宇宙から見たビジネス#5:社会との繫がり
作成者:福岡 浩二 投稿日:2022年11月28日
宇宙からビジネスを語るシリーズ5回目です。
前回は、ちょうどアルテミス計画1号機打ち上げ成功にちなんで、産業にも波及するイノベーションについて言及しました。
打ち上げに成功した後にも、下記のとおり日本人の新宇宙ステーション滞在というニュースも発表され、日本にとっても注目の産業になると予想されます。
月周回の新宇宙ステーションに日本人滞在、日米が合意(2022/11/18 日経新聞)
念のためこの新宇宙ステーションについて補足すると、火星への滞在を視野にいれて、月軌道上に宇宙ステーション”Gateway”を建設予定です。下図がそのイメージです。(Credit:NASA)
さらには新宇宙ステーション滞在と別に「月面への日本人初着陸」の可能性もまだ残っています。(アルテミス計画には白人男性以外の月面着陸も目標の1つ)
ワクワクするニュースはここまでにしておいて、本題に入ります。
今回は、個々の企業及び経済活動だけではなく、それも含めた社会へのインパクトについて触れたいと思います。
衛星データと社会的価値
SpaceXが提供するStarlinkやiPhoneの新機能で話題になったように、衛星を通じたサービスは、各国家毎の規制とも調整しながら、ビジネスとして今後も広がっていきます。
社会価値について、まずは宇宙以前に今企業環境で起こっている変化について整理しておきます。
下記は、毎年経済・金融・政治のリーダーが集まって行われる世界経済フォーラム2022において、恒例となった参加者アンケートです。
リーダーに問われた質問は、「今後10年で最大のリスクはなんですか?」です。
このように、環境分野で「気候変動への対応失敗」「異常気象」「生物多様性喪失」で上位3つを占めています。
この傾向は今年に限ったことでなく、過去10年でも環境へのリスクが上位を占め続けています。
アンケート結果が表しているとおり、企業活動が大規模化することで、地球規模での環境に与える影響が無視できなくなっています。
特に、気候変動は、NGO・NPOだけでなく投融資機関や消費者など、多様なステークホルダーからその対応が求められています。
例えば消費財の分野では、消費者が持続可能な取り組みを行っている企業・商品を選ぶという購買動向が現れています。(出所)
ただ、取り組む企業の視点で見たときに難しいのが、責任範囲が商材に関係するValueChain全体に及ぶ点です。
つまり、単に社内活動だけでなく、調達する原材料から消費したあとの廃棄までもある程度管理する必要があります。
ValueChainの位置が遠いほど実態がつかみにくく、そのため問題解決が行き届きにくいのは何となく想像つくと思います。
そこで、「衛星データ」を通じてうまくデータを可視化・制御しようという試みを進めています。今回は2つその事例をご紹介したいと思います。
衛星データを活用した社会価値への貢献
1.生物多様性への挑戦
上記のグローバルリスクアンケートの1位(2位・3位にもつながりますが)となった「気候変動」について、企業がその財務インパクトを報告するTCFDというフレームワークは,経営層をはじめとして普及してきました。(プライム上場企業は報告義務)
実は3位の「生物多様性」についても、類似のフレームワークが2021年に策定されています。
「TNFD」(自然関連財務情報開示タスクフォース: Taskforce on Nature-related Financial Disclosure)と呼ばれます。今のところ、2023年中には最終版が公開される予定です。
フレームワークとしてはTCFDに似てますが、差異として生態系の評価は「場所」に依存するため、衛星データを活用しようという動きがあります。
SAPのパートナーに、衛星データを活用して生物多様性を定量的にスコア評価する企業に、Sustainacraftがあり、まさにこのスコアを可視化するソリューションを開発しました。
これからTNFDの最終化に応じて、「生物多様性」への企業としての取り組みは重要視される可能性が高く、衛星データの必要性が高まっていくことが予想されます。
本シリーズ3回目に、消費財企業の原料であるパーム油収穫を衛星で監視する事例を紹介しました。これも気候変動及び異常気象への対応も含みます。
ただし、これは社会価値だけでなく、経済価値との両立を目指したものです。
衛星データとその後工程のデータは、デジタル化されてSAPのブロックチェーン製品(GreenToken powered by SAP)で集約され、ValueChain全体でのやりとりを当事者間で透明にすることが出来ます。
これは、フェアトレード(公正取引)など信頼関係を高める効用もあり、自社のビジネスネットワークが強固になります。
そして興味深いのが、このブロックチェーン履歴を最終消費者にもスマホアプリ等で視覚的に分かりやすく見せる仕掛けを用意しています。
前述のとおり、Sustainableな商材を求める消費者層が増えており、納得をもってプレミアム価格に対して購買を決定することが出来ます。
以前より、CSV(Create Shared Valu:共創価値)という言葉が流行りましたが、まさに本事例はバリューチェーンに関わる当事者同士で一緒になって価値を創造した事例といえます。
このように、「社会価値だから経済価値を犠牲にする」という思い込みをなくし、むしろ事業を見つめなおして新しい価値を創る攻めの視点が重要ではないかと思います。