M2M/IoTがもたらすビッグデータ活用の実際 ~お客様と共に生み出した先進事例から学ぶ~


本連載では、2014年3月5日に日経ものづくり・日経テクノロジーオンライン・日経BPイノベーションICT研究所の主催により開催された、「Factory 2014」と題したフォーラムの内容を紹介しています。最終回は私、SAPジャパンの大本による講演内容をお伝えします。

前回までの内容はこちら
Industrie 4.0 -次世代ものづくり環境のための確かな道すじ
タイムリーな情報収集とインダストリアルインターネットが実現する世界

リアルタイムでのビッグデータ処理が生命線

Exif_JPEG_PICTURESAPは創業42年ですが、過去30数年は、ERPなど基幹システム事業が主体でした。しかしここ7〜8年は分析系、モバイル、データベース、クラウドなど、ERP以外の事業が6割を占めるようになっています。企業のバックエンドシステムを提供するベンダーから、フロントエンドを支える事業に軸足が移ってきており、その中で今注目しているのがビッグデータです。

そもそも、ビッグデータとは何でしょうか。

「高ボリューム(Volume)、高速度(Velocity)、高バラエティ(Variety)の3つのVの情報資産のいずれか(あるいはすべて)であり、新しい形の処理を必要とし、意思決定の高度化、見識の発見、プロセスの最適化に寄与するもの」という定義があります(現ガートナーのアナリスト、ダグ・レイニーによる定義)。このようなビッグデータをリアルタイムで処理することにより、スピーディーに状況把握、分析、意思決定を行い、必要なアクションまでの時間を短縮し無駄をなくすことが重要と私たちは考えています。

そこでのキーワードが「予測」です。センサーのデータは日々、止めどなく流れ続けています。リアルタイムでそうした実データを捕足して、予見・予測に活用していく。それによってあらかじめ決めておいた手を打つことができます。ここで重要なのは予測の精度ではなく、確からしい予想をできるだけ迅速に導きだすその「スピード」です。

ビッグデータの活用は、バリューチェーン全体で見たときに、下流であるアフターセールスやマーケティングがフォーカスされがちです。しかし実は、上流の、工場におけるリアルタイムでの生産調整や歩留り把握などの生産工程についても効果的です。また、例えば社内にある受注・購買・請求・売掛回収・決裁といった全取引データのリアルタイム解析にも大きな効力を発揮します。

SAPでは、このようなリアルタイム分析をするためのインメモリープラットフォーム「SAP HANA」をキーテクノロジーとして活用しています。

センサーデータのリアルタイム解析でレースを勝利に――マクラーレンの事例

グローバル企業における「ビッグデータ」活用事例について紹介します。

一つ目は、F1レースでおなじみのマクラーレンです。SAPではマクラーレンと共同で取り組みを行っています。具体的には、フォーミュラーカーにセンサーを150あまり取り付け、サスペンションの挙動やエンジンの燃焼効率などを把握します。そのデータはほぼ毎秒というペースで飛んできて、そのデータ量は、1周ごとに約2GB、1レースでは3TBにものぼります。従来は、集めた後に約5時間をかけてデータを解析して結論を出していましたが、SAP HANAが約1秒、従来の1万4000倍のスピードでそれらのデータをリアルタイムで解析可能にしました。そのため、レース実行中にシミュレーションを行い、勝利するために必要な情報を導きだします。

いつピットインすればいいのか、タイヤはどれくらいで摩耗してしまうのか。このまま続けると何位になるのか。順位を上げるにはどんなアクションをすべきなのか。リアルタイムでビッグデータを解析することにより、精度の高いレース運びを実現しています。


 YouTube: マクラーレンをSAP HANAでもっと速く!徹底したデータ主義が変えるビジネス (日本語字幕つき、2分08秒)

予測分析による製品テスト工程の革新――メルセデスAMGの事例

次は、メルセデスAMGの事例です。

エンジン開発の際の製品テストは、従来は多数のセンサーから上がってくる秒間数千から数万のデータを約50分かかるテストの終了時にデータとして収集、その後解析を行うというものでした。リアルタイム処理ではないので途中で何が起こっているかわからないし、全データを解析した後で失敗が判明することも少なくありません。

しかしながら、取得したセンサーデータをリアルタイムで解析するようになったら、テスト開始後2分で成功か失敗かが判明するので、不合格になりそうなものについては最後までテストを実施しなくても済みます。時間面、コスト面で大幅にテスト効率が上がり、しかも、それほど大掛かりな仕組みでないこともメリットです。これも前述の「SAP HANA」が持つインメモリーデータベース機構と統計解析エンジンを活用して実現しています。

