宇宙から見たビジネス#3:企業価値と衛星データ

作成者:福岡 浩二 投稿日:2022年11月15日

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宇宙からビジネスを語るシリーズ。
前回は宇宙産業の中核に当たるロケット/衛星打上げのバリューチェーンの変化と、主要プレイヤーSpaceXの収益構造について触れました。

今回は、衛星からのデータを利活用するいくつかのケースを紹介します。

企業価値の変容

利活用の先にある企業価値について、近年その評価軸が変わってきているので触れておきます。

以前であれば経済指標で測られるのが大半でしたが、21世紀以降では経済活動に加えて環境や人権問題などが話題になり、より総合的に評価されるようになっています。

例えばちょうど気候変動を議論する国際会議COP27がエジプトで開催されています。( 2022/11/6-11/18)
企業活動でも既に影響が及んでおり、例えば気候変動がもたらす企業へのインパクトを評価するTCFDは、プライム上場企業に対してその報告を義務化しています。

人権問題については、2022年9月に日本政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しましたが、これも企業の社会的責任を問う世界の潮流です。
なかなか日本国内だけだと見えにくいかもしれませんが、例えばスマートフォンで必須のレアメタルは、中国やアフリカなど限定地域で主に採掘されますが、そこで児童労働や強制労働が行われているのでは?と以前より問題視されています。

重要なのは、他の企業・国で起こっていることだから他人事ではなく、商材のバリューチェーンに含まれれば、その企業の評価に関わってくるということです。

特に消費地点から地理的に遠い原料調達のプロセスや、人間の監視の目が届きにくい領域(山中や海上輸送なども)で起こっている活動に焦点が当たっているといってもよいと思います。

逆にこれを機会とみて、そういった従来外部経済化していた領域まできちっと企業として可視化して説明することで、企業価値にとってプラスになるともいえます。

このような企業環境も踏まえて、衛星がどのように利活用、つまり貢献できるかについて触れてみたいと思います。

バリューチェーンを結合する衛星データ

今回は、SAP自身も関わった事例を中心に紹介したいと思います。まずはじめは、プレスリリースも出しましたのでその引用から。

SAPとユニリーバ、ブロックチェーン技術をパイロット導入し、森林破壊のないパーム油をサポート(SAP News 2022/4)

パーム油は、スナック菓子や洗剤など我々の日常生活で欠かせない油です。
その消費者向け製品を提供する代表的な企業であるユニリーバ社が、その原料であるアブラヤシを調達するプロセスを、ブロックチェーンの技術でつなぐ実証実験を行っています。
特に注力しているのが「ファーストマイル」とよばれる、まさに先ほど触れた原材料調達での領域です。

ただ、ブロックチェーン技術でその経済活動や過程で発生しうる社会的責任に関係するデータ(例:適正な収穫量や労働時間)を不正がないように管理するのは一見正しいのですが、そもそもチェーンに正しいデータを入れることが前提になっています。(不正データを入れたらそれが引き回されます)

従って、本事例ではアブラヤシが乱獲されていないかを監視する手段として衛星データを活用しています。言わずもがなですが、ヒトを介さないマシンからのデータなので不正エントリから守ることが出来ます。

これは衛星を活用したロールモデルとなる事例で、同じようなサービスを展開しようとしているSAPパートナーもいます。該当するプレスリリースを引用しておきます。

JSOLとSAPジャパン、衛星データを活用した食品/消費財メーカー向けトレーサビリティー支援サービスの提供を開始(2022/11/14)

他にも、従来バリューチェーンで取りこぼしていたデータを衛星が補完することで価値につながるユースケースはいくつかあり、その代表的なものを産業別に列挙しておきます。

農業/漁業:収穫地での栽培/漁獲状況やそこでのヒトの活動モニタリング

鉱業:採掘場所の探索やそこでのヒトの活動モニタリング

エネルギー:原油探査/貯蔵量やその輸送状況

保険:天災に伴うリスク評価(当事者企業からみるとBCP対応)

 

ここで、衛星データ自身の特徴について補足しておきます。おそらく我々がスマホで写真を撮るのと同じイメージを持つ方が多いと思います。

厳密にはそのタイプは「光学衛星」と言われており、我々が目で見るのと同じような情報を得ることが出来ます。(勿論視力は全く違いますが)
ただ、これだと例えば天気が悪いと雲で遮られて地上が見えなくなります。特に毎日モニタリングしたいときは困ります。

そこで今期待されているのが、「SAR衛星」と呼ばれるレーダーを使って写真を撮るタイプです。これはレーダーの反射で地上の様子を観測するので、天気が悪くても雲を透過したモニタリングが可能になります。

このように、衛星自身の技術革新もあって、より衛星データの利活用がビジネス用途で期待されています。

SAR衛星を開発している日本企業のうち、Synspective社とはSAPは共同でソリューションを提供しています。SAR衛星の基礎的な説明を含めて創業者の方が分かりやすく解説した動画を1つ紹介しておきます。

今回は具体的なケースとしてSAP自身も関わっているものを取り上げましたが、次回はもう少し俯瞰的な視点でビジネスにとっての価値について紹介してみたいと思います。

 

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