日本型雇用とグローバル人材育成の融合で求められる人事部門の役割とは?

作成者:鎌田智之投稿日:2013年12月6日

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こんにちは、SAPジャパンの鎌田です。本連載では、10月30日に大阪で開催された「SAPグローバル人材フォーラム2013 大阪 Autumnグローバル経営を実現する人材戦略」の内容をダイジェストでご紹介しています。最終回は、当日のゲスト講演者の皆様によるパネルディスカッション・Q&A「グローバル事業戦略実行における人事の役割」です。

写真 1

戦略のパートナーとしての人事部門の役割

パネルディスカッションは、特別講演者である株式会社リコー 人事本部 副本部長兼グローバルHRセンター長の除村健俊氏、ならびに武田薬品工業株式会社 コーポレートオフィサー 人事部長の半田純一氏、SAPジャパン株式会社 ソリューション本部 人事/人財ソリューションズ Directorの南和気をパネリストに迎え、モデレーターである神戸大学大学院 経営学研究科 教授 金井壽宏 氏の司会のもとで進められました。

冒頭で金井氏は、プロジェクトマネージメント、あるいは経営コンサルティングといった人事部として異色の経歴をお持ちの2人の講演者が、現在は経営層と近いポジションで人事戦略のリーダーを務めている事実に即して、経営の戦略パートナーあるいは組織の変革を促すエージェントとして、人事担当者に寄せられる期待について言及しました。

「ビジネスのあり方を考える際に、しばしば『提供価値』*ということが言われます。顧客や取引先に何らかの価値を届けることがビジネスの本質ならば、人事部の提供する価値とは何なのか。もちろん採用や配属といった通常の業務はありますが、それ以上に今後は、会社がビジネスのプランや経営戦略を考える上でのパートナーとしての役割が強く期待されるようになります」

ビジネスを拡大・変革していくにあたっては、その実動部隊となる人材の育成・配置および組織開発に精通したプロフェッショナルの存在が欠かせません。そうした観点からも人事担当者および人事部門は、グローバル化に迅速かつ的確に対応できる人材育成の仕組みと、適正配置および相互コミュニケーションのためのノウハウを会社に提供するエージェントになるべきだと、金井氏は提言します。

* 人事部がやっていること、ドゥアブルでなく、人事部がもたらしているもの、デリバラブルのことをいう

自社の人材リソースの正確な見極め、育成、配置によるビジネスの成長

ディスカッションではまず、「経営戦略のパートナーとしての人事」について、金井氏からパネラー2人の経験に即した意見が求められました。これに対して除村氏は「PMBOKを学び始めたばかりの人に得意分野を尋ねると、リスクマネージメントを挙げる人が多い。リスクというのは定量的に計測・分析できるので、理解しやすいからです。しかしプロジェクトマネージャーの経験を積むにつれて、ヒューマンリソースマネージメントが一番大事という人がだんだん増えてきます。まず人を見て、育成して、適切に配置して、さらに経験を積ませて、成長させていく。人材育成プロジェクトと会社経営は、その基本となる考え方で非常に似ていると思います」と明かし、プロジェクトの最も重要な成功要因は、適切な人員を配置した組織(プロジェクト体制)とその人材・組織を適切に稼動させるためのコミュニケーションだと指摘します。

一方で半田氏は、戦略には大きく分けてポジショニング論とリソースベースの戦略論があると語ります。

「一般的にコンサルタントは、ポジショニング論=絵に描いた餅のようなきれいな話を重視しがちです。しかし私自身は、これまでリソースベースに近い発想で取り組んできました。このリソースの中核に該当するのが人=組織です。組織や人材の能力をきちんと見極めないと、たとえ優れた戦略であっても絵に描いた餅になってしまいかねないからです」。

自社の経営戦略を推進するためのパートナー部門であろうとするならば、人材や組織をまずリアルに見極め、それらの力をどう高めていくかが人事コンサルティングでは極めて重要であり、自らもそのことを重視してきたと半田氏は振り返ります。

