自動車・組み立て製造業のイノベーション最前線――第1回:M2M/テレマティクスで事業構造が変わる


SAPジャパンの山﨑です。本連載では、「自動車・組み立て製造業のイノベーション最前線」と題して、新たなトレンドとそれに関わるSAPとしての中長期的取り組みを4回に分けてご紹介していきます。自動車業界のかかえる経営課題のうち、とくに今、日本のメーカーが着目されている「M2M/テレマティクス」「品質/ワランティ」「グローバル戦略における人材育成と現地調達」「Industry 4.0」の4つを、テーマとして取り上げます。第1回は、「M2M/テレマティクス」です。

ドライバー一人ひとりが欲しい情報を車両メーカーとともに追求

Bumper to bumper traffic昨年(2013年)10月にITS国際会議が東京で開催されましたが、その際にSAPも出展を行い、車両メーカーや部品メーカーの方にSAPのM2M(Machine to Machine)への取り組みについてご認識いただくことができました。そこで我々が特にお伝えしたのは、SAP従来の基幹業務系でなく、車両情報をビッグデータとして解析し、それをドライバーや車両運行会社に対する付加価値として提供するという新しいサービスです。ここで意図する付加価値とは、安全、安心、快適性の追求といったものになります。

たとえば、移動中の人に、場所と時間に応じてクーポン情報などを提供するサービスがプッシュ型で存在し、快適性を提供していると考えられます。しかしながら、車を運転しているドライバーにとって、そのような情報が機械的にプッシュされることは、安全面などを考えたら必ずしも快適なサービスではないことが考えられ、特に日本の自動車メーカーは気を使っています。したがって日本メーカーのテレマティクスへの現時点での対応は、いわゆるコンシェルジュサービスの提供というもので、メールや電話などヒトを介してドライバーのための情報提供を行う形がほとんどです。一方、SAPが一緒に取り組みを行っているBMWなど欧米系の自動車メーカーでは、ドライバー一人ひとりが欲しい情報などを事前にカスタマイズし、それに基づいたプッシュ型の情報提供を行うという、システムを介したサービス対応をしていて、発想の違いがみられます。

自動車が発するビッグデータを関連各社とともに徹底的に活用

SAPが提供するテレマティクスサービスは、従来の車両メーカーに閉じたサービスとは異なり、自動車から発信されるビッグデータとしての情報を中心に、ほかのサービスプロバイダーや企業がつながっていくというサービスです。自動車からの情報を扱うテレマティクスのインフラ上で、企業と企業を結び付ける、企業とドライバーを結びつけるソーシャルネットワークのような働きをします。

たとえばSAPが提供するのは、関連する小売業やガソリンスタンド、駐車場管理会社などとつながり、ドライバーや車両運行会社にとっての利便性を高めるサービスです。また、その自動車からのデータを解析し、不具合やリコールなどを「未然に」防ぐようなことも可能になります。ポイントは、不具合が起こってから対処するのではなく、不具合が起こる前に対処できるようにするということです。

車両一台から発せられるデータは膨大なものになるので、取捨選択をして、予測解析をし、そこから開発・生産部門につなげたり、マーケティングにつなげ、さらに一社だけでなくほかの関係各社につなげていく。それがSAPが今取り組み始めている自動車業界向けのM2M領域のソリューションです。

整理しますと、ビッグデータの活用方向性には、以下のようなものがあります。

  • 開発/生産部門:車両の品質向上およびリコールリスクの削減、不具合原因の早期発見と開発への早期フィードバック
  • マーケティングおよびアフターセールス:より効果的な顧客セグメント分析によるOne to Oneマーケティング、サービス部品の在庫を削減と同時にサービスレベルを向上
  • ディーラー:効果的な顧客ターゲティングによるサービスおよび部品売り上げの拡大、タイムリーなサービス・オファーによるお客さま満足度の向上と定着率の向上
  • ドライバー:自動車関連業界の各社のサービスへつながる付加価値サービスの提供、安全で安心な運転をサポート、車両維持の合理化

BMW Group Research and Technologyとの共同開発のイメージ映像は、以下をご参照ください。

テレマティクスサービスインフラとしてのSAP HANA Cloud for Automotive

現在このようなテレマティクスサービスは日本では大手自動車メーカー3社がそれぞれ運営していますが、SAPはSAP HANA Cloud for Automotiveというクラウドサービスを提供し、これらメーカーのテレマティクスと連携します。そして、先ほど述べたように、SAPのクラウドサービスの先につながっている小売、駐車場、ガソリンスタンドなどの関連事業者との連携を行い、ドライバーや車両運行会社の利便性を高めることができます。また、これら3社以外の車両メーカーもこのクラウドサービスにつながることにより、テレマティクスサービスをアウトソース型サービスとして利用できることになります。SAPはテレマティクスのシステムとしてのインフラを提供するだけでなく、ビジネスを行うためのインフラをも提供するのです。

車からは位置情報や各種走行データなどが吸い上げられ、それがSAPのクラウドに送られ、さまざまなビッグデータ分析がリアルタイムでなされ、その結果がドライバー始め、このネットワークにつながっているさまざまな企業や団体に届けられます。車両データはカーナビでやりとりされることが日本では多いですが、欧米ではタブレットやスマホで代替しているケースがかなり増えているので、このようなモバイル端末へのセキュリティ対応などもSAPでは注力しています。

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保守サービスが生み出す付加価値「Cyber Fleet(サイバーフリート)」 事例1:ピレリ社

