めた開示動向の確認ですが、以前にこちらで触れた通り今はISSBによる標準化が進められています。
ISSBの下で具体的に決めていくワーキンググループがあり、その中で重要な役割を占めるのがWEF(世界経済フォーラム)です。
WEFは本活動以前より、非財務指標フレームワークの乱立には同じように課題を感じていました。
2020年年次総会(ダボス会議)で主題となった「ステークホルダー資本主義」での議論を通じて、株主偏重でなくステークホルダー重視の新しい指標群を、4大監査法人とバンクオブアメリカとの共同開発で発表しました。「ステークホルダー資本主義指標」と呼ばれ、こちらからダウンロードできます。
主要な指標構造は、4種類の項目(頭文字をPで揃えた4P)とそれらに紐づくコア指標で構成されます。また、既存フレームワークとの整合性も意識しており、公開レポートを抄訳したものを図示しておきます。
1つだけ補足すると、コア指標に加えて拡張指標(Extended Metrics and Disclosure)も提示し、SAPも創立に関わった、財務インパクトへの標準化を目指したVBAも数多く参照されています。
既にグローバル企業を中心に統合報告書などにこのフレームワークで公開している企業はあり、SAPもその1社です。
そしてSCTは、このような国際開示フレームワークと協調したコンテンツ型のレポーティング基盤で、そのコンテンツの第一弾がこの「ステークホルダー資本主義指標」となります。(細かくは、さらに「人的資本」「気候変動」から優先的に提供)
SCTの提供する価値について触れておきます。
一般的にレポートの開発・運用で最も負荷とリスク(ブラックボックス化)が高いのは、指標のビジュアル化ではなく「データ抽出と中間加工」の作業です。
SCTでは、ユーザが実際に見るレポート画面だけでなく、そこに至るデータフロー設計図(例:SAP S/4HANAからのデータ抽出からその加工処理)まで提供しています。
つまり、レポート化に関わる作業負荷と運用リスクを最小限にして、ステークホルダーとの対話や社内の意思決定活動に集中することが出来ます。
SCTは、今後も今まで紹介してきた国際フレームワークの進捗と連動して内容を拡充する予定です。最新の情報についてはSAPにお問い合わせください。
こちらで、今回の「人的資本」及び関連するSAPソリューションの紹介を終わりにしたいと思います。
以前の記事はこちら
- サステナビリティに向けた実践手引き
- サステナビリティに向けた実践手引き2 ~全体設計とPurpose~
- サステナビリティに向けた実践手引き3 ~全体方針~
- サステナビリティに向けた実践手引き4 ~SAPの構造~
- サステナビリティに向けた実践手引き5~ZERO EMISSION1 as Exemplar~
- サステナビリティに向けた実践手引き6~ZERO EMISSION2 as Enabler~
- サステナビリティに向けた実践手引き7~ZERO EMISSION3 as Enabler~
- サステナビリティに向けた実践手引き8~ZERO WASTE1 as Exemplar~
- サステナビリティに向けた実践手引き9~ZERO WASTE2 as Enabler~
- サステナビリティに向けた実践手引き10~ZERO WASTE3 as Enabler~
- サステナビリティに向けた実践手引き11~ZERO INEQUALITY1 as Exemplar~
- サステナビリティに向けた実践手引き12~ZERO INEQUALITY2 as Enabler~
- サステナビリティに向けた実践手引き13~ZERO INEQUALITY3 as Enabler~
- サステナビリティに向けた実践手引き14~Holistic Steering and Reporting as Exemplar~
- サステナビリティに向けた実践手引き15~Holistic Steering and Reporting as Exemplar~