SAPPHIRE NOW 2012 ORLANDOに参加して
作成者:生熊 清司 氏 投稿日:2012年5月23日
株式会社アイ・ティ・アール
リサーチ統括ディレクター/シニアアナリスト
生熊 清司
既に、様々なメディアが報じているようにSAP社にとって最大のイベントである「SAPPHIRE NOW and the ASUG Annual Conference」が、今年も5月14日~16日までの3日間、米国フロリダ州オーランドにて開催されました。実は、2005年の東京や2007年の宮崎など国内で開催されたSAPPHIREには参加していましたが、海外で行われるSAPPHIREへの参加は今回が初めてでした。
これまで、私がSAP社に対して抱いていたイメージは、社名の由来「Systems, Applications, and Products in Data Processing」のとおり、ERP製品を中心としたアプリケーション製品のベンダーであり、これは2003年にSAP NetWeaverを発表し、2008年にBusinessObjectsを買収し、2009年にSybase社を買収しても、そのイメージは変わりませんでした。SAPにとって買収製品やパートナーとのエコシステムなどの資源は全てERP製品を強化するためのものであるという見方です。
さらに、5月10日に「SAPは今日あらためて、データベース市場に本格参入すると思ってもらっていい」とリアルタイムコンピューティング事業本部長 馬場氏の宣言を聞いても、製品スタックを拡張したOracle社に対抗するマーケティング戦略の一環に過ぎないのではないかと、本気でDBMSベンダーとしてやっていくと言う点では、少々懐疑的でした。
ところが、今回のSAPPHIRE NOWの参加によって、この見方を変えなければならないと思いました。1つは、5月15日にSAP 共同CEOのジム・ハガマン・スナーベ氏によって、今後の5つの注力エリアが発表されていましたが、この中にはっきりと「Database & Technology」が明記され、さらにSAP HANAが中核とされていたことです。
そして、もう1つは、5月16日のキーノートに登場したSAPの創設者の一人であるハッソ・プラットナー氏とCTOのビシャル・シッカ氏が講演後の記者やアナリスト向けに行ったQ&Aセッションにて、RDBMS製品は既にコモディティー化しており、今後大きな技術的な進化はないのではないかという質問に対して、「NO」と叫び、RDBMSの技術的な進化は止まってなく、RDBMSの技術進化こそがSAP社のERP製品による顧客の課題解決に大きな役割を持つと強い口調で明言したことでした。
データベースを専門とする私としては、SAPのエグゼクティブからRDBMSに対して、このような発言があるとは思ってみなかったので、SAPは本気でRDBMSに取り組む気なのだと初めて確信しました。
今回、展示会場にも、「Database & Technology」そして「SAP HANA」のコーナーには多くの面積がさかれ、多くの参加者の注目も集めていました。
しかし、現時点でSAP HANAは分析やOLAP用途のRDBMSであり、OLTP用途ではありません。SAP HANAがSAP社のアプリケーション製品の基盤となるためにはOLTP用途でも利用できる機能と性能が必要です。今回のSAPPHIREではSAP HANA上でSAP Business Oneを稼働させるデモンストレーションを実施し、秒間77万レコードのインサート処理性能、バルクロードで分間1GBという性能があるとの説明がありました。
さらに、SAP HANAは最新のSP4ではテキストサーチ、R言語をサポートしデータ・プロビジョニングと高い可用性を実現しており、将来的にOLAPとOLTPの両方の処理が可能で、構造化データと非構造化データをサポートすると改めて説明がありました。
ここで、1つ疑問が生じました。カラムストア型RDBMSは検索処理では確かに効率的ですが、データのインサート、更新、消去といったOLTP処理では一般的なローストア型に比べて、オーバーヘッドが高く、いくらインメモリーで処理が速いといっても、非効率ではないのかというものです。
この疑問に対しての答えはSAP HANAは単なるカラムストア型ではなくローストア型とカラムストア型のハイブリッド型のRDBMSであるということです。このことは、データベース&テクノロジーのバイスプレジデントのジェフリー・ワード氏が執筆した、「SAP HANA Essentials」という書籍に説明がありました。
また、キーノートでは100台のサーバをクラスタ化し、100TBのメインメモリーを持つ最大のSAP HANA動作環境の紹介もありました。しかし、実際の提案では、このようなクラスタ化したシステムでの提案はあまり聞いたことがなく、クラスタ化した複数ノード間での分散OLTP処理で必要となるメモリー間でのデータ共有処理に関しても、NUMAアーキテクチャをサポートしていると言っていますが、残念ながら実際に動作している環境をこの目でまだ見たことがありません。
SAP社がSAP HANAこそがRDBMSの新たな進化の姿であると言うならば、IBM社、Oracle社、Sybase社などが培ってきたテクノロジーと何が異なり、どのような優位点を持っているのかを、これまで以上に明らかにし、様々なベンチマーク結果や事例を公表することが必要でしょう。
ただ、今後はSAP社を私の分析対象のDBベンダーの1つとして、SAP HANAの進化やSybaseとの融合など、今回のSAPPHIRE NOWで発表されたことが実現されるかを、注意深く見て行きたいと思います。
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