人事業務のクラウド化をめぐる7つの論点

作成者:晋 順徳 投稿日:2013年12月4日

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SAPジャパンの晋(ジン)です。今回は、人事業務のクラウド化をめぐる7つの論点について取り上げたいと思います。

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人事(HR)管理におけるクラウドコンピューティングの利用については感情的な議論が白熱しがちで、特に欧州、中でもドイツでは、その傾向が顕著です。欧州では、従業員に関するデータは機密情報であり、たとえ信頼できるサービスプロバイダーであっても社外の人間の手には委ねるべきでない、という意見が一般的です。PRISM[米政府による極秘の情報収集プロジェクト]をめぐる最近の暴露事件を受け、この点にあらためて注目が集まった結果、個人情報保護に関する考え方について欧州と米国の根本的な違いが浮き彫りになりました。

とはいえ、人材管理(HCM)のクラウド化については、欧州の観点からも導入を肯定すべき理由がいくつかあります。

以下に注目すべき7つの論点をご紹介します。

1. データ保護は米国以外では未だに多くの議論を呼ぶ問題である。

欧州の人々は人事(HR)アプリケーションのクラウド化について懐疑的です。コンサルティング会社のSoftselectが発行した「Talent Management Software – Trend Report 2013(タレントマネジメントソフトウェア動向レポート2013年版)」によると、その傾向が最も強いのはドイツ人です。機密性の高い人事プロセスをクラウドで実行したくない主な理由としては、データのセキュリティが弱いことが挙げられています。ほとんどのデータセンターが厳格な認証手続きを完備しており、会社が所有する大部分のソフトウェアよりも高度なセキュリティ基準を満たしているという事実があるにもかかわらず、こうした認識が一般的なのです。ただ、ドイツではデータのセキュリティが最優先事項であることも確かです。ドイツのコンサルティング/市場分析会社TrovaritのERPエキスパート、カルステン・ゾントゥ(Karsten Sontow)氏によると、機密性の高い従業員データを適切に取り扱っていることを100%証明できない企業は何らかの深刻な問題に直面する恐れがあります。また、地域の従業員保護法や個人情報保護規制により、人事ソフトウェアのプロバイダーは顧客向けにローカルなデータセンターを開設することが義務付けられています。SAPは米国の人事専門IT企業であるSuccessFactorsを買収したことで、欧州およびドイツの顧客向けに理想的な答えを見つけました。現在では、ミュンヘンを本拠とするSiemens AG、スイスの保険大手であるBasler Versicherungen、オンライン旅行代理店のExpediaといった大企業が、SAPの人事ソフトウェアをクラウドで活用しています。

2. 税務コンサルタントの業務では、もう何年も前からクラウド経由で個人データを取得するのが一般化している。

ただし、1番で示したような認識と矛盾する動きも見られます。たとえば、金融サービスを専門とするITサービスプロバイダーのDATEV社は、顧客である税務コンサルタントに対して、何年も前からクラウド方式のソフトウェアを使ってサービスを提供しています。とはいえその背景には、多くの企業が給与関連の税務申告を税務コンサルタントにアウトソーシングしているという事情があります。「しかし、DATEV社はクラウドだけでビジネスを行っているわけではありません」とゾントゥ氏は指摘します。

3. プロセスを標準化できる点がクラウド化の選択を後押しする。

Booz & Company社が大企業を対象として実施した最近の調査によると、セキュリティの側面を別にすれば、多くの人々が柔軟性と独立性を犠牲にするのは望ましくないと考えており、それを避けるためならオンプレミス(自社運用)型システムの導入期間の長さ(通常は1~3年)も喜んで許容すると回答しています。その一方で、クラウドベースのソリューションは高度に標準化されており、カスタマイズの必要性がほとんど残されていないため、中堅・中小企業には適しています。アプリケーションの種類にもよりますが、会社のプロセスとの統合も短期間(平均4~6カ月)で完了するのが一般的です。

