【JSUG Leaders Exchange Interview】 ビッグデータ時代:私たちが自らIT部門を否定するところから未来が開く


275538_l_srgb_s_glこの数年、企業のIT施策における重要なテーマの1つとして、しばしば議論の対象となるのが「ビッグデータ活用」です。しかし、それぞれの目的に応じて運用される独自のシステム環境の中で、データをどのように集め、どのように使えばいいのか、頭を悩ませている企業も少なくありません。この「ビッグデータ活用」というテーマについては、特にSAP HANAのリリース以降、SAPジャパンのユーザー会(JSUG)においても活発な議論が交わされるようになり、各企業におけるさまざまな取り組みも報告されています。

そこで今回から、JSUG参加企業のリーダー層が集い、ITに関連した経営課題を議論する場として、2009年から開催されている「JSUG Leaders Exchange」(以下、JSUG LEX)の主要メンバーにお話をうかがいながら、ビッグデータ時代における企業のデータ活用についてご紹介していこうと思います。第1回目の今回は、2008年から3年間、JSUG会長も務め、去年までJSUG LEXの世話役として運営に携わった日本郵船株式会社 アドバイザーの安永豊氏へのインタビューです(聞き手:SAPジャパン 濱本 秋紀)。

IT部門のリーダー層が活発な議論を交わすJSUG LEX

─まずJSUG LEXについてお聞かせください。

安永 JSUG(※)の幅広い活動の中でも、企業のIT部門のマネージメント層やリーダー層が集い、経営課題を議論する場として開催されているのが「JSUG LEX」です。2009年の発足以来、今年で6期目を迎えることとなり、企業価値の向上につながるIT活用について、多くの参加者による熱い議論が交わされています。

※JSUGについてはhttp://www.jsug.org/about/を参照。

─JSUG LEXの発足は、安永さんがJSUG会長の時だったと聞いていますが。

安永 はい、その通りです。JSUG LEXを立ち上げるきっかけとなったのは、2008年6月にワルドルフを訪問した際、現在の共同CEOであるジム・スナーベさんとお会いしたことです。お昼をご一緒していた時に「JSUG会長として成功したといえるのは、どういう状態になった時ですか?」とジムさんから質問され、会長に就任してからまだ半年しか経っていなかった私は、「ITの価値を日本ユーザー企業の経営層が真に理解するようになった時ではないでしょうか」と、シドロモドロになりながら答えた記憶があります。その後もスナーベさんの言葉がずっと心に残っていて、「これまでのJSUGにはなかった経営層を対象とした活動を立ち上げて、ITと企業価値について議論してみてはどうだろうか」と思うようになりました。それがJSUG LEXの原型です。

─メンバー集めには苦労されませんでしたか?

安永 たしかに最初は苦労しました。とにかく、何をするのかがはっきりしていない中で、自分から手を挙げてやってみようという人はなかなかいません。そこで第1期はSAPジャパンの営業の方のお力もお借りしてCIOクラスの経営層・経営補佐層を逆指名する形でメンバーを募りました。そして、第1期の議論の中で次世代の人材育成が課題として出てきたことから、第2期は次世代の経営層クラスを対象としました。

─それからは順調に?

安永 そうですね。期を重ねるごとに若手リーダー層からの参加希望が寄せられるようになり、現在では年齢・立場を問わずあらゆるIT部門の担当者が参加しています。特に完全に公募の形を取り始めた一昨年度あたりからは意識の高い若手リーダーが現れ始め、活発な議論から多くの成果が生み出されました。

ビッグデータ時代のIT部門の新たな役割

─JSUG LEXでは毎年、時流を踏まえたテーマを設定していますが、2013年度(第5期)のテーマは「データ活用」でした。

安永 はい。ビッグデータだと議論の範囲が狭くなってしまうので、もう少し広いテーマとして「データ活用」を掲げました。ビッグデータについては、どうしても言葉だけが先行しているイメージが強く、特にBtoBビジネスを展開している企業にとって、未だ自分の問題としてとらえ切れず、「実態はどうなのか?」といった疑問の声がしばしば聞かれます。

─SAPでは、以前からSAP HANAによるビッグデータのリアルタイム分析を強力に打ち出してきました。2013年にはSAP Business SuiteをSAP HANA上で動かすSAP Business Suite powered by SAP HANAを発表し、ついにインメモリー上でSAP ERPが動く時代が始まろうとしています。

安永 その点は非常に重要です。これまでのIT部門は、データベースというシステムには気を配っていたものの、そこに格納されるデータの活用については自分たちの問題として捉えてきませんでした。しかし、ビッグデータ時代を迎え、IT部門がデータに直接触れる機会が増えたことで、これからはデータ活用にも真剣に取り組まなければならないという問題意識が芽生えつつあります。さらにSAPの標準保守が終了する2020年が迫る中、IT部門はいつまでも基幹システムのおもり役をしているだけでいいのかという声もあります。JSUG LEXの2013年のテーマ「データ活用」は、こうした背景から生まれたものです。

