食品・消費財業界グローバリゼーション2.0――第1回:海外展開を行うための心得
作成者:大滝 明彦 投稿日:2014年6月17日
SAPジャパンの大滝です。本連載では、「食品・消費財業界グローバリゼーション2.0」と題して、業界トレンドとそれに関わるSAPとしての取り組みを2回シリーズでご紹介していきます。国内志向の強い日本の食品・消費財業界においても、もはやグローバル化は待ったなしの状態になっているとの観点から、「海外展開を行うための心得」、「世界で勝つ!そのための施策とは」というテーマでお送りします。第1回目は、「海外展開を行うための心得」です。
海外展開、待ったなし! 実力は十分だが……
ここ数年来、もともと国内志向の強かった食品や消費財関連企業の海外展開が活発になってきています。そしてその傾向は今年さらに勢いを増し、主だった会社の中期経営計画などの中長期方針に「海外成長」、「海外収益拡大」などの文言があちらこちらに盛り込まれています。長年、当業界を見てきましたが、ここまで声高に叫ばれるようになったのは初めてです。
これは、国内市場の縮小が必至で、海外で稼がないかぎり成長できないという強い危機感の表れ以外の何ものでもありません。そして、食品分野で言えば、幸いなことに日本食は世界的なブームとなっており、いま海外で事業をすれば受け入れられる余地は非常に大きいでしょう。また、消費財も含め日本製品の品質には絶大なる信頼感があるのは間違いない事実であり、世界に打って出ることのできる実力は存分に備えています。
とは言っても、グローバルな食品・消費財企業と比較すると、規模、展開国数、ブランド力などにおいて見劣りする感があり、「現実に目を向けると果たしてやっていけるのか?」という思いが日本企業には強いと思います。
海外事業は別物?「グローバリゼーション1.0」という現状
実際、先進事例として日本企業も海外での買収や合弁事業、現地生産などを進めているケースがあり、日本国籍のグローバル企業にならんとしていますが、実際のところ、先行する海外グローバル企業と比較すると何かが決定的に異なるようです。ではその「何か」とは一体何なのでしょうか。
要因として考えられるのは、これまでドメスティック志向で事業を行ってきた企業にとって、「海外事業は別物」という考え方が根底にあるということです。まず、日本企業全般の特徴として、組織がトップダウンでなく、ボトムアップなので、現場での業務の最適化や合意形成を重視します。それゆえ、現場ごとにそれぞれ組織構造や形態が違うことがよくあります。加えて、海外においては現地化を進めるべき、現地で独自に経営をさせるべき、という文化があります。さらに、合弁会社設立や企業買収においても現地経営陣に独自にマネージさせる傾向があるので、日本本社は細かいことがわからない、ものが言えない状況を生み、「海外事業は別物」となってしまっています。
また、独自で海外事業を育成できた企業のケースでも、それは経営トップのコミットメントで実施したものではなく、一担当者が新規事業として海外へ売り込んで成功したというものが多いのが現状です。たとえば、キッコーマンの醤油は海外で評価されていますが、これらは長いこと担当者が現地で使い方や試食などの地道な普及活動をしてきた結果です。あるいは、ユニチャームの紙製品などは、品質の高さが評価され、製品としてグローバル化しています。いわば、「製品依存」のグローバリゼーションです。国内とは異なるアプローチの産物であり、これも「海外事業は別物」という意識の要因になっています。
さらに当業界において顕著ではありますが、「やはり重要市場は日本」との意識が相当根強く、役員につらなる「本流」の管理職、スタッフ、営業などは国内畑出身という企業が多い。これも「海外事業は別物」という意識につながります。
いずれにせよ、ある程度の海外展開は行ってきたものの、これまでの成果は日本発の海外販売で個別適応あるいは偶発的なものでした。一応の成果は上がっているものの拡大再生産が見込みにくく、とりあえずグローバル化できたという、いわば「グローバリゼーション1.0」とでもいうようなものとなっています。
海外展開に向けて、では何を心得るべきか?