4. クラウドにより、システムの複雑さが軽減する。

その結果として、クラウドベースのソリューションもそれほど複雑ではありません。そしてまさにこの点こそ、ERPのエキスパートであるゾントゥ氏が、人事業務のクラウド化を有望な選択肢と考える理由です。「統合ERPソリューションを中核的な人事業務にも活用しているのは、導入企業全体の4分の1にすぎません」と同氏は明かします。しかも半数近くの企業は、自社でカスタマイズした人事ソフトウェアを使っています。その点、グローバル対応の人事ソフトウェアでは、世界各国で異なる規制要件に対応できるようにコアプロセスが高度に構造化されています。「以上を総合すると、人事は最もクラウドに適した業務領域の1つといえます」(同氏)。つまり、人事の機能とビジネスプロセスをクラウドにマッピングするのは容易であり、システム全体がそれほど複雑でないため拡張性も向上することになります。そのため、人事のクラウド化は特に多国籍企業にとって非常に有望な選択肢になる、と同氏は主張します。さまざまな国で事業を展開する多国籍企業は、現地の法規制を遵守しなければならず、それぞれの法規制の変化に対してシステムを迅速かつ効率的に適応させる必要があるためです。

5. クラウドコンピューティングのコストは長期的にはオンプレミス型コンピューティングを上回る。

人事業務のクラウド化に関して反対派と推進派の双方が繰り返し持ち出す争点は、「コスト」です。たとえば、前述のSoftselect社の調査によると、クラウド化によって業務コストが増大すると懸念する回答は19%、逆に業務コストが低下すると予想する回答は68%でした。実のところ、両者の言い分はそれぞれ真実の一端を捉えています。Booz & Company社の「ERP in the Cloud(ERPのクラウド化)」という調査によると、導入時にかかる1回限りのコストだけを見れば、従来のオンプレミス型システムはクラウドベースのシステムより8倍以上も高額です。しかし、月々の運用コストはクラウドコンピューティングがオンプレミス型を20%以上も上回っており、時間の経過とともに、ソフトウェアライセンスを所有しているオンプレミス型システムのメリットが大きくなっていきます。ただし、これはあくまでも一般的な観測であり、独自にカスタマイズした人事システムの場合は注意が必要です。そうしたカスタマイズを各国や地域の法律に適応させる作業によって、この20%の差は縮小または相殺されることも考えられるからです。

6. SuccessFactorsの買収には「2倍の価値がある」

SuccessFactors社の買収は、SAPの人事ソリューションビジネスに大きな飛躍をもたらしました。SuccessFactors流の人材管理では、最新の人材採用手法をサポートしているほか、タレントマネージメントや業績管理などの手法を通じて人材開発を促進します。それとは対照的に、クラウド型のERPソリューションであるSAP Business ByDesignは、すべての人事プロセスを1つのモジュールとして統合します。「SuccessFactorsの買収により、SAPはERP専業プロバイダーから、ERPに関連したサービスのポートフォリオ全体を提供する総合プロバイダーへの進化を目指していることを示しました。この買収は、SAPが提供するERP製品の守備範囲を拡げ、既存顧客を対象にして新たなビジネスチャンスを創出する目的で行われたものです。この観点からすると、人事プロセスは理想的な選択肢です。人事はSAPのほぼすべての顧客にとって重要な基本業務ですから。さらに、ほかのさまざまな業務領域に比べて人事がはるかにクラウドに適している事実を考えると、SuccessFactorsの買収には2倍の価値があると言えます」(同氏)

7. Facebook世代はセキュリティの懸念にそれほど神経質ではない。

ゾントゥ氏は、クラウド化のトレンドが今後は加速すると確信しています。「Facebook世代は、データのセキュリティについて、それほど心配していません。ですから今後はドイツでも、クラウドコンピューティングがもっと受け入れられていくでしょう」

出典:7 Things Worth Thinking About 投稿者 SAP.info

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