【JSUG Leaders Exchange Interview】 緻密なデータ管理が稲盛流のアメーバ経営を支援


Airplane docked in hangar前回は、今年度からJSUG Leaders Exchange(以下、JSUG LEX)の代表に就任された日本航空株式会社(以下、JAL)の鈴鹿靖史氏から、JSUG LEX の2014年度の活動方針と、自身の所属企業であるJALにおけるデータ活用の考え方についてお話をうかがいました。今回は、JALグループにおけるデータ活用の具体的な事例として、SAPのアプリケーションで構築した整備管理システムを活用した部品在庫の可視化、在庫数の削減についてご紹介します(聞き手:SAPジャパン 濱本 秋紀)。

 

航空機の安全運航には部品データの緻密な管理が必須

─2008年11月に稼動した航空機整備管理システム「JAL Mighty」のプロジェクトは、そもそもどういった経緯でスタートしたものですか?

鈴鹿 航空機の整備管理業務は、機体の整備、部品の整備、部品補給、整備要目の管理、整備受託、整備士の資格管理など幅広く、JALでもSAP ERPを導入するまでは手組みのシステムが40以上も稼動していました。部分最適で作られたシステムは、使い勝手こそ悪くなかったものの、データに連携性はなく、似たようなデータを別々のシステムで管理していた状況です。また、20年、30年にわたって機能を追加しながら使ってきたために、システムの老朽化が進んで保守も困難な状況になってきていました。使い勝手の面でも、個々のシステムに人間が手作業でデータを入力しなければならず、ヒューマンエラーもなかなか撲滅できませんでした。そして何よりデータを俯瞰して見ることができないことは大きな課題でした。

─データを俯瞰的に見られないことで、具体的にどのような問題が発生していましたか?

鈴鹿 たとえば、、部品の在庫が完全には把握できていなかったと思います。部品の在庫管理システムは存在していたので、どの空港に何個の部品在庫があるのかは分かりましたが、何個の部品が発注されていて、それはいつまでに入荷するのか。修理に出されている部品はいつ戻ってくるかといったことが、人手を介して時間をかけないとわからない。ですから、部品在庫が不安になると、担当者は早めに発注をかけることになります。ところが部品を発注した翌日に、修理中だった部品が届いて過剰在庫になってしまうこともありました。

─こうした問題を解決するためにSAP ERPを導入されたのですね。

鈴鹿 その通りです。2000年くらいから、整備管理業務にSAPを導入するための研究を行ってきました。当時、多くの航空会社が航空機の整備管理業務にSAPを導入しようとしていたこともあり、私はニュージーランド航空や英国航空に何度も足を運んで調査を続けてきました。そして、2005年春に正式にプロジェクトを立ち上げ、2008年11月に本稼動となりました。システム名は、当時16カ国から集まったコンサルタントと一緒に、航空機整備管理業務にイノベーションを起こそうという意味を込めて、「JAL  Mighty(Maintenance Innovation by Globally Harmonized TechnologY)」と名付けました。

─メンテナンスイノベーションという言葉に当時の想いが込められていますね。整備管理システムにおけるデータ活用の内容を具体的にお聞きしたいのですが、まず航空機の整備管理業務で扱うデータの種類には、どういうものがあるのでしょうか。

鈴鹿 部品を例にとると、航空機の部品には、使い捨ての「消耗品」と、修理をしながら何度も繰り返し使う「循環部品」の2種類があります。ボルトやナット類は、1回限りの部品ですから消耗品として扱われ、部品番号でまとめて個数で管理します。一方の循環部品は、部品番号以外にシリアル番号を持ち、製造後にどれだけフライトして、いつどういう不具合が発生し、どういう修理を行ったかという履歴をすべて個別に保持しておかなければなりません。これは、航空法で求められているものですが、現在JALが保有している循環部品の個数は約70万個にのぼります。

─約70万個の循環部品をSAPの中ではどのように管理しているのですか?

鈴鹿 具体的には、システムの中に仮想的な航空機を機数分作り、使われている部品をその機体番号ごとにまとめて管理するイメージですね。JALグループ全体で200機ほどの航空機を保有しているわけですが、SAPの中では各部品の時間や履歴を管理するために、機体毎に「Functional Location Structure」という階層構造を作っています。例えば、航空機1機に対して主脚が2基、エンジンが2個といったボックスがあり、そこにシリアル番号が割り振られた循環部品が入っています。この階層が何層にもなっていて、最下層までドリルダウンしていくと、ボルト、ナットのレベルまで達します。これによって、たとえば、JA821Jという機体にはどの部品が装着されているかが瞬時に把握でき、その飛行機がフライトするたびに、時間と回数がすべての循環部品に記録されていくわけです。

─何らかの不具合があって、循環部品を交換すると、今度は新しく装着した部品のフライト時間と回数が新たに刻まれていくことになるのですか。

鈴鹿 そうです。同じ部品番号だとしても、交換した部品はシリアル番号が違うので、新しい部品が装着されたと認識されるわけです。SAPの優れているところは、本来付けるべきでない部品が付けられると、エラーが出て知らせてくれるところです。航空機の場合、1機で20年以上稼動しますから、途中でさまざまなコンフィギュレーションの部品が出てくることも往々にしてあります。物理的な互換性があるだけに、整備士が誤って取り付けてしまうこともあり得るのですが、SAPのシステム内に、本来どの部品が装着されるべきかというデータが登録されているので、使用を禁止されている部品番号の部品を誤って装着すると、すぐに警告を出して知らせてくれます。