自己否定から始まるIT部門の新たな価値創造

─第5期のJSUG LEXの参加企業を見ると、食品加工業、商社、情報系企業など、ビッグデータとの関連が高い企業に加え、組み立て製造業、プロセス・化学系など、ビッグデータとは縁の薄い企業も多く見られます。

安永 そうですね。特に業界を絞ることはしていません。その理由は、JSUG LEXが直接的なデータ活用ばかりでなく、将来を見据えた最新情報の共有や会員相互の交流による啓蒙も活動目的としているからです。データを経営課題の解決に活用するという視点は業界に関わりなく、どんな企業にとっても必要な時代になっていると思います。

─メンバーの方はそれぞれ、どのような思いで参加されているのですか?

安永 参加メンバーはほぼすべて、今のIT部門から変わっていかなければならないという共通した危機意識を持っています。基幹システムがクラウド化されれば、IT部門が担っている保守・運用業務の大部分はなくなり、仕事としての価値が失われかねない状況に直面します。極端な言い方かもしれませんが、今のIT部門の在り方を否定するところから始めなければ、この危機を乗り越えて、新しい時代に追随していくことはできないのです。

─JSUG LEX ではこの1年間、どのような活動をされてきましたか?

安永 全6回の会合を持ちました。そのうちの4回は、JSUGユーザー企業の経営層の方に講演をお願いして、外部では聞けない生々しいお話をうかがっています。第1回目は私が「海運業におけるデータ活用」について講演を行いました。その後も、トラスコ中山株式会社の物流部長を務める佐々木氏、日本航空株式会社の常勤監査役である鈴鹿氏、また日本たばこ産業株式会社のIT部次長の楠根氏、村木氏らが、それぞれの所属企業のIT課題とその解決に向けた取り組みを披露されました。講演を聞いた次の集まりでは、そこで得られた「気付き」を当番のメンバーが発表しています。

─先進企業の事例からは、どのような「気付き」が生まれていますか?

安永 これからのIT部門が何をしていくべきかについて、しっかりとイメージすることができたことが大きいと思います。そこから出てきたのが、イノベーションの牽引、IT部門の人材育成、経営陣とのコミュニケーションという3つの重点課題です。今後、IT部門が企業価値の向上に貢献していくためには、まさしくこの3つが欠かせない要素になることは間違いありません。

第6期JSUG LEXのテーマは「変化への対応」

─2014年5月から第6期のJSUG LEXがスタートしますね。

安永 はい。第6期では、第5期のテーマ「データ活用」を一歩進めて、「変化への対応」をキーワードに議論をより深めていきます。SAPユーザーの現状として、高い危機意識を抱いてIT部門の変革に乗り出している企業と、現状の改善策を見出せずにこれまで通りの運用を続けている企業に2極化する傾向が見られます。JSUGでは、1人でも多くのSAPユーザーが危機意識を持ち、変化への対応を遂げられるように、JSUG LEXへの積極的な参加を呼びかけています。

─最後に、JSUG LEXへの参加を検討しているユーザー企業にメッセージをお願いします。

安永 日本のSAPユーザー全体の底上げを図っていくことが、JSUGに与えられた使命です。そのためにも、JSUG LEXには新しいユーザーの皆様にどんどん参加していただき、より多くの方と問題意識を共有していきたいと考えています。JSUG LEXでは、先進企業の生の事例や他社のIT部門との交流など、社内にいるだけでは得られない貴重な経験もできますので、ぜひ検討してみてください。

─ありがとうございました。

次回は、引き続き安永氏のインタビューから、日本郵船のデータ活用に向けての事例をご紹介させていただきます。

■略歴

安永豊(やすなが・ゆたか)
日本郵船株式会社 アドバイザー
JSUG常任理事

bros_37126_011975年に東京大学法学部を卒業後、日本郵船に入社。2度の北米勤務を経て、北米内陸輸送網の整備やアジアシステム開発を担当。2002年からは経営委員・CIOを務め、定期船グローバル基幹システムの再構築、SAPをベースとした本社会計システムの再構築などを手がけた。2007年4月からは同社顧問に就任するとともに、日本郵船グループのMTIの代表取締役社長を兼務。2013年6月には同じく日本郵船グループの日本海洋科学の取締役相談役に就任し、現在に至る。日本郵船グループの実務のかたわら、2008年1月からはJSUG会長も務め、日本のSAPユーザーを代表して、サービスの改善提言や新製品開発へのユーザーの声の反映などを指揮。2011年4月より同常任理事。

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