クラウドERPを1拠点あたり2か月でロールアウト、120か国の業務プロセスを束ねるヒルティ


ヒルティ Hilti は世界有数の工具メーカーである。リヒテンシュタインに本社を置き、グローバルの従業員は21,000人。同国最大の企業でもある。売上は約42億スイスフラン(約4,900億円)。顧客への直販と直接サービスを基本としているため、世界120か国に従業員がいて、営業活動と顧客サービスに従事している。

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日本ヒルティのWebサイト。http://www.hilti.co.jp/

以下は Wikipedia「ヒルティ」より引用(抜粋)。

世界120ヶ国以上に拠点を置く、ヨーロッパを代表する多国籍企業の1つである。建設現場で使われるドリルやブレーカー(ハツリ機)、鋲打機、あと施工アンカー等を得意とする。自らをファスニングメーカーと称し、物の取り付けに関る材料と工具を現場の全工程において提供している。

高価格戦略をマーケティングの基本としている。そのための付加価値として、先駆的な機能・性能に加えて、疲れにくさや洗練されたデザイン、盗難防止装置等、性能表にあらわれない部分にも力を入れている。最近では、コンサルティングや保証期間の延長、貸出機サービス付きのリース契約といった、サービス分野での取り組みも評価されている。

ヨーロッパ市場でのシェアは非常に高い。日本でのシェアは決して高くはないが、建設現場においては、鋲打機やハンマードリルを「ヒルティ」、内コーン式打ち込みアンカーを「ヒルティアンカー」と呼ぶことがあるほどに、知名度が高い(例:「日立のヒルティ」)。なお、火薬式鋲打機に関しては国内市場をほとんど独占している。

ヒルティの経営方針は、大規模な敵対的企業買収(M&A)を実施せず、労働者の処遇を優先・尊重するとされている。2011年に発表された「働きがいのあるグローバル企業(Great Place to Work)」において世界ベスト15位に選出された。これは米国企業を除けば第2位である。

※筆者注:ちなみに2013年においても、やはり世界ベスト15位を維持している。

余談だが、2ちゃんねるといえば、私の中では、ほとんど罵詈雑言のみが飛び交う掲示板、というイメージである。正直あまりの表現の汚さに、見るだけでもげんなりすることが多い。

ところが、Googleサーチで偶然見つけたこの板「ヒルティの工具ってどうよ」は、珍しく、ポジティブな意見が次々に登場する。たとえば。

ヒルティ使うと信者になるよ。
電ドルやインパクトに限っては、モノは他メーカーと大差ないさ。
しかしアフターがいい。比べものにならない。
嘘だと思ったら買ってみ。
本体はもちろん電池まで保証付き、しかもリースもあって、
どんなにハードに使って壊れても、修理に出したら次の日に
貸出機が出るし、修理は出して3日後に戻ってくるし。
リースだと優先修理するから必ず3日で戻る。
そんなメーカーどこにある?
プロには最高。プロじゃないヤツには高いだけ。

こんな声が次々に書き込まれているのである。もとより2ちゃんねるではあるが、ヒルティに対するプロからの信頼の厚さが感じられる。

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そのHiltiは2000年から、「One Hilti」ビジョンのもと、Global Process and Dataグローバルでのプロセス&データ統合)と呼ぶプロジェクトを開始。グローバルでの企業活動を統合・標準化してムダ・ムラのないオペレーションを実現すべく、全社的な改革を推進してきた。コアとなるITプラットフォームにはSAPのERP製品 SAP Business Suite を採用し、ヨーロッパ主要国やアメリカを中心に展開してきた。

GPDプロジェクトについては、リヒテンシュタイン大学ビジネススクールが作成しているケーススタディに詳しい。英文14ページでけっこうな分量だが、ビジネス改革プロジェクトをいかに現場従業員に受け入れてもらうか?といったヒト面のストーリーに多くの記述が割かれており、ちょっと日本っぽい(笑)。

