【JSUG Leaders Exchange Interview】 「もの言うIT部門」がビッグデータ活用を成功に導く


Business woman having a fun of Tablet PC前回はJSUG常任理事の鈴鹿靖史氏が所属する日本航空株式会社(以下、JAL)におけるデータ活用の事例として、SAPベースで構築した整備業務管理システムを取り上げ、膨大な部品在庫の可視化、在庫数の削減に成功した事例をご紹介しました。今回は、同じくJALにおいて自社サイトへの膨大なアクセスデータを元に訪問者の行動解析を行い、旅行商品の購買率を従来比で10倍に増加させたビッグデータの活用についてお話を伺います(聞き手:SAPジャパン 濱本 秋紀)。

ビッグデータの分析で「女子旅@海外」の売上げが10倍増に

─最近話題の「ビッグデータ」ですが、まずJALのビジネスにおいては、ビッグデータ活用をどのように捉えていますか。

鈴鹿 最近は確かにビッグデータという言葉だけが一人歩きしている感があると思いますね。JALのように常にお客様と接するビジネスでは、従来から「お客様の声」や「アンケートによる顧客志向の調査」などの膨大なデータがあり、これらの有効活用には以前から取り組んできました。しかし、今後ますます重要になるのは、従来のマーケティング活動からは得られないデータの隠れた価値を見出して、いかにビジネスの成長に結びつけていけるかだと思います。

─JALにおけるビッグデータ活用の具体的な事例をご紹介いただけますか。

鈴鹿 Web販売本部 1to1マーケティンググループの取り組みは象徴的といえます。JALのWebサイトには、毎日40万人のお客様からのアクセスがあります。それだけにWebサイトは24時間365日、お客様との接点になる重要な旗艦店舗と言えます。実際、国内線の航空券は、自社サイトからの販売比率が50%を超えるほどにまで伸びているのです。Webサイトのログデータは毎月2億ページビューに達し、訪問者はJALのサイトを見る前にどのサイトを見ていて、JALのサイトではどのページを見たか、使っていた端末はパソコンかスマートフォンかといったデータが、航空券を買わなかった人も含めて日々蓄積されています。1to1マーケティンググループの10人弱のメンバーは、この膨大なデータの分析を行い、マーケティング施策を実行して大きな成果を残しています。

─メンバーの皆さんは、どのような分析を行い、どういった施策に反映していったのでしょうか?

鈴鹿 まず、アクセスログの収集・分析の仕組みを構築し、訪問者の行動データを回帰分析してモデル化しました。例えば、「Aという行動を選ぶ顧客群(セグメント)には、Bのコンテンツが求められている」という仮説を設定し、詳細な分析を行ったうえで、顧客が望む商品やサービスを効果的に提供するという具合です。つまり、データを分析することによって、お客様それぞれに最適な提案を行うことを目指したわけです。

─ビッグデータを使って売上げが急伸した事例はありますか?

鈴鹿 2013年秋に実施した「女子旅@海外」というコンセプトの海外ツアー商品の販売では、通常に比べて10倍という購買率を達成しました。まず、過去に「女子旅@海外」を購入したお客様の閲覧ページとそれに伴う行動傾向を分析し、共通した要素を抽出します。閲覧者のデータでは1人あたり約130の要素を考えましたが、どの要素に注目するかが極めて重要なのです。分析の結果、「女子旅@海外」を購入したお客様には、23個の共通した要素があることが分かりました。その中の1つが「スマートフォンからのアクセス」です。「女子旅@海外」を購入されたお客様は、そのほとんどがスマートフォンからのアクセスなのです。「女性はカフェなどに集り、みんなでスマホを見ながら旅行の相談をするのではないか?」という女性社員の意見も参考になりました。これまで女子旅海外ツアーを購入したことがない訪問者の中で、同様の行動傾向を持つ訪問者に対して、自社サイト内のバナーで「女子旅@海外」を推奨したところ、購買率が飛躍的に伸びました。

─通常比10倍とはすごい成果ですね。これは家族旅行のパイを個人旅行が奪ってしまった訳ではないのですね。

鈴鹿 違います。家族でも旅行に行きますし、個人でも旅行に行くという両方のお客様が増えた結果です。一般的な傾向として、家族旅行は学校が休みの7月、8月が多く、女子旅は9月に多く見られることが分かりました。つまり、学生さんは試験休みに入り、OLさんは有給休暇が取りやすくなるからです。スマートフォンからの閲覧が多いことも今回分析して分かったことですが、ビッグデータというものは無理矢理ひねり出すのではなく、日常の生活の中に埋まっている宝の山だということを改めて認識しました。

ビッグデータ活用の鍵は、IT部門とビジネス部門のコミュニケーション

─1to1マーケティンググループは、マーケティング部門の一部ですか?