─目視だけで正しいと思っても、システム上でエラーが出ると整備が完了しないわけですね。

鈴鹿 はい。作業シートもSAPで作られていて、整備士は作業を終えるとシートをチェックしていくのですが、作業シート上で整備作業が完了していたとしても、システム上で整備のタスクが完了したと判定されなければ、航空機の整備が完了したことになりません。数年ごとに格納庫で行う重整備では、数千の整備作業がありますが、最後の日にすべての作業シートの完了チェックを行うことになっていて、1枚でも完了処理がされていないと、エラーが表示されます。それだけ安全に配慮しているということの証でもあるのです。

データの統合管理で、部品在庫を300億円削減

─整備システムのデータ管理に取り組んだ結果、具体的にどのような成果が得られましたか?

鈴鹿 整備要目と部品管理の一体化によって、定例整備で使用する部品を自動で間違いなく準備できるようになりました。従来は、人間が予定されている整備要目を見て部品を準備していたので、手間がかかったり直前に部品がないことに気づいたりすることがあったのですが、今ではこうした問題も起こりません。SAPでは、定例整備の一定期間前に、その整備用に必要な部品がリザーブされるので、ほかの機体で使われてしまうこともなく、間違いなく準備される安心感があります。

─部品の在庫削減における効果はいかがですか?

鈴鹿 在庫部品の削減効果ははっきり出ています。現在、JALの航空機が飛んでいる空港は世界に30カ所以上、国内にも30カ所以上あり、それぞれで部品を管理しているわけですが、従来はどの部品が世界で何個あり、何個が修理中で、何個が発注中だということが、リアルタイムには把握できませんでした。SAPを導入したことで、部品番号を入力すれば、どこの空港に在庫が何個あるか、何個が修理中でいつ修理が完了するか、何個が発注中でいつ入荷予定かなどがすぐにわかります。その結果、部品の管理担当者が各空港の整備担当者から発注依頼を受けたときも「この部品はここに在庫があります」と瞬時に回答できるようになりました。さらに、SAPの場合は自動転送にも対応しているので、空港ごとに基準の在庫数を設定しておくと、在庫数が少なくなった空港には在庫が余っている空港から自動的に不足部品が送られるか、自動発注がかかるようになっています。

─具体的なコスト削減はどれくらいですか?

鈴鹿 さまざまな要因がからむので、はっきりとは言えませんが、SAP ERPの導入によって、部品発注を抑えることが出来た結果、部品在庫が、200億円~300億円程度は削減できたと認識しています。

─整備管理業務に際して、SAPが最も経営に貢献したのはどこにあると思われますか。

鈴鹿 膨大な整備コストの見える化ですね。JALの経営再建に向けて、稲盛名誉会長は部門別採算制度の導入を推進しました。部門別採算制度とは、部や課という小さな部門(アメーバ)単位で採算表を作り、それぞれの部門が黒字を出すために自主的に知恵を絞るという考え方です。そうすれば、その巨大な集合体である会社は利益が出るという、いわゆる稲盛流のアメーバ経営です。部門別採算制度を導入するためには、それぞれの部門の収入、コストの詳細を把握しなければなりませんが、そこで威力を発揮したのがSAPです。

─整備管理業務では、利益を数値化することが難しいように思うのですが、具体的にはどのようにして採算を管理しているのでしょうか。

鈴鹿 管理会計的に仮想の数字を設定して、社内で部門ごとに取引を行っています。たとえば、整備には、本社の路線統括本部から、航空機のフライトに応じて、協力対価というものが支払われます。整備が頑張ってたくさん運航させれば、協力対価は増え、整備の収入が増えるわけです。それに、整備受託収入等を加えたものが整備の収入で、そこから、整備部品費や人件費などの費用を引いたものが、利益になるわけです。管理項目を細分化して利益を計算するのは大変な作業で、まだグループ会社には順次導入中ですが、整備には、JAL Mightyが既に導入されて細かいデータの可視化が図られていたために、整備のグループ会社であるJALエンジニアリングには最も早く部門別採算制度を導入することができました。そういう意味で、JAL Mightyは、大いに経営に貢献していると思っています。

─ありがとうございました。

次回は、データ活用のもう1つの成功事例として、ビッグデータを用いてWebサイトでの旅行商品の売上げを増加させたマーケティング事例について紹介します。

■略歴
鈴鹿靖史(すずか・やすし)氏
日本航空株式会社 常勤監査役
JSUG常任理事

image1979年に東京大学工学部航空学科を卒業後、日本航空に入社。4年間のシアトル技術駐在等を経て、主に、航空機整備の技術部門を担当。新型航空機導入の際の客室仕様や客室の座席の開発等のプロジェクトに携わる。2004年4月から、整備企画室部長として、航空機整備の基幹システムへのSAP導入のプロジェクトマネジャーを務める。2008年11月にSAP稼働を果たし、その後技術部長を経て、2010年12月に整備本部副本部長に就任。2012年7月常勤監査役に就任し、現在に至る。日本航空の実務のかたわら、2013年7月からJSUG常任理事を務め、2014年度から、JSUG Leaders Exchange(略称LEX)活動の代表も務める。

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