宇宙から見たビジネス#10:宇宙も環境問題!?
作成者:福岡 浩二 投稿日:2023年2月10日
宇宙開発が進むことで、地上と同じような産業が今後期待されています。
その初めの一歩が宇宙に進出するための「有人移動」で、既に2020年から民間向け宇宙旅行が始まっています。
宇宙旅行が普及すると、今度は月面で地球と同じような生活が送れる日が来るかもしれません。
実際に、月面での住宅建設構想も国内外で進められています。
ただ、そういった夢が広がると同時に、地球と同じ課題が生じるリスクも抱えており、むしろ宇宙であるがゆえに深刻化することもあります。
その代表例が、地球で以前より課題となっている「ごみ問題」です。よく宇宙空間では、ごみのことを「宇宙デブリ」と呼びます。
宇宙デブリはなぜ発生する?
そもそも宇宙空間は何もないはずなのに、なぜデブリが生じるのでしょうか?
一言でいえば、我々人類が開発して宇宙空間に持ち込んだ機器が不要になって漂っているからです。ですので、ある意味地上と同じ構図です。
日本の宇宙機関JAXAがデブリについて触れたこちらのFAQサイトによると、大きさ別に下記の数が存在します。(もっと細かく知りたい方はESAのこちらのサイトを参照)
・10㎝以上の物体:約2万個
・1cm以上:50~70万個
・1mm以上:1億個超
たしかにその数は多いですが、大きさが10cmであったとしても野球ボール大なので、地上の感覚だと邪魔にならないと思うかもしれません。
ただ、これらのデブリは全て高速で地球の周りを回り続けており、その速さは大体「秒速10km」といわれます。
「時速」の書き間違いでなく「秒速」です。この数値がピンとこなければ、地上のライフルでも秒速1km程度ですので、その10倍に相当します。
投稿時点では宇宙飛行士に直撃した事故は聞いたことがありませんが、ロケットや衛星に直撃したことはありました。いずれのケースも著しく損傷または大破して機能しなくなっています。
地上よりも恐ろしい宇宙デブリ
宇宙デブリが地上のごみ問題より深刻な問題をはらんでいるのが、上記でふれた通り「常に動いている点」です。
要は、軌道上を回っている宇宙デブリが、たまたま他の衛星(稼働か放置か問わず)に衝突すると、それがまた新たに破片となり新しいデブリとなってしまいます。
このように、宇宙デブリは玉突き事故で増殖し、しかるがゆえにその軌道予測もしにくいのが地上より深刻な理由です。
このような宇宙デブリの連鎖反応を、提唱者の名前から「ケスラーシンドローム」と呼びます。
SF映画「ゼログラビティ」では、まさにこのケスラーシンドロームによって思わぬデブリ衝突に見舞われた宇宙飛行士の物語です。(余談ですが無重力を表現する映像技術も素晴らしいです)
実はケスラーシンドロームは過去実際に生じています。以下にNASA調査による宇宙デブリの時系列推移を引用します。(出所元は画像クリックで遷移)
いくつか明らかなピークが確認できますが、これは衛星間の衝突事故と、ある国の衛星破壊実験によるものです。玉突き事故で一気にその総数が増加したことが分かります。
衛星破壊実験の意図について補足すると、人工衛星は20世紀後半から軍事用途でも活用されており、それを破壊出来る能力を誇示するために行われていました。
当時この実験は宇宙デブリを急増させたことでも国際的な非難を浴び、以後はどの国も宇宙デブリを発生しないような配慮をして臨んでいます。
そしてこの事件以前より、宇宙デブリを抑制する取り組みは国際的に進められてはきました。
宇宙デブリ抑制に向けた国際的な取り組み
そもそも、宇宙デブリに限らず宇宙空間での国家横断でのルールはあるのでしょうか?
地上であれば、国家横断で適用される、いわゆる「国際法」というものが存在します。
よく知られているモノを挙げると、赤十字団体が提唱して紛争時の人権を守ることを目指した「ジュネーヴ条約」もその1つです。
宇宙空間での国際的な取り締まりについては、1959年に国連の常設委員会として宇宙空間平和利用委員会(COPUOS: Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)が設置されました。(外務省の説明サイト)
この委員会による活動の結果(紆余曲折はありましたが今回は細かいので割愛)、2019年に宇宙活動の長期持続可能性ガイドラインが採択され、その批准国に対して宇宙デブリの抑制が求められています。
ただ、投稿時点においてはそのガイドラインに法的強制力がないことと、さらに現代は批准対象である国家だけでなく、民間企業による宇宙開発も活発に進んでいます。
例えば、前回の投稿で触れた通り、SpaceXをはじめとするいくつかの企業が、大量の衛星を打ち上げる「衛星コンステレーション」計画を進めており、今後宇宙空間のさらなる渋滞が予測されています。(しかも、これらの商用衛星は大体地上から2000km内の低軌道領域に集中しています)
このような背景も踏まえて、この宇宙デブリを清掃することを事業としている民間企業もいくつかあります。
その世界的な代表企業の1つが、日本に本社を構えるアストロスケールです。(SAP自身も運営に関わるイノベーション施設Inspired.Labにも入居)
この企業が目指すのは「宇宙の持続可能性(スペースサステナビリティ)」で、まさに地上で今各組織が注力しているテーマの宇宙版です。
アストロスケールのような企業が、国際的なリーダーシップを発揮して宇宙デブリの抑制に貢献することは、1つのロールモデルとして地上にも良い影響を与えると思います。
つまりは、地球から物理的に離れる宇宙開発は、実は地球の鏡であり鑑となる可能性を秘めているかもしれません。
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