【JSUG Leaders Exchange Interview】 企業経営と航空機の安全運航の共通点とは


Jet airplaneSAPのユーザーグループであるJSUGでは、ITを活用してビジネス変革を目指すユーザー企業を募り、企業価値向上に貢献するITのあるべき姿を議論する勉強会「JSUG Leaders Exchange」(以下、JSUG LEX)を毎年開催しています。前回のブログでは、昨年までJSUG LEXの代表として運営に携わってこられた日本郵船株式会社 アドバイザーの安永豊氏に、JSUG LEXの活動と意義、さらに昨年のテーマであった「データ活用」についてお話をうかがいました。今回からは、昨年JSUG常任理事にご就任され、5月からスタートした第6期JSUG LEXの代表となられた日本航空株式会社(以下、JAL) 常勤監査役の鈴鹿靖史氏に、2014年度のJSUG LEXの活動内容とビッグデータを中心としたデータ活用の重要性についてお話をうかがいます(聞き手:SAPジャパン 濱本 秋紀)。

異なる経歴の参加者が集うJSUG LEXの価値をさらに向上

─今年度のJSUG LEXの代表に就任されました。代表を引き受けた経緯と、その思いをお聞かせください。

鈴鹿 私とJSUG LEXとの関わりは、昨年7月、ゲスト講演者として呼ばれたことから始まります。まず驚いたのは、参加者の意識の高さでした。企業のIT部門が抱えている課題を「何としてでも解決したい」という熱い思いがひしひしと伝わってきて、「これはただごとではないぞ」と思ったのが第一印象です。講演でJALでの経験をお話すると、それに対する皆さんの反応もすごかった。私の話がそんなにお役に立つのであれば、JSUG LEX の場を借りて、ITを活用した企業変革に奮闘する皆さんを少しでも応援したいとの思いで、代表をお引き受けしました。

─かつてJALの整備本部の責任者を務め、SAP ERPをベースとした航空機整備管理システム「JAL Mighty」の導入を牽引されました。業務部門のご出身で、もともとITが専門ではないとお聞きしています。

鈴鹿 はい、私は入社以来、航空機整備や航空機の技術に携わってきたので、私にとってITは門外漢というか、むしろ苦手な分野だと思っていました。しかし、IT部門の話をよく聞いてみると、航空機の整備とITは共通している部分も多いことが分かってきたのです。たとえば、航空機は、エンジンや各システム、客室の座席、エンターテイメントシステムを含めて、機体のコンディションをすべて整備部門がしっかりと管理して、はじめて安全に空を飛ぶことができます。それはまさしく、IT部門が自社のIT環境を整備するのと同じことです。ですから、JSUG LEXの活動について当初は不安も感じましたが、ITが専門ではない私だからこそ、皆さんのプラスになる部分もあるのではと、前向きに捉えています。

─今年度のJSUG LEXにも、さまざまな経歴の方が参加されていますね?

鈴鹿 ITが専門の方、ジョブローテーションでさまざまな職種を担当してこられた方、システムのユーザー部門の方などさまざまな経歴の方が参加されています。そこで今年度からの新しい試みとして、それぞれ異なる経歴を歩んでこられた皆さんが、本音で語り合える時間をより多く設けようと考えています。JSUG LEXの会合は毎月1回、17時30分から20時までが基本ですが、終わってから21時くらいまで、有志の方と一緒に気軽に話せる時間を作りたい。そこで皆さんの悩みを共有して、解決の足がかりになればと思っています。

─その他、今年度の活動としてお考えの企画はありますか?

鈴鹿 JSUG LEXは、今年度第6期を迎え、活動テーマを「企業価値向上とIT活用」としました。企業価値を高めるために、ITに何が出来るか、何をやるべきか、ということについて、みんなで考えてみたいと思っています。そこで、ゲスト講演については、大手家電量販店での情報活用事例やテレビ局の基盤システム統合事例などを経営者のお立場の方からお話していただこうと考えています。いずれも、ITがいかに経営課題の解決に貢献しているかがわかる貴重な事例です。また、今年度からの新機軸として、過去5年間の卒業生の中から、JSUG LEXでの気付きを所属企業にどうフィードバックしているかについて、ご講演いただく予定です。「実際にやってみたらうまくいった」「こんなところで苦労した」といった本音の話は、多くの参加者の参考になるだろうと期待しています。

─今年度のJSUG LEXも本当に楽しみです。参加者の皆様に対して、改めてメッセージをお願いします。

鈴鹿 JSUG LEXは、SAPのトレンドに限らず、IT活用全般について自由に議論を深めていける場です。各企業の事例や異なる業界のIT部門の皆さんとの交流、そして企業の経営層との対話という貴重な経験もできます。したがって、新しいユーザーの皆様に参加していただくことも大切で、それがSAPユーザーの底上げにもつながります。JSUG LEXで活動された皆さんが、将来の日本企業を支えるリーダーになることを心から願っています。

