SAP HANAがもたらすのは単なる高速化ではなく、高速化によって実現する新しいシンプル化した世界


コンピュータの劇的な進化があればレスポンスタイムゼロのデータベースは実現できる

DSC_5560SAP SAPPHIRE NOWの2日目のキーノートセッションに登場したのは、SAPの共同創業者で会長のハッソ・プラットナー氏だ。プラットナー氏はSAPの会長としてではなく、大学でコンピュータサイエンスを教えている教授の立場で話を始めた。

企業経営をしていれば意思決定が正しかったのかと悩むこともある。そうであっても、イノベーションをやめることはできない。SAPという会社も、業績がいいときもあれば悪いときもあった。そんな状況の中でもイノベーションを続ける。そうすることで、将来的な企業の成長が約束されることになる。

オンプレミスからクラウドに行く、モバイルを活用する。これらも持続的なイノベーションのための1つの要素だ。そして昨日から話題の中心でもある「複雑なものをシンプルにする」のもまた、継続的なイノベーションだ。

「シンプルにするというのは、機能を減らすことではありません。そして、シンプルにするというのは、マーケティングのスローガンでもありません」(プラットナー氏)

複雑なものをシンプルにする。これは簡単なことではない。そしてこのシンプル化は製品を拡販するためのマーケティング用語でもなく、いまや企業にとって課題解決のための「現実のこと」になりつつある。そのシンプル化をサポートしてきたのがコンピュータのテクノロジーだ。コンピュータを用いてこれまでもさまざまな企業のプロセスをシンプルにしてきた。

そのコンピュータのテクノロジーは、20年前にSAP R3を始めたころから極めて大きく進化している。メモリー容量は6,000倍になり、コンピューターパワーも1,800倍になっているのが現状。にもかかわらずアプリケーションは20年前の設計のまま。これは、新しいテクノロジーに最適化するよう設計し直さなければならないとプラットナー氏は言う。

この考えは、7年ほど前からプラットナー氏の中にはあった。コンピュータの進化をもとに簡単な推測をして、大学の教授という立場から遅延ゼロのデータベースを実現できると考えたのだ。それがもちろんSAP HANAと言うことだ。

この推測から従来とは異なるモデルを考え出し、プラットナー氏はそれについてさまざまなところでスピーチもしたそうだ。しかし当時は、スピーチを聞いた他の研究者などからは「それはおかしい、レスポンスタイムゼロのデータベースなんてできるはずがない」と言われたそうだ。あれから7年半ほどが経過した現在、SAP HANAでほぼレスポンスタイムがゼロのデータベースに近づいている。当時、SAPにこの話をして投資すべきだと言ったわけだが、それを理解してもらうにはかなり手間がかかったようだ。

超高速でトランザクションもアナリティクスも一元化できるからこそ実現するシンプルな世界

SAP HANAは新たなイノベーションが目的ではない。イノベーションのためのイネーブラーだ。超高速処理も革新的だが、イネーブラーとしての役目はそれだけではない。データのアグリゲーション、つまりは集約が必要ないプラットフォームであることが、持続的な革新により貢献するポイントでもある。

企業では、さまざまなプロセスを実施した結果を記録する。そのためにアプリケーションがあり、そこには記録したデータを扱うためのアルゴリズムがある。企業で発生する多くの物事は、このアルゴリズムに当てはめられる。それでスムースな処理が可能となる。適切なアプリケーションがあれば、プロセスは自動化され効率化できる。

とはいえ、中には既存のアルゴリズムでは答えの出ないものもある。その場合はデータからいくつものモデルを作り、そこからインサイトを得てシミュレーションを行い、答えを予測する。ビジネスに役立つインサイトを得るには、並行してたくさんのモデルを作る。その中には矛盾のあるモデルもあるかもしれない。できるだけたくさんのモデルを作ればより正しいインサイトが取り出せる。

たくさんのモデルを作るには、さまざまなデータをアグリゲーションしなければならない。このデータのアグリゲーションは手間と時間とコストを要する。アグリゲーションに時間がかかると、せっかく得られたインサイトも手遅れで利用価値がなくなるかもしれない。いかに速くモデルを作り、いかに速く答えを予測するかが重要だ。

SAP HANAのプラットフォームであれば、圧倒的な高性能でアグリゲーションなしでデータを一元化できる。すべてのデータをインメモリーでかつカラムストアのデータベースに入れることができる。つまり、トランザクションデータを加工せずにそのまま入れられる。SAP HANAに入れてしまえば、高速な分析が可能だ。トランザクションもアナリティクスも1つのインメモリーデータベースに入れられる。トランザクションデータがある、つまり明細レベルのすべてのデータがある。なので、何か問題が発生した際にそれを明細レベルにまで落とし込んで原因を追及できる。そこから得られたインサイトを使って、明細レベルで将来の変化を予測できる。これは、サマライズしたデータで傾向を予測するのとはまったく異なる革新的なものだ。

ただし既存のSAP ERPは、前述のように設計が古いのでそのままSAP HANAに載せてもデータの重複が多く残ったままとなる。たとえば請求書の処理では、関連する複数のプロセスごとに必要なデータを用意し処理してきた。これはプロセスを効率化するために、過去のアーキテクチャの上に長年かけて積み上げてきた結果だ。

SAP HANAに最適化したデータモデルのまったく新しいシンプルなERPが登場する

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この課題を解決するために、SAPではERPのデータモデルをこの新しいSAP HANAというアグリゲーションのいらないプラットフォーム用に変更する新しいERPを提供することにした。それが「シンプルERP」だ。

「20年前のものを再設計しました。これは大きなステップによる前進です」(プラットナー氏)

重複を除いて一元化したことでデータ量は大きく削減される。SAP自身の例として「ERP on DB2」で7.1テラバイトあったデータが、「ERP on SAP HANA」化すると、1.8テラバイトまで削減された。これをさらに新しい一元化されたデータモデルの「シンプルERP on SAP HANA」にすれば、0.8テラバイトまで削減される試算結果をプラットナー氏は示した。

データが削減できるだけでなく、中心に一元化してデータが存在すれば新たなプロセスが発生してもアルゴリズムをそのデータに適用するだけで対応できる。プロセスごとに存在するデータをいちいち修正する必要がないので、新たなアルゴリズムの追加にも容易に対応できる柔軟性も手に入れるのだ。

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この新しいシンプルERPは、第一弾として「SAP Simple Finance」が提供開始される。これはSAP HANA Enterprise Cloudの上のサービスとして、サブスクリプション型のライセンスで提供される。今後、順次「Inventory Mamagement」「Sales and ATP」「Manufacturing」「Purchasing」と続き、2014年内に一通りのシンプルERPのラインナップが揃う予定とのことだ。

これまでのERPのようなシステムは、多層なヒエラルキーで構成される組織のプロセスをいかに効率的にするかを実践してきたものだ。そのERPのプラットフォームがインメモリーデータベースのSAP HANAに移行した。それで超高速化されたと捉えがちだが、そこからさらにSAP HANA用にデータモデルを作り替えたシンプルERPへと進化することで、旧来型の仕組みをまったく変えてしまうようなまさに革新が始まろうとしている。

この革新は、従来の多層なヒエラルキーの組織をなくすくらいの大きなインパクトをもってやってくる。コンピュータの進化に合わせて再設計した。それにより訪れたのは、たんなる高速化ではなく企業の組織のあり方すらも変えるようなシンプル化ということなのかもしれない。

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