いくつか事例をご紹介しましょう。一つ目は、イタリアのタイヤメーカーであるピレリ社の事例です。ピレリ社では、個々のタイヤにセンサーを取り付け、タイヤの空気圧、温度及び走行速度などをリアルタイムで計測し、異常があれば車両管理会社やドライバーに伝達を行う「Cyber Fleet(サイバーフリート)」というサービスを、SAPのソリューションを活用して提供しています。空気圧を適正に保つことにより、タイヤの長寿命化や安定性の向上につながるからです。

EUではタイヤの空気圧を管理しなければならない規制(Tire Pressure Management Systemの装備)があり、まずはドイツでテスト・検証を行い、、2012年秋にはブラジルで商用サービスを開始しました。車輪が6個装着されたトラック600台を対象とした場合、年間の総イベント発生数は400億になります(2分に1回データが発生)。2014年末までには対応車両数が10万~20万台になると予測されるので、その場合の総イベント発生数は13兆という途方もない数に上ることになります。また、そのデータを分析することにより、単なるタイヤのリアルタイムモニタリングというだけでない付加価値を生む可能性を持っています。車両管理会社にとっては、最適なタイヤ交換時期の予測に役立ち、メンテナンス計画を立てやすくなります。一方、メーカーにとっては、道路状況や気候、地域などとタイヤの品質やパフォーマンスの相関を知ることができ、製品品質の向上や新製品開発、マーケティングなどに役立てることができます。ドライバーにとっては、その運転パターンをレポートし、安全性や燃費向上などの観点から運転の改善に役立てることが可能になります。

SAPは、このリアルタイムビッグデータ処理や分析、予測などの機能をSAP HANA上で実現し、クラウド上で提供しています。ユーザーサイドにはモバイル端末による対応も万全となっています。

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参考:ピレリ社の24時間タイヤ保守サービスを支える予見分析テクノロジー

品質管理業務改革へのチャレンジ 事例2:メルセデスAMG社

二つ目は、メルセデスAMGの事例です。メルセデスAMG は、メルセデス・ベンツのチューニング部門で、ここで手掛けるエンジンはすべて高級仕様なので、一般エンジンの抜き取り検査とは異なり、全品検査がマストとなっています。検査では、約300のセンサーから毎秒3,000~30,000のデータセットが発生し、一回のテストには50分を要します。従来は、データを取り終わった後に解析しなければ、合格か不合格を判定することはできませんでした。しかしながら、このセンサー情報をSAP HANA上でリアルタイム処理し、予測分析により不合格パターンをモデリングしたところ、テスト開始後2分で結果が予測できるようになり、その時点で不合格となったものはテストを中断。20倍〜30倍の高速化により、大幅にテスト時間を短縮させ、効率化を実現することができました。また、テスト状況の可視化のためには、工場内でいつでもどこでも確認できるようにモバイル端末での対応となっています。

レース結果を予測し、勝利に導く 事例3:マクラーレン社

最後の事例となる三つ目は、マクラーレン社です。F1で有名なマクラーレンでは、車にセンサーを120あまり取り付け、レースの際にサスペンションの動きやエンジンの挙動などを把握しています。データはほぼ毎秒飛んできて、そのデータに基づき毎分1000回のシミュレーションを行い、レース結果を予測します。概ね1~2周目で90%以上の精度で予測できるとのことです。同時にその予測に基づき、勝利するために必要なことは何か、いつピットすればいいのか、タイヤはどれくらいで摩耗してしまうのか、といったこともフィードバックします。これら一連の処理は、すべててSAP HANA上で行われています。従来は、集めた後にデータを解析して結果を出していたのですが、今では従来の1万4000倍のスピードでの解析を実現しています。リアルタイムでビッグデータを解析することにより、現在は精度の高いレース運びが実現できているということです。

参考:マクラーレンとメルセデスAMGが実践!超膨大センサーデータのリアルタイム解析による予見分析

いずれの事例においても、それぞれのアイデアは従来から存在したかもしれませんが、今までは技術的な制約でできなかったものです。しかしながら、SAP HANAなどビッグデータを高速リアルタイムで解析できる技術の進歩により、ソリューションとしてお客さまに提供できるようになりました。

2020年の「自動運転」を目指して—安全・効率的な運転のための取り組み

これら事例の先にあるM2M関連の取り組みとして、SAPは車の「自動運転(自動走行)」をサポートする仕組みを、あるメーカーさまと共同で行っています。SAP HANA Automotive Control Centerを作ろうという試みで、2020年を目途としています。これは、ドライバーにとっては安全な走行を、車両管理会社などにとっては効率的な運行や稼働率の高いオペレーションを、また社会という観点からは渋滞の解消による快適性の向上や環境負荷の軽減などに資することを目的としています。

そこでSAPが実施しようと考えているのは、車一台一台の状況把握です。位置、車種、速度、どこからどこへ向かっているのか、などなど。たとえば、ある車が事故などを起こした場合には、周囲の車に即座に伝達して、アクションを指示したりします。また、渋滞緩和のためには、あらゆる車に速度制御をかけてしまうというようなことも将来構想的には考えています。現時点では細かな運用は決まっておらず、自動車メーカーさまと協議を進めているところです。

SAP HANA Automotive Control Centerのイメージ映像は、以下をご参照ください。

最後に

自動車領域におけるM2Mの取り組みは車メーカー、部品メーカー、電装メーカーを中心に大きな関心事項となっており、小売業界なども巻き込んで裾野の広いイノベーションの起点となっています。また、たとえば、安くてよいタイヤを作ることを主眼としていたタイヤメーカーが、タイヤ関連サービス会社に変貌するというような、ビジネスモデル変革にまで影響を与えています。このような観点から、自動車関連業界においてSAPは皆さまのお役に立とうとしております。

次回は、自動車業界における「品質/ワランティ」というテーマで解説いたします。

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