■How Hilti Masters Transformation (英文、14ページ)
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上記ケーススタディは2011年に発表されたものだが、この時点でGPDプロジェクトはフェーズ2が進行中だった。

  • フェーズ1:(2000年~2006年5月まで) 売上が多い25か国、全8工場、および本社を対象に、コアITとして SAP Business Suite を導入、プロセスとデータをグローバルレベルで統合した。
  • フェーズ2:(~2010年時点で進行中) 対象を50か国にまで拡張し、全社売上の95%と従業員の90%までを One Hilti に統合していく。

このフェーズ2とほぼ時を同じくして登場したのが、SAPのクラウドERP製品、SAP Business ByDesign (ビジネス・バイ・デザイン、以下ByDesign)である。

SAPに詳しくない方が大半だと思われるので、ごく簡単に解説させていただく。

SAP Business Suiteとは、SAP ERP(旧来のR/3、最新はSAP ECC 6.0)を含む統合基幹業務パッケージの名称である。SAP創業以来の主力商品であり、業界内でもダントツのシェアを持つナンバーワン商品である。「オンプレミス」型、つまり導入するお客様企業が自社内のサーバーにソフトウェアをインストールして使う形が基本だ。

一方、ほぼ同じ機能を「クラウド」型で提供しているのが SAP Business ByDesign だ。2007年に登場し、

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財務会計・管理会計
販売管理
生産管理
サプライチェーン管理(SCM)
倉庫・ロジスティクス管理
サービス管理
マーケティング
購買管理(SRM)
プロジェクト管理
固定資産管理
経費精算
人事管理
分析・レポーティング

といった企業活動の幅広い領域をカバーする、いわばSAP ERPの弟分ともいえる存在だ。

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ヒルティはフェーズ1では SAP Business Suite を25か国(ヨーロッパ主要国やアメリカなど)に導入していたが、これをフェーズ2で次の25か国つまり中堅・中小国の拠点にオンプレミスで導入するのは、相対的に高くつく。オンプレミスの場合、ビジネス規模が小さくとも、「ハードウェア」と「IT管理者」を1セットずつ置かねばならないからだ。

そこへタイミングよく、ブロードバンドとクラウドの波が到着。それ以前であれば回線速度が遅すぎて遠隔地設置では使い物にならなかったアプリケーションが、インターネット越しでも実用に耐えるようになった。各拠点側にインストールしなければならないのは原則としてブラウザのみなので、ハードウェアもIT管理者も不要であり、サーバーもクラウドに一極集中されることでキャパシティに悩む必要がなくなる。

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”SAPクラウドソリューションは支社での利用に最適です。ITコスト削減、製品の市場投入までの時間短縮を実現しながら、小規模な支社でもすべての機能が利用できます。” (後述のビデオより)

さらにByDesignでは各国ごとの税制や法制度、商習慣に対応するための「ローカリゼーション・ツールキット」を提供し、現地ニーズにも柔軟に対応可能としている。もちろん、主要国についてはSAPがローカル対応済みのものを提供しており、2013年12月現在、日本を含む18か国についてはローカル対応済みである。

そして、中小拠点を管理している By Design(クラウド)と、本社で全社を管理している SAP Business Suite(オンプレミス)は、ハイブリッドに統合でき、全社が一体となって管理できる。ヒルティのような多国籍展開をしている企業には、まさにうってつけのシステムである。

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ヒルティによるSAP Business ByDesignの導入についてのビデオが公開されている。3分弱の短いものなので、ぜひご覧いただきたい(日本語字幕入り)。

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■世界120ヶ国以上に拠点を持つヒルティ社でSAP Business ByDesignを利用

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ビデオの中で、「未来型マーケット組織」(Market Organization of the Future)という表現が何度も出てくるが、これはヒルティの独自用語で、「ヒルティの営業拠点のあるべき姿」としてGPDプロジェクトの中核となっているコンセプトである。

