カルビーの取り組みに学ぶ「グローバル化時代のニッポン人材の育て方」


こんにちは、SAPジャパンの鎌田です。あらゆる業種のビジネスが「グローバル化」の荒波にさらされる中、刻々と変化を続ける事業環境と市場のニーズに即応できる人材の育成は、企業にとってまさに未来の成長を左右する重要な経営課題です。このグローバル人材育成をテーマに5月22日に東京で開催された「SAP HR Connect Tokyo グローバルタレントマネージメント 2014 ~多様性社会における適材適所の人選経営~」において、有識者をお招きして公開されたパネルディスカッションでは、日本企業と海外企業の人材育成の考え方の違い、また人事部門の役割についての認識の違いなど、さまざまな示唆に富んだ議論が交わされました。

さらなる成長を支える海外市場への進出

IMG_0405「カルビー松本CEOと一橋大学 米倉誠一郎教授が斬る、日本企業のタレントマネージメント」と銘打たれたパネルディスカッションでは、まず冒頭でカルビー株式会社 代表取締役会長兼CEOの松本晃氏が「海外ビジネスに日本人はいらない!?」という刺激的な発言で、会場の参加者を驚かせました。ジョンソン&ジョンソン株式会社の代表取締役社長などを歴任し、グローバルビジネスで多くの経験を持つ同氏の発言は、日本のグローバル人材のあり方を模索する私たちにとっては意外とも思えるものです。

「私も日本人は優秀だと思っていますが、近年は他のアジア諸国における人材の成長がめざましく、一方の日本人は昔とあまり変わっていません。また、相変わらず長時間働く人はいますが、かつてのように一所懸命働く人は少なくなっています。その割に日本人の賃金は高い。こうした日本人が海外でビジネスができるかというと、なかなか難しいのが実情です」。

「右肩下がり」といわれる日本の菓子市場の中で、松本氏の率いるカルビーは着実な成長を続け、主力のスナック菓子では55%、ポテトチップス単独では約70%超、シリアルでは国内首位の35%のシェアを誇ります。こうした好業績にもかかわらず、松本氏は「世界に羽ばたくカルビー」をスローガンに、あくまでグローバル進出の重要性を強調します。

「国内市場がこれ以上拡大しないことはすでに明白です。さらなる成長を目指すならば、世界市場をねらうのは必然の戦略であり、最重要課題です」。

今後の成長の最大のコンポーネントは海外にしか存在せず、その海外で成功するためのファクターとして、松本氏は4つのポイントを挙げます。

  1. コスト:海外では、「コストに利益を乗せると売り値」という過去の日本のビジネスモデルは通用しない。お客さんがその製品に対していくら払ってくれるかを、まず考える。売り値から適正利益を引くとコストが出る。そのコストで作れないならやらない
  2. スピード:グローバル市場で勝ち抜くためには、とにかくスピードが重要。特に韓国、中国、近年台頭するアジア諸国と競争していこうと考えるなら、ビジネスのスピード感が不可欠。
  3. 徹底したローカライゼーションと分権化:原材料、機械設備、マネージメント、従業員、商品はすべて現地調達が必須。だが日本で成功した会社ほど、過去の成功体験をそのまま持ち出そうとして障害になる。社内の官僚主義を徹底して排除しなくてはならない。
  4. パートナー:カルビーの海外戦略モデルでは、単独展開、ペプシコとの提携、もしくはそれぞれのローカルパートナーとの提携といった3つの選択肢の中から最善策を検討している。

新たな人材の育成を担う人事部門の重要性

続くパネルディスカッションでは、グローバル市場における未来の成長を目指すカルビーが、実際にどのような人材育成を実践しているのかを中心に、一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏をモデレーターに迎え、SAPジャパンのChief Innovation Officerを務める馬場渉もパネリストとして参加して、意見が交わされました。

まず、米倉氏から出された「人材育成に関して日本の会社のダメなところは?」という質問に対して、松本氏はすかさず「人事部門が充分に評価されていない」点を挙げ、「一番大事な仕事をしているのに、日本企業では人事部門が正しく評価されていません。現在、CEOで人事部門出身の方はほとんどいないはずです。人事権を持っている人は偉いが、人事部は偉くないと多くの人が考えている。それではやはりダメです」と話しました。

人事部門は人材育成の基盤である「採用」「教育」「制度」、さらには育成した優秀な人材を定着させる「リテンション」や、どうしても水準に満たない場合は切り離す「ターミネーション」まで、どれも重要な職務を担っています。こうした人事の役割の重要性を正しく評価するとともに、企業全体で人材開発の仕組みづくりに真剣に取り組むことが、グローバル人材戦略の基本であり、スタートだと松本氏は強調します。