参考記事:マクラーレンとメルセデスAMGが実践!超膨大センサーデータのリアルタイム解析による予見分析

タイヤの異常を監視するCyber Fleet――ピレリの事例

さらにもうひとつ、自動車関連の事例を紹介しましょう。タイヤメーカーの事例です。

ピレリ社では、タイヤにセンサーを取り付け、タイヤの空気圧や温度、走行距離などのデータをリモートで監視し、異常やメンテナンス、燃費向上、走行ガイドラインなどに関わるデータや情報をユーザーに提供しています。例えば600台のトラックの場合、車両あたり6個のタイヤがあり、それぞれが2分に1回データを送信、1日16時間、週6日間稼働とすると、年間約400億イベントが発生することになります。

このおびただしい数のデータをリアルタイムで処理するのは、SAP HANAです。ここで分析されたデータは、ドライバー、車のオーナー、管理者、メンテナンス担当、タイヤメーカーのR&D部門などにモバイルアプリを通してリアルタイムに届けられます。

ピレリ社では、ドイツで試験運用、ブラジルで商業運用を行っており、この2国間における差異が明確になりました。ドイツとブラジルとでは、タイヤの使用頻度、状況、トレンドがまったく異なっているので、アラートのしきい値やガイドラインの出し方、タイヤ自体に求められる要求も異なります。つまり、ドイツとブラジルで売れるタイヤと必要とされる情報の違いがつぶさにわかったのです。

参考記事:ピレリ社の24時間タイヤ保守サービスを支える予見分析テクノロジー

トラクターの信頼性分析と故障予防――ジョーン・ディアの事例

最後に紹介するのは、米国の農機具会社ジョーン・ディアの事例です。個別のトラクター1台1台にセンサーがとりつけられ、それらの車両情報とユーザーごとのワランティ情報を突き合わせて、将来の故障の予測を行い、SLAに基づいた高付加価値サービスを提供するものというものです。具体的には、エンジン温度、油圧、回転数、二酸化炭素排出量等々をモニターし、しきい値を超えたり、何らかパターンに変化が現れた場合には瞬時にアラートを出すといった運用です。この情報がオーナーに伝えられるのは当然ですが、同時にディーラー側にも情報が伝えられ、サービスパーツの在庫や品質の最適化がなされます。

こうしたデータがたまってくると、オーナーやディーラーのみならず、アフターセールスや購買部門、保守メンテ、メーカーのエンジニアリングやR&Dに対しても、今後のサービス向上や開発に向けた有益かつ必要な情報を一元的に提供できるようになります。

SAPの今後の取り組み――予測分析を拡大、クラウドベースのサービス重視

SAPの今後の方向性としては、従来のビジネスアナリティクスに加え、現在はSAP HANAに代表されるインメモリーの技術によりリアルタイム処理に注力し、この先は機械学習による予測分析とマルチデバイスの活用をより拡大させる方向を考えています。また、その提供方法もソフトウェアとしてだけでなく、クラウドベースのサービスとしての提供も推進しています。

ここでこれまでとの大きな違いの一つが情報ライフサイクルの変革です。従来は情報処理の一連の流れが構造化されており、一つの結論を出すまでに長いライフサイクルを必要としていました。しかしながら、このビッグデータ時代においては、リアルタイムでの高速処理が可能なので、情報処理を短サイクルでスパイラル的に行うことにより、より迅速に必要な人に必要な情報をタイムリーに届けることができます。

デザインシンキングによる「ヒト」を意識したアプローチ

ご紹介した事例のようなイノベーションは、一足飛びに実現されたわけではありません。私たちはそれを実現するために、「デザインシンキング」という、イノベーションを生み出す新しいアプローチを採用しています。従来は、「ビジネス」と「技術」という側面からプロセス改革を行うアプローチが主流でした。しかしこのデザインシンキングでは、「ヒト」という側面を加えその潜在的なニーズを広く定義し、その後で「ヒト」と技術、「ヒト」とビジネスという観点から評価し、新しいビジネスを生み出すイニシアチブを実行しています。

お客様が本当は何を必要としているか、現場の従業員が何を求めているかに着目します。顧客企業とワークショップを行い、その顧客企業の先にいる、最終のお客様にどんな価値が提供できるかを、一緒に検討しています。そして出てきた数百ものアイデアのうち、イノベーションの可能性が高く、また経済合理性があって実現可能なものを具現化します。このようなアプローチにより、新たなサービスにつなげてきています。


 YouTube: デザイン・シンキング – One SAP Solution Revolution (日本語字幕つき、2分30秒)

現在、SAP HANAを使っていただいているお客企業は全世界で約3000社を超えています。その7割ほどでビッグデータ、予測、統計などを活用していただいており、これらのお客様と次世代の情報活用や経営革新への取り組みを行っています。今回の講演では、その経験のなかから、いくつかの事例をピックアップしてお話しさせていただきました。

より詳しい説明や資料をご希望の方は、ぜひお気軽にSAPジャパンまでお問い合わせください。

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