物流やマーケティングなどの後方支援機能は本社や主要拠点に集中させ、ローカル拠点はテクニカル営業やカスタマーサポートなど顧客インターフェースに特化することで、顧客サービスの高度化とコスト最適を実現しようとしているのだ。

そしてそれを支えるバックボーンが、SAP Busienss SuiteとByDesignのハイブリッドである、というわけだ。

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この画面の右側にあるように、ヒルティはまずByDesignをスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナの3か国に導入、2012年7月に稼働させた。次がセルビア、モンテネグロ、アルバニアで、2012年10月に稼働。次はカザフスタンで、2013年4月。

今後はバルト3国、ウクライナ、ベラルーシ、カタール、バーレーン、ルーマニア、ブルガリア、ベトナム、ギリシャ、イスラエル、、、といった拠点に対して、2014年末までに導入を終える予定とのこと。

いずれもヒルティの拠点としては小さい部類に入る。まずは小拠点で経験を積み、「ローカル導入経験」を社内的にパッケージ化したうえで、大き目の拠点にも導入していこう、というヒルティのしたたかな戦略が見える。

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新しい国に拠点を構えるときは、すべての会計基準が現地の要件に合致し、リスク管理ができているかをSAPと共に確認する、ローカリゼーションプロジェクトを実施します。

ちなみに同社のこれまでの経験によれば、「ローカリゼーション・プロジェクト」は、拠点ごとのオペレーションの大きさによって3パターンに分けて考えられるが、小拠点では2~4週間、中拠点で4~6週間、大き目の拠点でも2~3か月ほどで完了できるとのこと。事前にある程度の準備をしておく必要はあるものの、平均2か月ほどでローカル導入が完了するというのは脅威の早さだ。

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ByDesignはすでに1,100社が導入し利用しているが、そのうち約100社が、ヒルティと同じような、「本社オンプレミス+支社クラウド」という2層ハイブリッド型(あと1,000社はクラウドだけを使う中堅中小企業)だ。

2013年10月には、ByDesignがSAP HANA対応することが発表された。つまりByDesignを稼働させているSAPクラウド内のデータベースがインメモリー化され、圧倒的な高速化が実現される。ERPのクラウド利用にさらにはずみがつくだろう。

顧客を「信者」にまでするヒルティの高品質サービスも、今後ByDesignとともに、さらにグローバルに拡大していくことだろう。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ヒルティ社のレビューを受けたものではありません。

筆者追記です。2014年1月9日の日経朝刊に下記の記事が掲載されましたね。これ、ByDesignです。

NEC、東南アで格安販売 企業向け基幹業務システム
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO65057970Y4A100C1TJ2000/

NECと独ソフト大手のSAPは東南アジア市場を共同で開拓する。各国の税制や商慣習に対応した基幹業務システムを共同開発。インターネット経由でソフトを使うクラウドサービスとして、現地に進出する日系企業や現地企業に販売する。システムを自前で構築するのと比べ10分の1程度の費用で導入できる点を売り物に、成長市場でのシェア固めを狙う。

SAPは財務・会計や人事、顧客管理といった企業経営に関する情報を一元管…(以下、有料会員のみ)

ポイントは「格安」ではなく「導入までの早さ」のほうにあるのですが、記事としては安さに焦点が当たってしまっているのはまあ仕方ないかな…

【参考リンク】

■SAPジャパン、クラウド型ERP「Business ByDesign」国内投入(2013年8月の記事)
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1308/27/news099.html
http://japan.zdnet.com/business-application/analysis/35036451/
http://ascii.jp/elem/000/000/820/820274/

■SAPのクラウド型ERP「Business ByDesign」がSA HANAベースに(2013年12月の記事)
http://news.mynavi.jp/news/2013/12/12/209/
http://biz.bcnranking.jp/article/explanation/1311/131128_135126.html

■2層ERPアプローチを実現する SAP Business ByDesign (オンプレミス+クラウドのハイブリッド・アプローチに関する日本語ブローシャ、16p)
https://www.sapjp.com/blog/archives/resource/sap-businessbydesign

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