権限と責任を与え目標に取り組ませることで人は成長する

大学で教鞭を執る米倉氏は、「就職活動をする学生の頭の中は、『大企業に行きたい』という考えでいっぱいです。大手企業に就職することがゴールになってしまって、肝心の自分のキャリアプランがまったくできていない。だから30歳くらいまではどうにかいけるが、その上のディシジョン(意思決定)を担う立場に就くことができない」と指摘します。

こうした日本の若手人材に対して、実際にグローバル市場でディシジョンまでを担える人材を育てるには、何をポイントとすればよいのでしょうか。この点について、松本氏は「責任の所在をはっきりさせること。育てる側も、育てられる側もそれぞれの責任を持つことで成長するし、担うべきミッションが明確になります」と明言。さらに同氏は、日本企業では一般社員からマネージャーまでが、ものごとを決定する権限を持たされていない点に言及し、「もちろん職制や職階に応じた権限はあるものの、重要な判断の場では『何となく、大勢の意見をまとめて』といった風土がわが国の企業には根強く残っています。その点、外資企業は若いうちから相応の権限を与えます。人は責任や権限を持たされると、そのことによって真剣に仕事に取り組み、自分の役割を考える結果、成長するのです」と言及しました。

また、責任をコミットメント(約束)として具体的な数字で示すことも重要だと、松本氏は指摘します。カルビーでは利益、売上など、職域や職種に応じて各自が数字で目標を掲げ、執行役員はもちろん全従業が、それぞれの上長と契約を交わす仕組みを採用していることを紹介した上で、「もし数値が未達だと昇進や昇給に関わるなど、シビアな結果も引き受けなくてはなりませんね」という米倉氏からの質問に対しても、同氏は「数字という指標がなければ、あとは『好き嫌い』でしか評価できません。しかし、そうした曖昧な基準でやっていくと、だんだんみんな嫌気がさしてきて、結局は士気の低下=成長の阻害要因になってしまうのです」と、数値に基づく契約の平等さを強調しました。

「現地で」「現地人で」がスピードとパフォーマンスも上げる

日本企業が海外展開を進めていく上で、現地法人を誰が、どこが監督するのかは大きな判断の分かれ目です。松本氏は自社の例として、「日本人がいない現地法人の方がはるかにうまくいく」という意外な事実を挙げます。

「グローバル市場では、それぞれの国や地域に根差したビジネスモデルが必要です。それを、日本人的な既成概念で乗り切ろうとするとうまくいきません」。

カルビーではまず現地人のトップを決めて、あとはその人物にほとんどの業務を任せます。採用にあたっては過去の実績はもちろんですが、人格や考え方も含めて良い人材を探すことが成功の秘訣だと松本氏は語ります。また現地法人や国内にかかわらず、いかなる意思決定も、「いつまでに、誰が決めるのか?」を最初に決めておくことが重要です。

「『誰が』より、『いつまで』が、判断のスピードの要です。外資系企業に比較して日本はいわゆるサラリーマン社長が多いので、なかなか1人で決められず、ビジネスのスピードに欠けるきらいがあります」(松本氏)。

これを受けて馬場も「スピードを上げるためにシンプルにしていくという発想が、これからの日本の企業には必要です。これまではわずかでも良い「ディシジョン」を行うことが重視されましたが、これからは未知のものや例のないものに挑戦する『トライ』が大切です。SAPでも人事ソリューションを始め、こうした企業のアクティビティを支援するツールを積極的に開発、提供しています」と語ります。

最後に米倉氏から「今後に向けたグローバル人材育成の課題とは?」と尋ねられた松本氏は、トライ&エラーの必要性を指摘。松本氏は「グローバル人材を育てようとするなら、組織も仕組みもシンプルにしてビジネスやディシジョンのスピードを上げていかなくてはなりません。そのためにもどんどん権限委譲して、失敗を体験させなければ成長はありえません」と話し、日本企業では一度失敗するとおしまいだが、カルビーには部長級以上の従業員には1回限りの“敗者復活戦”のチャンスが与えられているとして、ディスカッションを締めくくりました。

次回も引き続き、「SAP HR Connect Tokyo グローバルタレントマネージメント 2014」のセッションから、SAP AGのバイスプレジデントを務めるディヴィッド・ラドロウが語った、ミレニアル(新世紀)世代のエンゲージメントを促し、人材不足の時代に備えるための人事戦略についてご紹介します。

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