【JSUG Leaders Exchange Interview】 各部門が本気で考えたからこそ見えた「データ活用」の気付き


Cargo Ship Transporting Containers前回は、SAPジャパンのユーザー会であるJSUGが開催しているITリーダー層の勉強会「JSUG Leaders Exchange」(以下、JSUG LEX)の活動において、2013年度は「データ活用」をテーマに議論を重ねてきたことをご紹介しました。今回は、積極的なデータ活用を通じて成果を積み重ねている日本郵船株式会社の事例について、前回に引き続きJSUGの常任理事で、日本郵船株式会社のアドバイザーを務める安永豊氏にお話をうかがいました(聞き手:SAPジャパン 濱本 秋紀)。

SAP ERPで定期船事業の基幹システムをグローバル統合

─日本郵船といえば、世界を代表する海運会社ですね。

安永 1885年(明治18年)に郵便汽船三菱会社と共同運輸会社が合併して設立されました。現在は、海・陸・空にまたがるグローバルな総合物流企業グループとして、世界300以上の物流拠点に800隻以上の運航船舶が乗り入れ、トラック、ターミナル、航空機などあらゆる物流手段を活用して、多様化する物流のニーズに応えています。

─日本郵船の事業、業務について、もう少し詳しくお聞かせください

安永 一般貨物輸送事業、不定期専用船事業、客船事業、不動産業、その他の事業の5つの事業から成り立っています。売上高でみると「定期船事業」と「不定期船事業」の2つが主力の事業です。

─「定期船事業」と「不定期船事業」の違いは何ですか?

安永 貨物を運ぶ貨物船は、運行形態によって「定期船」と「不定期船」の2つに大別されます。定期船とは、寄港地とスケジュールがあらかじめ決まっている船のことです。主にコンテナ船を使って家電製品や家具、食料品など、ロット数の多い商品を運びます。これに対して、不定期船は船一隻を貸し出して、お客様の指定通りの寄港地に、指定通りのスケジュールで運航する形態です。運ぶ貨物も木材、石油、セメントなど、ロット単位では管理できないものが中心となります。

─定期船と不定期船でデータの扱い方に違いがあるのですか?

安永 不定期船は、いわば船一隻で1ロットに相当するものも少なくありません。1つの荷物で5万トン、10万トン、20万トンという大きな単位を扱うため、現時点で細かいデータ管理は不要という考え方です。一方、ロット単位で貨物をやりとりする定期船は、データの詳細な管理が必要になります。例えば、1つのコンテナにビデオデッキが4,000台というように、管理の単位が細かく、お客様ごとにロットナンバーや、SKU(stock-keeping unit:最小在庫管理単位)もすべて把握できていなければなりません。

─定期船事業のほうがより細かいデータ管理が求められるということですね。

安永 その通りです。しかも、貨物は日本、アジア、アメリカ、ヨーロッパと世界中のエリアをまたいで動き、港に到着してからも、倉庫内で管理されることもあれば、トラックに積まれたり、鉄道に乗せられたりしながら、お客様先まで運ばれることもあります。貨物の終着点を港にするか、倉庫にするかはお客様の要望によって変わるため、貨物の管理は複雑にならざるを得ません。

─SAP ERPを導入されたのはいつですか。

安永 2006年に会計システムをSAP ERPで統合したのが始まりです。その後2008年には定期船事業の基幹システムを別のパッケージをベースに構築し会計系SAP ERPと連携、この業務領域をグローバルで統合しました。

─グローバル統合する前は、どういった苦労がありましたか。

安永 グローバルの各リージョンで個別システムを導入して管理していました。リージョンごとにデータベースがあり、バケツリレー方式でデータを受け渡していたため、あるリージョンの貨物の管理状況は、データを受け取るまでは別のリージョンでは確認できませんでした。現在はグローバルシステムによって権限管理が適正化され、各リージョンにコンテナやトラックがどれだけの量があるかを、リアルタイムに把握することが可能になりました。

データを活用してコンテナの回転率を向上、業務の効率化を実現

─システム統合でデータの扱い方はどう変わりましたか。

安永 1つの例としてデータの活用でコンテナの回転率を向上させ、業務の効率化とコスト削減を実現しつつあります。定期船のビジネスは、コンテナをお客様に貸し出して荷物を積み込み、目的地に着いたら荷物を降ろして、空いたコンテナを戻してもらいます。そのため、空いたコンテナをその場に寝かせておいても、利益は生み出されません。空コンテナの回転数をいかに上げるかが定期船事業の重要課題の1つです。

─システム統合前は、空コンテナの管理が十分ではなかった?

