宇宙から見たビジネス#7:2022年を振り返る

作成者:福岡 浩二 投稿日:2023年1月6日

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2022年が明けて2023年を迎えました。
みなさま、あけましておめでとうございます🎍

ただ、仕事始めでまだまだ気分がのらない方も多いかもしれません。

本投稿では、昨年2022年に起こった宇宙に関連するトピックを振り返って、これから始まる2023年の活動への暖機運転になればと思います。ぜひカジュアルに楽しんでください。

1.ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による探査の革命

2022年の夏に、バイデン大統領自らが発表した新宇宙望遠鏡による初撮影画像、ご覧になった方は多いと思います。今でも下記動画で閲覧することが出来ます。

従来の望遠鏡(ハッブル)よりも格段に感度があがっており、分かりやすい例で同じ方向を比較した画像(厳密には若干見る方法・範囲は違います)を載せておきます。

左:ハッブル 右:JWST(Credits: NASA, ESA, CSA, and STScI)



初めて公開された画像の中で個人的に好きな画像は下記です。宇宙というよりは山脈に連なる峰のようです。”Cosmic Cliffs”と名付けられています。

The image is divided horizontally by an undulating line between a cloudscape forming a nebula along the bottom portion and a comparatively clear upper portion. Speckled across both portions is a starfield, showing innumerable stars of many sizes. The smallest of these are small, distant, and faint points of light. The largest of these appear larger, closer, brighter, and more fully resolved with 8-point diffraction spikes. The upper portion of the image is blueish, and has wispy translucent cloud-like streaks rising from the nebula below. The orangish cloudy formation in the bottom half varies in density and ranges from translucent to opaque. The stars vary in color, the majority of which, have a blue or orange hue. The cloud-like structure of the nebula contains ridges, peaks, and valleys – an appearance very similar to a mountain range. Three long diffraction spikes from the top right edge of the image suggest the presence of a large star just out of view. For more details, download the Text Description.

Cosmic Cliffs(Credit NASA, ESA, CSA, and STScI)



今回の新宇宙望遠鏡には明確な目的があり、主だったものは下記のとおりです。
・ファーストスター(初めてできた星)の発見
・太陽系の外にある惑星の発見

これらの野心的な目標を達成するために、多くの革新的な技術が実装されています。

例えば、前任のハッブルは地球から600km地点で観測しており、故障の時は宇宙飛行士が(スペースシャトルに乗って)直接修理に出向きました。

一方でJWSTは、天体の影響を受けにくい160万km(!)まで移動して観測をしています。

ここまでの遠距離になると、さすがに人が直接修理には出向けないので、ハードウェアとソフトウェアで遠隔または自律的に制御出来るように設計されています。

ぜひ関心を持った方はNASAのJWST特設サイトを訪れてみてください。

2.月・火星への新たなチャレンジ

2022年11月にアルテミス計画の宇宙船が打ちあがり、数週間後に無事地球に帰還しました。

(Dec. 5, 2022) On flight day 20 of the Artemis I mission, Orion captured the Moon on the day of return powered flyby. The burn, which lasted 3 minutes, 27 seconds, committed the spacecraft to a Dec. 11 splashdown.

宇宙船(ORION)から月を撮影(2022/12/5)

今回の計画が前回(アポロ計画)と異なるのは、米国単独でなく他国や民間企業と協調しながら進めていることです。日本の民間企業例を挙げると、トヨタが月面探査車の開発を行っています。(公式サイト

前回では民間にも応用された技術革新が起こりましたが、今回は民間の活力が初めから組み込まれているので、産業面へのさらなる波及効果が期待できます。

さらに、技術革新だけでなく日本人初となる月面着陸の可能性もあります。(アルテミス計画では非白人男性の月面着陸も目的に含まれています)

丁度投稿時点でJAXAの宇宙飛行士選抜試験が行われていますが、もしかしたらこの中にも月の地を踏む方がいるかもしれません。選抜試験については、こちらのサイトで概要が分かります。

国家主導のアルテミス計画以外のほかに、民間が主導する月/火星プロジェクトでも進展がありました。

1つはイーロン・マスクが率いるSpaceXです。

火星への人類到着を目指した事業ですが、以前に月軌道を周回する旅行サービスを販売しました。その記念すべき第一号の顧客である前澤友作氏が、2022年に月旅行へ搭乗するメンバを発表しました。
100万名にも及ぶ募集から選ばれたそうで、詳細はこちらの公式サイトで閲覧できます。

SpaceXの打ち上げロケット開発進捗次第ですが、早ければ2023年に打ちあがる予定です。

そしもう1つ。日本の民間企業ispaceによる月面探査機が2022年12月に打ち上げられました。(余談ですが打ち上げはSpaceXのロケット)

About HAKUTO-R

月面着陸時イメージ(Credit: ispace)

こちらは無人ですが、民間企業で月面探査を実現する世界初の試みとなります。

日本の民話「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」から名付けられたプロジェクト「HAKUTO-R」。まさに2023年の干支「うさぎ」を象徴する年になりそうです。


3.宇宙の産業振興と安全保障

最後は、相対的にビジネスにも関係するトピックです。

この数年の世界情勢が物語るように、今は産業でも地政学的(地理と政治を絡めた)な判断が求められています。

世界中を襲った疫病だけでなく、国際紛争や環境/エネルギー問題も相互に影響を与え合い、グローバル化が進む企業活動において多大なリスク要因となります。

日本政府はこのような時代背景も受けて、宇宙空間を通じた「産業振興」と「安全保障」に力を注いでいます。

産業振興については、以前にこちらのBlogでも紹介しましたが、特に人工衛星の分野で注目されている「衛星コンステレーション」への支援などで予算を増大しています。

安全保障については、ロシアのロケット使用が困難になったこともあり、自国でのロケット開発をさらに推進する方針です。日本の基幹ロケット「H3」の初打ち上げも2023年に予定されています。

発射台に設置されたH3ロケット(Credit:JAXA)

人工衛星に対しても、宇宙空間や地上での不審な行動を監視する安全保障の役割も担わせています。
これらを束ねる「宇宙作戦群」という新組織を2022年に創設しており、こちらのサイトで分かりやすく解説しています。

そして、2022年12月に閣議決定された安保関連3文書の1つ「国家安全保障戦略」でも、宇宙における安全保障についての言及があり、2023年中にその方針が文書として定められる予定です。

以上2022年のトピックを紹介しましたが、2023年は従来と異質なリスクにどのように向かい合うかが問われてくるかもしれません。
ただ、リスクは負だけでなく正も含めたふれ幅ですので、より跳躍の可能性を秘めた年になるとも言えます。

皆さまそれぞれが、さらに飛躍する一年になることを心より願っています。

<イベントの案内>
1月25日に、ビジネスから見た宇宙産業全般を語るWebinarを開催します。関心のある方であればどなたでも参加できますので、下記から登録してください。

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