複雑性が何たるかを最も理解しているのがSAP、複雑性をなくしてシンプルにすることは世界をよりよくすることにつながる


シンプルにすることで企業は革新できる

DSC_5381米国時間の2014年6月3日、SAPの年次カンファレンスイベント「SAPPHIRE NOW + ASUG ANNUAL CONFERENCE」が米国フロリダ州オーランドで開幕した。オープニング キーノートセッションに登壇したのは、これまでの共同CEO体制からつい最近単独でSAPの指揮を執ることとなった、ビル・マクダーモット CEOだ。彼は、企業にとって複雑性が大きな問題となっているという話題から講演を始めた。この複雑性の問題は、バランスシートなどに現れるようなものではない。組織の階層の深さであったり、そのせいで発生するさまざまな承認プロセスだったり。企業の中のあらゆるところに潜んでいるものだ。

この複雑性を排除することで、企業は成長し革新することができるというのがSAPの主張だ。「シンプルな世界の実現、シンプルなSAP、シンプルなカスタマー・エクスペリエンス、これらがSAPの大胆なビジョンです」とマクダーモット氏。これは、ここ最近SAPが主張してきたITをシンプル化すると言っていたものから、企業そのもののシンプル化で企業の成長に寄与することへと大きく進化した目標だとも捉えられる。企業をシンプルにするために利用するのが、「シンプルなSAP」と言うことだ。

一方で、「SAPそのものが複雑なのではとの声もあるかもしれません」ともマクダーモット氏は世の中の声の存在も認める。これに対しては「SAPは複雑性に打ち勝つための戦いをしていきます。それが可能なのは、企業の複雑性というものをSAPがもっと理解しているからです」と言い、これまでERPなどのアプリケーション製品を提供してきたことで複雑なものをシンプルにしてきた経験がSAPには豊富にあると主張するのだった。

このシンプルということを、SAPはまずは顧客に示していく。さらには自分たちつまりは社員にも、パートナーにもシンプルであることを示し、シンプルな製品、サービスを提供していくことになる。そのためには、たとえば製品やサービスのプライシングもさらにシンプルにするとのこと。また、オープンなエコシステムにも取り組むことになる。当然ながらSAP自身は、シンプルなSAPでシンプルに企業運用を実践することになる。

このシンプルなSAPを具現化する製品としては、SAP HANAが挙げられる。これを利用することもシンプルにするための1つの手法となるのだ。たとえば処理が速くなりそれによりリアルタイム性が発揮できれば、問題が発生した後で過去に何が起こったかが分かるのではなくリアルタイムに状況を把握できる。そうすれは問題が大きくなる前に対処できるようになる。これが実現できればオペレーションの手戻りもなくなり、結果的に従業員の業務はシンプルになると言うわけだ。

昨年提供開始され好評の「SAP Fiori」はSAPソフトウェアに無償でバンドル化

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もう1つのシンプル化のための製品としてキーノートセッションで取り上げられたのが、SAP Fioriだ。これは昨年発表された、新しいユーザー・エクスペリエンスを実現するためのアプリケーション・フロントエンドツールだ。HTML5ベースでPCでもタブレットやスマートフォンでも、同様なユーザー・インターフェイスで統一的な作業が可能だ。

これはたんにインターフェイスを統合した、SAP ERPアプリケーションのポータルサイト的なものではない。職責に応じたロールごとにアプリケーション群が用意されており、たとえばマネージャーであればマネージャー業務に必要なアプリケーションがワークフローで関連づけられ、シームレスに利用できるようになっているのだ。

このSAP Fiori、提供開始以降、市場の評価はかなり高いらしい。「非常にうまくいっている」とマクダーモット氏。たとえば、SAP Fioriを導入した企業では、オペレーション作業がシンプル化しキーストロークが75%ほど削減された例もあるとか。キーストロークが減れば当然ながら人為的ミスなども減ることになる。画面がシンプル化されるだけでなくプロセスもシンプル化するのが、このSAP Fioriという製品の特長でもあるわけだ。

これまでSAP Fioriは、有償製品として別途提供されてきた。ユーザーからは良い製品だからこそ無償で提供して欲しいという声が上がっていた。そういった声を受け入れ、今回のイベントのタイミングでSAP FioriをSAPのソフトウェア製品に無償で組み込むことが発表された。ユーザーの声を受け入れたのはもちろんだが、プライスをシンプル化するという戦略の一環だと捉えることもできそうだ。

このSAP Fiori、完成した製品としてほとんど手を入れずにすぐに利用できるが、実際の導入ではユーザーニーズに合わせ適宜カスタマイズして利用するようだ。SAP FioriのUIはSAP NetWeaver GatewayのRESTサービスを介して使う形になっているので、外部システムからの連携なども可能だ。

また、HTML5ベースで現状でもタブレットやスマートフォンのブラウザには対応する製品だが、さらなるモバイル環境への対応強化のためにSAPのモバイルソリューション「SAP Mobile Platform」への対応もすでに表明されている。SAP Mobile Platformに対応すれば、より安全性の高いアクセスの実現や詳細なアプリケーション・コントロール、オフラインでの利用なども可能になる。

このように無償で利用できるようになること、さらには利用拡大が期待されるモバイル環境にも全面的に対応できることで、SAP ERPのフロントエンド環境は今後はすべてSAP Fioriに集約されるのではないだろうか。少なくとも新たにERPの利用を拡大するような場合には、最初の選択肢がSAP Fioriになることは容易に想像できる。

簡単だからシンプルにすると言っているのではない。高度なことを簡単にシンプルにすることは「困難に挑むことです」とのこと。この困難に打ち勝てば、シンプルに物事が実行できるようになり「世界をよりよくすることにつながります」とまでマクダーモット氏は言う。シンプル化というのは、IT業界ではある意味使い古された言葉かもしれない。しかし、何をターゲットにシンプル化をするかで、新しいことに挑むための重要なキーワードにもなるのかもしれない。

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