経営破綻からのV字回復を支えたデータ活用の取り組み

─ここからは、ご自身の所属企業であるJALについてお話をうかがいたいと思います。まず、最近のJALの概況についてお聞かせいただけますか。

鈴鹿 ご存じのとおり、JALグループは2010年1月に会社更生法の適用を申請し、京セラ株式会社の名誉会長である稲盛和夫氏が代表取締役会長兼グループCEOに就任して、経営再建に取り組みました。おかげさまで2011年3月に会社更生手続きが終結し、2012年9月には東京証券取引所第1部に再上場を果たすことができました。現在は、JALグループ全体で222機の航空機を使って、国際線は毎日約130便、国内線は毎日約580便を運航しています。

─航空業界ならではのデータ活用の特異性は、どのような点にあるとお考えですか?

鈴鹿 航空運送事業では、ほとんどの業務がITシステムによって動いているといっても過言でありません。チケットの予約発券から、顧客管理、Web販売、チェックインシステム、飛行計画・重量計算システム、乗務員管理、貨物システム、経営管理、整備管理まで、すべてのシステムが有機的に連携しながら機能することによって航空機は空を飛んでいるのです。さらに、最近の航空機はそれ自体がまさにITの塊で、たとえば航空機エンジンの場合、世界中で飛んでいる数千機の航空機のエンジンのパラメーターが自動的にエンジンメーカーに送られています。エンジンメーカーでは、各航空会社から集めたデータを24時間監視して、異常を示す値や兆候が少しでも見つかると航空会社に一報を入れる。航空会社では、最寄りの空港で問題の見つかったエンジン内部を検査して、重大なインシデントを未然に防ぐ取り組みを行っています。

─航空機の安全、また経営全体において、データ活用が欠かせないということですね。

鈴鹿 その通りです。JALの経営破綻後、稲盛和夫・現名誉会長が幹部を前に「企業の経営とは、操縦席で、航空機を操縦するようなものである。さまざまなコックピットの計器から正しいデータがタイムリーに読み取れなければ、正しい経営判断はできない」と言ったことが今でも忘れられません。それを聞いた私たちは、「これまで本当に正しい情報を活用できていただろうか?」と自問しました。そして、これが実現できなければ、JALの再生はないと確信するに至ったのです。

─なかなか奧深い言葉ですね。JALにおける情報活用の課題はどこにあるでしょうか。

鈴鹿 先ほど申し上げた通り、航空会社のオペレーションにおいては、大小さまざまなシステムが稼動しており、日々膨大なデータが蓄積されていきます。しかし、これらのシステムはすべてが効果的に連携しているわけではなく、せっかくのデータを有効活用できていないことが往々にしてあります。

たとえば、航空機の整備では、機体の整備、部品の整備、部品補給、整備要目の管理、整備受託、整備士の資格管理などさまざまな業務がありますが、SAPを導入するまでは、40以上の老朽化したシステムが別々に稼動していました。それぞれの用途に応じて部分最適で作られたシステムで、長年改善が施されてきただけに、使い勝手は優れていましたが、データが連動しておらず、似たようなデータを別々のシステムで管理したり、人間がデータ連動の役目をしていたのでヒューマンエラーがあったり、何より全体を俯瞰することができていませんでした。

「JAL Mighty(Maintenance Innovation by Globally Harmonized TechnologY)」プロジェクトも、こうした課題の解決に向けて「データの一元管理」をテーマにスタートしたものです。

─ありがとうございました。具体的な取り組みと成果については、次回以降にあらためてお聞かせください。

次回は、鈴鹿氏が導入に関わった航空機整備管理システム「JAL Mighty」に蓄積された膨大なデータを可視化し、部品の在庫を激減させた取り組みについてご紹介します。

■略歴
鈴鹿靖史(すずか・やすし)氏
日本航空株式会社 常勤監査役
JSUG常任理事

image1979年に東京大学工学部航空学科を卒業後、日本航空に入社。4年間のシアトル技術駐在等を経て、主に、航空機整備の技術部門を担当。新型航空機導入の際の客室仕様や客室の座席の開発等のプロジェクトに携わる。2004年4月から、整備企画室部長として、航空機整備の基幹システムへのSAP導入のプロジェクトマネジャーを務める。2008年11月にSAP稼働を果たし、その後技術部長を経て、2010年12月に整備本部副本部長に就任。2012年7月常勤監査役に就任し、現在に至る。日本航空の実務のかたわら、2013年7月からJSUG常任理事を務め、2014年度から、JSUG Leaders Exchange(略称LEX)活動の代表も務める。

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