「イノベーションのジレンマ」の克服は可能か?(前編)

作成者:馬場 渉 投稿日:2014年6月7日

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フロリダ州オーランドから羽田に帰る機内でこれを書いています。私は普段飛行機に乗る際、鞄を一切持ち込みません。皆さんもあるのではないでしょうか?仕事するぞと意気込んでパソコンを持ち込んだけどまったく開かなかったり、読み切ろうと思って持ち込んだ本を結局機内で挫折したということ。水泳やランニングをすると言ってホテル滞在中一切出さなかったこともきっと少なく無いですよね。断捨離という考え方が少し前に流行語となりましたが、個人や企業ももっとこのようにヨガや禅の考え方を用いて最小限に削ぎ落としそれを維持させることを積極的に取り込んでいったらいいと思います。私はそんな理由で機内ではパソコンなど最初から持ち込まないようにしています。

今日はそんな私ですがパソコンを持ち込みました。出張先のオーランドで感じたことを伝えたいと思ったためです。当社には幸いにして?出張報告という文化がありません。出張報告って結構皆さん大変とのことですが、せっかく書いた力作であれば、コンフィデンシャルな部分は削って、外部に叡智として公開できないものでしょうか?いろいろ難しいですよね、わかります。

さて、私が今日日本に着いて週末に入ってしまう前にお伝えしたかったのは、今回のSAPPHIRE NOWの最大トピックについてです。

Simplify Everything, Do Anything.
(あらゆるものをシンプル化すれば、何だってできるようになる)

これが参加した2.5万人、オンラインの数十万人の方が共通して感じた今年のテーマだったのではないでしょうか?その通り今年は、いえ、これから先数年は、このRun Simple.がすべての中心に位置づけられます。成長と共に複雑化した企業の組織、業務、システム、それらをどうシンプル化するか?大規模組織への断捨離のススメです。

ハッソ・プラットナー"教授"と、クレイトン・クリステンセン教授

共同創業者であるハッソ・プラットナーが「今日は大学教授として話す」と、SAPPHIRE NOWでは実は恒例のプラットナー教授の熱血教室の弁をとりました。その彼を壇上に呼び込んだのはクリステンセン教授、あの名著『イノベーションのジレンマ』の著者、ハーバードビジネススクールの大教授です。

二人がテーマにしたのは、成功した組織が成長と共に陥る”イノベーターのジレンマ”です。ハッソ・プラットナーは「SAPはHANAによってイノベーターのジレンマを乗り越えた。破壊的イノベーションを非破壊的に導入することに成功した。」と言いました。クリステンセン教授の理論をおさらいしておくと、優良企業ほど顧客に向いて仕事しており、その結果そこからもたらされる持続的イノベーションがいつの間にか顧客と自社の価値観をロックしてしまい、顧客が潜在的に抱く別の価値観に気付かないことに警笛を鳴らしています。またその時外から生まれるまったく新しい破壊的な価値観に対して、自社よりも劣り市場規模も小さいという理由でその新興市場への取り組みが遅れる傾向にあり、かつて顧客を惹きつけたイノベーターであるがゆえに陥るジレンマ、それが彼の唱えるメカニズムです。

ハッソがSAP HANAを考案したのは7年半前です。彼はSAPのCEOを引退し、大学で教鞭をとっていました。若い学生たちは企業の基幹系アプリケーションなんかにまったく興味を示さない、GoogleやFacebookに明け暮れている。70歳を超えた今でもハッソはエネルギッシュなエンジニアです。その彼が「どうやったら彼らを興奮させられるだろうか?」と考えました。博士課程の3人と何人かの学部生を集め、「データベースの処理速度はゼロにできる!」「インメモリーコンピーティングこそ、コンピューティングの未来だ!」と語り、ホワイトボードに構想を描き、「これを皆で作って社会を変えようじゃないか」と呼びかけ、20代の若者と共にインメモリー技術を勉強しました。ハッソは「SAPのような大きな会社が、根本的に発想の違うことに取り組むのは簡単ではない」と知っていたので、SAPの開発部門ではなくTシャツ姿の若者たちとプロトタイプを作りました。その時SAP側の技術のエキスパートとして参画したのがビシャル・シッカでした。

クリステンセン教授を前にしたSAPPHIRE NOWの講演中も、ハッソは二度ほど「SAPを説得するのが大変だった」と言っていました。最初のプロトタイプができたのが2007年6月、その時ハッソは学生たちを連れSAPの幹部陣に説明に行っています。持続的イノベーションを日々行う彼らは次から次へと問題を指摘し質問を浴びせます。ハッソは次のように返します。

“お前たち、わからないのか?これは製品じゃないんだよ。未来なんだよ。これが desirableじゃないのか?SAPの提供しているのはリアルタイムシステムだろう?今、SAPの顧客は本当にリアルタイムなのか?それでお前たちは満足してるのか?”

そうして学生たちがHasso’s New Architectureと名付けたプロジェクトが、SAPに受け入れられ正式な製品開発プロジェクトとしてスタートします。

(後編に続く)
1時間ほどかけてすでに全編書いていたのですが、飛行機降りたら同期で消えてしまいました・・。涙

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