「企業に多様性はどう効くんですか?」と聞かれたら
作成者:山口 真一 投稿日:2023年7月20日
※本稿の最後にイベントのお知らせがあります。ぜひ最後までご覧ください。
はじめに
近年、企業におけるダイバーシティの重要性が強調されています。経済産業省は2010年代から「ダイバーシティ経営の推進」を重要政策に掲げていますし、女性活躍推進と収益や株価との相関についても、よく引き合いに出されます。私自身も、2022年のイベントで「ダイバーシティによりイノベーションを起こし企業価値を上げよう」と話しました。
しかし、「ダイバーシティに取り組むことで、どうしていいことが起こるのか」についての解説を見たことがある人は、実は多くはないのではないでしょうか。多様な人がグループに入れば、意見のすり合わせにより時間がかかりますし、合意に至らないケースも出てくるでしょう。これまで同質性の高い組織に慣れている人なら、多様性は痛みをもたらす要素にもなり得ます。
本稿では、多様性がグループのパフォーマンスに及ぼす影響について「数学的」に説明した書籍を一部紹介することで、多様性が組織パフォーマンスに役立つメカニズムについて、一つの考え方を紹介してみたいと思います。
「多様性って、確かにすごいかも」とこれまでより納得感を得ていただけるかもしれません。
多様性予測定理
ここで紹介するのは、スコット・ペイジの著書「多様な意見は、なぜ正しいのか」の一部です。わかりやすくするため、登場人物の名前を日本風にしています。
(1)平均個人誤差
太郎と花子が、クラスのA君、B君、C君のテストの順位を各自で予測したとしましょう。
太郎の予想 | 花子の予想 | |
A | 6 | 10 |
B | 3 | 7 |
C | 5 | 1 |
テストが実際に終わり、予測の正しさが判明します。太郎と、花子の予測のズレを集計するときには、プラスとマイナスが打ち消し合わないように、誤差を2乗します。
太郎の予想 | 花子の予想 | 実際の結果 | 太郎の誤差 (2乗) |
花子の誤差 (2乗) |
|
A | 6 | 10 | 6 | 0 | 16 |
B | 3 | 7 | 5 | 4 | 4 |
C | 5 | 1 | 1 | 16 | 0 |
合計→ | 20 | 20 |
太郎の誤差は合計20、花子の誤差も合計20となりました。太郎・花子の個人としての予測の正しさを集団レベルで表す指標として、太郎と花子の誤差の平均を平均個人誤差と呼ぶこととしましょう。今回2人とも誤差は20でしたので、平均個人誤差も20となります。
(2)集団誤差
次に、太郎と花子の集団としての予測のズレを計算します。太郎・花子の予測の平均と実際の結果とのズレを、こちらも2乗して計算し集計します。
太郎の予想 | 花子の予想 | 集団平均 | 実際の結果 | 集団誤差 (2乗) |
|
A | 6 | 10 | 8 | 6 | 4 |
B | 3 | 7 | 5 | 5 | 0 |
C | 5 | 1 | 3 | 1 | 4 |
合計→ | 8 |
これを集団としての予測の正しさを表す指標とし、集団誤差と呼びます。今回集団誤差は8です。
(3)予測多様性
さらに、太郎と花子の予測の多様性を計算します。これは、2人の予測の平均(集団平均)と各自の予測との平方差で求め集計します。
太郎の予想 | 花子の予想 | 集団平均 | 太郎の予測多様性 (平均からの平方差) |
花子の多様性 (平均からの平方差) |
|
A | 6 | 10 | 8 | 4 | 4 |
B | 3 | 7 | 5 | 4 | 4 |
C | 5 | 1 | 3 | 4 | 4 |
合計→ | 12 | 12 |
今回予測者が2人なので、個人の予測と集団平均との差は太郎・花子で同じ値となり、それぞれ12です。平均値の12が太郎・花子の予測の多様性(バラつき)を表す指標、予測多様性となります。
多様性は、能力と等しく集団パフォーマンスに寄与する
ここで、2つのことに気づきます。集団誤差は、平均個人誤差よりも小さいこと。個人のパフォーマンスの平均より、集団の予測の方が正確であるということです。もう一つが、下記の式が成り立つということです。
集団的誤差 = 平均個人誤差 ― 予測多様性
誤差は小さいほど予測が正確になるので、多様な予測が集まることは集団としての予想の精度を上げることにつながる、多様性は個人の能力と等しく集団の予測能力に寄与するのです。「違うことは、良いことと同じく大切だ」と説くペイジの「多様性予測定理」は予測する人が何人でも常に成り立つといいます。
もちろん現実のビジネスの現場では個人のアイディアを平均して意思決定したりしませんので、現実的ではない、と思った方もいるでしょう。しかし、同質性の高い組織が課題解決に当たるとき、多様な意見を出し合って最適な解決アプローチを決められるでしょうか。過去の慣例や、声の大きい人の進め方が採用されるのではないでしょうか。
過去の成功経験が生かされにくいVUCAの時代だからこそ、多様な知を集結した「集合知」を活かす必要性が増しているのかもしれません。
本稿が、皆様のビジネスのヒントになれば幸いです。
D&Iイベントのお知らせ
来る8/1(火)、弊社とアクセンチュア様の共催によるイベント「ダイバーシティ経営を考える」が東京大手町のSAP Experience Center Tokyoとオンラインのハイブリッド形式で開催されます。お早めにお申し込みください。
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【日 程】2023 年 8 月 1 日(火)15 : 00 – 17 : 30 (懇親会 17 : 30 – 18 : 30)
【会 場】(現地参加) SAP Experience Center Tokyo (オンライン参加) Zoom
【主 催】SAPジャパン株式会社
【共 催】アクセンチュア株式会社
【対 象】経営者の方、経営企画部門、人事部門、IT部門に所属されている方
ダイバーシティ推進担当、組織風土変革担当、サステナビリティ担当の方
【参加費】無料(事前登録制)
プログラム |
キーノート 篠原 淳 鈴木 洋史 |
SAP事例紹介 石山 恵里子 SAPジャパン株式会社 |
特別講演 吉越 輝信 登壇者調整中 |
懇親会(現地参加のみ) |
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