宇宙から見たビジネス#4:アルテミス計画
作成者:福岡 浩二 投稿日:2022年11月16日
宇宙からビジネスを語るシリーズ。
前回は衛星データを利活用することで、今求められている企業への社会責任とそれがもたらす価値について触れました。
今回は、宇宙開発を俯瞰的に見たときに起こる産業のイノベーションについて紹介します。
まず、1回目にふれたとおり、21世紀になって官から民へのシフトが進んでいますがあくまで低軌道上(高度1,000km未満)がメインです。
それより遠く離れた静止衛星や天体探査活動など、大掛かりなプロジェクトについては依然として国家及びその連合が率いています。
そのうち、史上最大級の「アルテミス計画」で、ついに11月16日15時すぎ(日本時間)に無事初号機が打ち上げられました。(下記はNASA提供映像から引用)
アルテミス計画と日本の位置付け
アルテミス計画は、月に到着したアポロ計画の後継にあたるもので、月への人類再訪問だけでなく月を基地として深宇宙(火星など月以遠)を目指した壮大な計画です。
フェーズごとに分かれてまずは無人での月軌道リターンが今回の目的です。ざっくり以降のフェーズの目的を書いておきます。
・フェーズ2:有人での軌道リターン(今回はマネキンが搭乗)
・フェーズ3:有人月面着陸&リターン
・フェーズ4以降は火星をターゲットにした月での基地化(通称:Gateway)
もっと詳細を知りたい方はNASAのアルテミス公式サイトを参照ください。
前回のアポロ計画は米国単独でしたが、今回は日本・欧州・豪州など国際的なパートナーシップの下で進められています。
日本で言えば、今回のロケットには日本の提案に基づく超小型衛星も2つ搭載されています。
月面に着陸して探査を行う「OMOTENASHI」と、月の周辺を科学観測する「EQUULEUS」です。関心のある方向けに、1つだけ最近の報道記事を引用しておきます。
日本初、月着陸に挑む アルテミス計画に世界最小探査機(2022/11/16 日経新聞)
記事内でも最後に触れてますが、わずか10kg強の超小型衛星(キューブサット)は宇宙参入の間口を広げるべく安価に人工衛星を打ち上げるための規格で、ビジネスへの用途としても期待されています。
実は今回のアルテミス計画では、国家だけでなく民間の宇宙事業会社やトヨタ(月面探査車開発)など新規事業として進出する企業も参画し、それぞれの役割を遂行します。
その意味で、今回は単なるロケット打ち上げ成功以上に、人類の新しい宇宙開拓時代の到来を象徴しています。
とくに今回のテーマで見ると、人類共通のロマンという抽象的な想いだけではなく、産業・社会にも派生する可能性を大いに秘めています。
アルテミス計画が導くイノベーション
突然クイズですが、下記製品の共通点は分かるでしょうか?
ダストバスター(コードレスクリーナー)、MRI、CT スキャン、住宅用断熱材、衝撃吸収スニーカー、耐火消防服、真空パック食品
実はこれは、「アポロ計画」(最後に月に到着したのは1972年のアポロ17号)の過程で発明されたといわれているものです。
「必要は発明の母」とはよく聞きますが、地上と異なるニーズから生まれたものが地上で新しい価値を生んだ好例です。インターネット・WWW・GPSなど、元々別の研究やその過程で発明されたものが、今の情報化社会に欠かせなくなった技術は枚挙にいとまがありません。
前述の超小型衛星2つでも、下記のような新しい技術が組み込まれています。
OMOTENASHI:世界最小の月面探査機(月面着陸時の衝撃吸収力が最適になるよう3Dプリンタと特殊素材で開発)
EQUULEUS:世界初の水エンジン(潜熱利用した省エネ・低分子採用による軽量化・爆発性のない安全性、さらに将来的に月の水資源が活用できる持続可能性)
※参考サイト:JAXAの該当衛星紹介ページ
これらの新技術だけでも、既存産業への応用が発想出来る方もいるのではないでしょうか?
「イノベーション」はビジネスの世界で最頻出用語かもしれませんが、VISIONや本質的な課題が発見出来ないと、なかなか実行力が伴いません。(DXで何となくPOCやって次に進まないケースに相当)
例えば、月とその先に目指す火星での人類活動に思いを巡らせると、酸素供給という生命維持、長期滞在のための衣食住、集団生活における倫理・法制度、そこで生まれる慣習・文化など、地球での常識的な枠組みをゼロから構築していく必要性があります。
まだ火星移住は先の話とは思いますが、このような新しい宇宙開拓時代で生まれる発想は、月に到着することを目指したアポロ計画以上のイノベーションを誘発することは想像に難くありません。
つまり、今日からスタートした宇宙開発の新しい時代を題材に発想を豊かにしてみることは、今企業が必要とされるイノベーションを創発するのに役立つかもしれません。
しかも、宇宙と聞くと遠い未来のように感じますが、現在の科学技術の進歩は極めて早く、過去のフィクションがもはや現実に実現できるようになっています。
一例を挙げると、昔ドラえもんに登場した「ほんやくこんにゃく」は、既にリアルタイム通訳機能で実現しています。(タケコプターはまだ重装備になりそうですが・・・)
ぜひこれを機会に、皆様の所属組織内またはそれを横断した多様なメンバーでアイデアを出し合ってみてください。思っている以上にアルテミス計画は我々のビジネスに繋がるかもしれません。
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