安永 はい。コンテナの在庫管理は、管理担当者の勘と経験に頼るところが大でした。コンテナの状況は各リージョンで個別に管理していたので、グローバルレベルでの在庫管理や空コンテナの手配が効率的に行われていたとは必ずしも言い難く、例えばアメリカの拠点から、アジアの拠点にどれだけの空コンテナが眠っているかまでは見ていなかったので、営業担当者は空コンテナの有無にかかわらず、ひたすら営業活動に励んでブッキングを入れることに注力し、商談が成立するとコストをかけてでも空コンテナを調達して発送地域まで運ぶということが日常的に行われていました。

─それが、グローバルでデータを1つのビューに統合したことで、コンテナの在庫状況が一元的に把握できるようになったわけですね。

安永 リードタイムが正確に図れるようになり、不足や余剰が生じて初めて都度対応するのでなく、例えば需要の発生が見込まれる拠点には多めに空コンテナを置いておこうというように、最も安くコンテナを調達し、最も利益率の高い手段で配送することが可能になりました。

─日本郵船が保有するコンテナの数はグローバル全体でどれくらいあるのでしょうか?

安永 75万個近くあります。それを年間で平均5から6回転させるわけですが、コンテナが空になっている時間を短縮し、コンテナの移送コストを抑えるとともに回転効率を上げることで収益の向上は確実に見込まれます。データ活用による将来のストックやフローの予測の向上により、今年度は年間100億円近くのコスト削減が期待されています。

成功のポイントはIT部門がビジネス視点でデータ活用を考えること

─データを活用した需要予測は、2008年に基幹システムをグローバル統合したときから意図されていたものですか?

安永 その時点ではデータ活用について具体的にはあまり意識されていませんでした。データが一元的に管理され、蓄積されていく過程で、これらのデータを有効に活用すれば新しい知見が得られるのではないかという発想を持つようになりました。

─日本郵船がデータを活用して、コンテナの回転率を上げることに成功した要因はどこにあるとお考えですか?

安永 営業を中心としたビジネス部門とITを含む技術部門が協力体制を組み、全社を挙げて課題解決に取り組んだことです。ただ、2008年にシステムのグローバル統合を終えてから、データを活用するところまでたどり着くまでに結構な時間がかかりました。IT部門は『とにかくデータを一元化しなければ』という命題を持ちながら動いていましたし、営業部門は需要予測の精度を高めたいと思いながら試行錯誤していたことは事実なのですが、最初のうちはIT部門と営業部門の思いが必ずしも一致していなかったということです。

─その中で問題意識が芽生えたのですか。

安永 ええ。データ活用について各部門が本気で考えた結果、コンテナの在庫状況を世界共通のデータベースに入れ、グローバルレベルでの需要予測とともに見える化し、それをもとに営業が行動することで、コンテナの回転率を高められることに気付きました。そして、コックピット化によってコンテナの在庫・回送状況を可視化したことで、ようやくその価値を発揮させることができたのだと思います。

─IT部門がビジネス視点を持ちながら、営業部門に歩み寄ったということですね。

安永 その通りで、今回これが上手く行ったのは営業担当者まで含めて国や組織を越えて、関係者が主体的に取り組んだことがあったからだと思います。実際、JSUG LEXでもIT部門とビジネス部門のコミュニケーションはたびたび俎上に上がる課題で、何度も議論が重ねられてきました。その中で社内の風通しの良さもデータ活用を成功させる鍵になると話しています。

─ありがとうございました。

今回の事例はグローバル全体のデータ活用の話でしたが、小さな範囲で実施するだけでも予想もしなかった効果が得られることもあります。日本郵船ではもう1つの成功事例として、「貨物船の航海情報」を分析することにより、燃料費の削減にも成功しています。次回は、小さなデータ分析で燃料費削減という大きな効果を獲得した同社の取り組みについてご紹介します。

■略歴

安永豊(やすなが・ゆたか)
日本郵船株式会社 アドバイザー
JSUG常任理事

bros_37126_011975年に東京大学法学部を卒業後、日本郵船に入社。2度の北米勤務を経て、北米内陸輸送網の整備やアジアシステム開発を担当。2002年からは経営委員・CIOを務め、定期船グローバル基幹システムの再構築、SAPをベースとした本社会計システムの再構築などを手がけた。2007年4月からは同社顧問に就任するとともに、日本郵船グループのMTIの代表取締役社長を兼務。2013年6月には同じく日本郵船グループの日本海洋科学の取締役相談役に就任し、現在に至る。日本郵船グループの実務のかたわら、2008年1月からはJSUG会長も務め、日本のSAPユーザーを代表して、サービスの改善提言や新製品開発へのユーザーの声の反映などを指揮。2011年4月より同常任理事。

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