鈴鹿 いいえ。販売部門なのです。JALには別に顧客マーケティング本部がありますが、データ分析だけで終わるのではなく、それを販売に結びつけることが重要であるという考えのもとで、1to1マーケティンググループはWeb販売本部に属しています。つまり、データ分析はあくまで手段であり、彼らの評価は売上げの伸びで決まるわけです。彼らのほとんどがITの専門家ではなく、営業畑出身なのが特徴的だと思います。余談ですが、データサイエンティストである1to1マーケティンググループのリーダーは、気象予報士になりたくて、大学の文学部で地理学を学んだそうです。

─ほとんどの企業では、こうしたデータはIT部門が管理していて、ビジネス部門は提供されたデータを活用するという体制が一般的だと思います。またIT部門はデータの中身には関心を払っていないことが多く、このことがIT部門とビジネス部門との深い溝につながることが多いように感じます。

鈴鹿 データを分析するのはあくまで手段であり、目的は企業価値、顧客満足度、販売実績の向上だという考えを共通認識にしなければなりません。そのためには、IT部門が日常的にビジネス部門とコミュニケーションを図ることが重要です。実際、1to1マーケティンググループの担当は、社内部門とのコミュニケーションはメールではなく、直接会って話すことを心掛けていると話していました。IT部門が、ビジネス部門から要求されるままにデータ分析を行うだけでは、本当の成果は生まれにくいと思います。さらに言えば、ビジネス部門から声がかかるのを待っているのではなく「こういったデータが活用できる」「こんな分析ができる」と、ITを熟知する立場から積極的にビジネス部門に働きかける、提案していくことが求められていくのではないでしょうか。

─確かにIT部門ならではの専門的な意見は、ビジネス部門にとってもうれしいに違いありません。

鈴鹿 はじめにデータ分析ありきではなく、まずビジネス部門の要望や経営課題があり、それを実現・解決するためにデータ分析があることを忘れてはいけません。データに詳しいIT部門と、経営課題やビジネス上の要望を持っているビジネス部門がうまくコミュニケーションできなければ、なかなか活用には至らないと思います。大切なことは、経営課題や経営目標を共有し、それを実現・解決するためにはどうすればよいのかを一緒に考えるという姿勢です。「もの言うIT部門」になっていただきたいと願っています。

─そしてビッグデータ活用には、当然のように明確な成果も求められますね。

鈴鹿 そうですね。データ分析を行う上で気を付けなければならないのは、何らかの経営目標の達成、経営課題の解決のために行うことです。データを分析することが目的ではなく、分析の結果に基づいた施策を実行し、検証を行って、さらなる分析に役立てる。こうしたPDCAが重要だと思います。1to1マーケティンググループのメンバーはほとんどが営業出身者で、販売に役立てるためにデータの分析を行っているということを全員が理解しています。また、販売促進の施策を自分たちで考え、その結果に責任を持たせていることも成功要因の1つではないでしょうか。

─データ活用は、それ自体をやっていないからといってビジネスが止まってしまうわけではありません。だからこそ、他社との差別化を図るためには、それぞれの部門にデータ活用の努力が求められるということですね。

鈴鹿 その通りです。JALでもこれからやるべき課題は山積しています。1to1マーケティンググループでは、現在のところWebサイト内だけの販売促進策を実施していますが、今後はWebサイトで実践してきたデータ分析や接客のノウハウを、機内販売や機内食といったリアルな接客分野にも展開していくことを考えています。

─貴重なお話をありがとうございました。

JALの事例から、ビッグデータの活用に関するヒントが多く見えてきました。次回以降も、JSUG LEXの参加企業の方にデータ活用のお話を伺っていきます。

■略歴
鈴鹿靖史(すずか・やすし)氏
日本航空株式会社 常勤監査役
JSUG常任理事

image1979年に東京大学工学部航空学科を卒業後、日本航空に入社。4年間のシアトル技術駐在等を経て、主に、航空機整備の技術部門を担当。新型航空機導入の際の客室仕様や客室の座席の開発等のプロジェクトに携わる。2004年4月から、整備企画室部長として、航空機整備の基幹システムへのSAP導入のプロジェクトマネジャーを務める。2008年11月にSAP稼働を果たし、その後技術部長を経て、2010年12月に整備本部副本部長に就任。2012年7月常勤監査役に就任し、現在に至る。日本航空の実務のかたわら、2013年7月からJSUG常任理事を務め、2014年度から、JSUG Leaders Exchange(略称LEX)活動の代表も務める。

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