Industrie 4.0 -次世代ものづくり環境のための確かな道すじ
作成者:大本 修嗣 投稿日:2014年4月1日
本連載では、2014年3月5日、日経ものづくり・日経テクノロジーオンライン・日経BPイノベーションICT研究所の主催により開催された、「Factory 2014」と題したフォーラムの内容を紹介しています。第2回は、Siemens AGのディーター・ウェゲナー博士による基調講演をシーメンス・ジャパン社の許可を得てお伝えします。
講演者:ディーター・ウェゲナー博士(Prof. Dr. Dieter Wegner, Vice President, Advanced Technology & Standards, Industry Sector, Siemens AG)
前回の内容はこちら
タイムリーな情報収集とインダストリアルインターネットが実現する世界
第4次産業革命で製造業は大きく変わる
ウェゲナー博士はこの講演で、将来の製造業がどうなっていくべきかについて、技術的な観点から述べました。まずは、産業革命の歴史と製造業の変遷について以下のようにレビューしています。
「人類初の第1次産業革命は、1784年頃に水や蒸気で動く機器により製造を開始した時です。1870年頃に起こった第2次産業革命では電力を使い、大量生産を開始し、生産性が大幅に向上しました。そして1969年にはPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)などを活用した生産の自動化が始まり、これが第3次産業革命となりました。そして今、我々を待ちうけているのが第4次産業革命で、『サイバー・フィジカル・システム』を活用することが主眼となるということです。そしてその到来時期は2030年頃と見ています。」
ウェゲナー博士は、第4次産業革命に向けて製造業が直面する課題は、以下の3点であると指摘しました。
1.効率向上
電力などのエネルギーや資源の節約は、生産性、競争力維持の原点です。2.市場投入までの時間(Time-to-market)の短縮化
製品を市場に投入するまでの時間を従来よりもはるかに短くすること。しかしながらその一方で、顧客からの要求は複雑で、また、より大量のデータを扱わなければならない状況の中で実現しなければなりません。3.需要に応じた生産(Production on Demand)
「個別化した大量生産」という要求への対応、市場変化に基づく対応、生産性向上への対応にむけて、柔軟性の実現が求められます。
Industrie 4.0はIoTの活用が決め手
この来たるべき第4次産業革命への課題にソリューションを与えるものが、この基調講演の演題である「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」だと、ウェゲナー博士述べました。「これはドイツ政府が提唱している製造業高度化に向けたイニシアチブです。ドイツにおいてはGDPの25%は製造業がもたらしているため、製造業高度化の影響は非常に大きなもので、さらに輸出を増加させ、世界をリードする立場を維持することが狙いです」と指摘しました。そして、他の主要国についても以下のようにまとめました。
「GDPに占める製造業の比率が低い米国においても“製造業ルネッサンス”と銘打って製造業改革を行い、製造業の再拡大を目論んでいます。GEのインダストリアルインターネットがまさにこの動きです。日本は、製造業のシェアが既に高い国なので、シェアを高めるというよりも生産性をもっと向上させたいという意向を強く持っています。中国は、製造業の質を向上させると同時に、エネルギー消費の削減など環境への配慮が主眼です」
ここでウェゲナー博士は、インターネットにモノがつながること(IoT:Internet of Things)の重要性を強調しています。「あらゆるモノの状況を把握できることにより、工場内外におけるいかなる原料、部品、機器、プロセスなどの状況を隅々まで常に把握できるので、個別生産型工場(ディスクリート型)であれ、連続生産型工場(プロセス型)であれ、工場間の連携をも通じて、2030年頃には革新的な工場に生まれ変わる」と指摘しています。これがまさに、Industrie 4.0が目指すところです。
Industrie 4.0のビジョン
ウェゲナー博士は、Industrie 4.0では、以下の4つをビジョンとして強調しました。
1. 製造される製品は、製造に必要となるあらゆるデータを備えていること
2. 機器はネットワークでつながっており、全付加価値チェーンにおいて自律的に作動すること。その過程において、インターネット上のマーケットプレイスを通じて最適なサービスを受けられること。
3. 状況に応じて製造の順番などは適宜最適化されること
4. 最終的にはヒトが創造的なアイディアを生み出し、監督し、意思決定を行う主体であることを忘れてはならない
製品となるモノ、原料、部品と、製造する機器や機械が工場内外を超え、インターネット上でつながり、その時の状況に応じて必要なリソースを必要な時に割り当て、最も効率よく生産性の高い方法で製造されるという壮大なビジョンです。これが、「最適化されたサイバー・フィジカル・システム」とのことです。ここで、ウェゲナー博士は、先のポイントの4番目、ヒトの重要性を強調しています。モノやシステムが賢くなったからと言ってヒトの役割がなくなるわけでなく、上流の部分における重要なミッションを遂行することを再認識すべきということです。
ドイツでのIndusrie 4.0は官民協力のもと、製造業をはじめ、多数の機器メーカー、研究所、標準化団体、業界団体に加え、IT企業からなる大きな組織で運営が開始されはじめました。そして、その方向性は革命(revolution)ではなく、進化(evolution)を実現することだとも、ウェゲナー博士は述べました。
進化のポイントは「リアルとバーチャルの融合」「設計とプロセスの融合」
Industrie 4.0における進化の過程において以下の2つが“てこ”としてカギを握るとウェゲナー博士は述べます。
リアルとバーチャルの融合
実際の生産機械とデジタルデザイン(シミュレーション)の有機的組み合わせ。製品のデザイン段階から、計画、エンジニアリング、実行、サービスに至る全過程において、リアルとバーチャルを融合させる。これにより10%の生産性向上と80%の時間短縮が可能になります。ウェゲナー博士は、切削加工を例に説明を行いました。
設計とプロセスの融合
従来は2段階で実施されていた「製品開発」と「商品化(量産)」を、一気通貫で行うことにより、市場投入までの時間(Time-to-market)を短縮化。効率と柔軟性も向上する。ここで重要なことは、「製品開発」と「商品化(量産)」との相互運用性を備えること。なぜなら、「製品開発」にはリアルタイム性が無いが、「商品化(量産)」はリアルタイムなので、そこに連続性を持たせることが必要だからです。
経営レベルと作業現場とをシームレスにつなぐ
そこで、大きな課題となるのが、経営レベルと作業現場とをいかにシームレスにつなぐのかということです。経営レベルでは、人と機械がコミュニケートし、作業現場では機械と機械がコミュニケートします。それぞれのリアルタイム性や、時定数、扱うデータの種類や基準が大きく異なります。
ここはIndustrie 4.0の肝に当たる部分で、そのためには標準化や規格化が必要で、そのための標準化ロードマップも用意されているとのことです(The German Standardization Roadmap Indstrie 4.0)。
「Industrie 4.0の目指すゴールや課題解決に向けて、シーメンスではDigital Enterprise Platformを投入して産業界に貢献しています」。そうヴェゲナー博士は述べました。これは、設計とバーチャル製造を受け持つPLM(Product Lifecycle Management)と、製造現場での自動化を受け持つTIA(Totally Integrated Automation)から構成され、この2つの機能をシームレスにつなぐアーキテクチャとなっています。
このような取り組みを含め、シーメンスは確実にIndustrie 4.0の実現に貢献しているということで講演は締めくくられました。
次回は、私自身が登壇したセッション、「M2M/IoTがもたらすビッグデータ活用の実際 ~お客様と共に生み出した先進事例から学ぶ~」をお届けします。