日本の人事・雇用の美点と自立したグローバル人材育成の融合を探る

写真 2続いて金井氏は、企業への高い忠誠心や簡単に人を切らない雇用慣習など、日本企業の美点や特長を挙げた上で、グローバル化を進めるにあたって生かすべき部分と変革しなくてはならない部分について、パネリストに問いかけました。

これに対して除村氏は、終身雇用の良さを認めた上で「弊害という点では、多くの日本人は会社にしがみつくという意識からなかなか脱却できない面があります。この点は、国際競争を考える上でも自立を促していかなくてはなりません」と語りました。しかし、その自立も行き過ぎると個人主義=自分こそ、自分だけがというドライな職場になってしまうため、自立すると同時にチームワークも非常に重要になってきます。

「個々人が自分のキャリア開発を進めると同時に、横方向のつながり、すなわちコミュニケーションを強化していける組織体制や仕組み、また、横方向の繋がりをリードできる人材の育成が必要です。欧米の合理性と日本の情の厚さとを良いバランスで融合していけたらと考えています」

また半田氏は、企業と個人との信頼関係をベースに構築されている日本の人事システムは世界でも例のないすばらしい仕組みであり、必ず残していきたいと語ります。

「あくまで一般論としてですが、アメリカの企業だと、『あなたは来年、この会社にいるかどうかわからないよ』という圧力をかけながら、人材の力を引き出していくことがあります。日本では、そのようなプレッシャーにさらされながら過ごしてきた人は少ないでしょう。そこには日本独自の暗黙の信頼関係があるためです。ただし、この暗黙の信頼関係には、それに甘んじる人を許容してしまうケースもままあり、これまでの日本企業は、いささか寛容すぎたことは否めません。日本的な人事の良さは生かしていくべきですが、それに甘んじてしまう=信頼を裏切るようなふるまいは、やはり正していかなくてはなりません」(半田氏)

論理的な思考とコミュニケーション能力の開発

金井氏は、人事制度を整備する上で重要なのが「どういった人材層に対してどのような教育を施していくか」、すなわちターゲティングだと指摘します。これに対して半田氏は、「残念ながら日本の企業の若い人たちの現状を見ると、抜本的に教育し直さなくてはならない部分がいくつかある」と明かします。

「その1つが、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングといわれる能力です。日本の学校教育には、これらの能力を育てるカリキュラムがほとんど存在しません。具体的には、ディベートや論戦、ネゴシエーションといった能力がまったく鍛えられていないので、議論させてもまったく議論にならないケースが多い。ロジカルシンキングができず英語力も弱いのでは、とてもグローバル化についてはいけません」

しかし、こういった能力は鍛えれば身につくものだと半田氏は強調します。

「もう1つは、コミュニケーション能力です。どんな場でも、きちんと自分の主張ができること。また刻々と変化する現場の状況に臨機応変に対応していく上でも、コミュニケーション能力は不可欠です。武田薬品工業としても、今後はそうした点にこれまで以上に力を入れた人材教育を展開しつつあります。」

一方、除村氏は人材育成のターゲティングには、個性や適性を見極めるための制度をあらかじめ整備した上で、結果に応じた振り分けとそこに合わせた教育を与える仕組みが欠かせないと語ります。

「たとえばマネージャー教育と一口に言っても、実際の人材には『マネージャー』と『リーダー』という2つのタイプがあります。一般にマネージャーは管理する人で、リーダーは道を切り拓く人というイメージに分けられます」

人はある程度生まれ持った性格として、新しいことにチャレンジするのが大好きな人と、きちんとマネージメントする方が好きな人に分かれており、それをすべて教育で変えられるわけではありません。あくまで適性に合った振り分けと教育が必要だと、除村氏は話します。

「リコーでは現在、性格テストによって各人の行動特性を分析し、リーダータイプとマネージャータイプの選別をした上で、新しい事業や業務に配属する人間を決めるといった検討を進めています」

この他にもさまざまな意見が交わされたパネルディスカッションですが、最後は会場とのQ&A の時間が設けられ、各企業から参加した人事担当者との質疑応答が時間いっぱいまで行われるなど、盛況のうちに終幕となりました。

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