先にも記したように、日本の食品あるいは商品としての消費財に対する海外市場からの期待と信頼感は間違いなく高いと言えます。しかしながら、「海外事業は別物」という認識が阻害要因となっているので、まずはこの部分の意識改革を行うべきと考えます。また、日本国内ではすでに企業として確立された存在になっているがゆえに、特別なプロモーションやマーケティングを必要としないことが想定されますが、海外では知名度がほとんど無い場合が多いので、グローバル市場に向けたマーケティングに取り組む必要があります。とりわけ、グローバル企業が得意とするブランディングにおいて一考を要します。
海外展開の心得として、ここでは(1)日本企業として活かせる強みを海外でも活かす、(2)全社のコミットメント、(3)系統だったブランド・マーケティングの実施、の3点を指摘したいと思います。
(1) 日本企業として活かせる強みを海外でも活かす
気をつけなければならないのは、「強み」と思っていても、置かれた状況などにより必ずしも強みとならない点です。自社がよいと思っていることが海外ではそうではない場合も存在します。ただし、日本市場においてこれまでの地歩を築いてきた背景や要因について認識し、活かせる強みは海外でも活かすことが重要です。この部分こそが、いわゆる単純な海外のグローバル企業の「ものまね」ではない価値を創出するものと考えます。
たとえば、当業界における企業の多くは、創業からの歴史や伝統、経営理念を非常に大切にしています。それに基づき、製品品質へのこだわりやよいものを作ろうとする精神、文化や生活習慣との深い関係性の構築といったことを培ってきました。これらは、単なるスローガンではなく、体に染みついたいわば遺伝子のようなものなので、変えてはいけないものです。そして、多くのグローバル企業に対する独自性の源泉でもあります。したがってこのような意識を明文化し、海外展開先の市場や事業パートナー、従業員などに伝えていくことが、強みを広めていくことになるのです。
(2)全社のコミットメント
既述のとおり、これまでの多くの海外事業は、端的に言ってしまうと、「人任せ」でした。つまり、買収をしても合弁会社を作っても現地法人を設立しても、現地のやり方でまかせてしまう。あるいは、成功した海外事業の多くはことのほか、一担当者の熱意と努力に基づく属人的な成果であることが多く、ある意味、偶発的事象となっていました。これでは、海外事業の「しくみ化」にはつながりません。
ここにおいて、間違いなく経営トップのコミットメントが必要になるのです。経営トップや優秀な営業マンを海外展開に積極投入し、現地と一体となって事業展開を行っていく。そして、上述の強みを現地に対して組織的に伝えていくことが肝要となります。
(3)系統だったブランド・マーケティングの実施
いまだに「よいものを作れば売れるはず」という考え方があります。しかしながら、よいものを作っても、お客様に知ってもらわない限り、振り向いてもらえません。新規市場に参入する場合はなおさらです。ただし、国や市場ごとに個別のアプローチを行うのではとても非効率です。
そこで、グローバルに系統立てたブランドマーケティングを行うことが必要になります。それにより、規模の経済性を確保し、スケーラブルなマーケティング活動を行うことが可能になります。そして、この活動の一つのコアになるのが、上述(1)に記した「日本企業として活かせる強みを海外でも活かす」ことであることは間違いありません。
「グローバリゼーション2.0」に向けて
日本の食品・消費財企業のグローバル化への挑戦は、まだ始まったばかりです。すでに海外展開を行っている日本企業もありますが、個別撃破型で各国・各市場に参入しているケースが少なくありません。本当の意味でのグローバリゼーションではなく、「海外進出」のレベルです。すでに述べたように、さながら「グローバリゼーション1.0」とでもいうべき姿です。国際的な競争力を持つために目指すグローバル化は、文字通り地球レベルでのグローバル化であり、目指す方向は「グローバリゼーション2.0」です。
活かせる強みの明確化、全社コミット、系統だったマーケティングという心得を念頭に、グローバル企業の事例やSAPとしての取り組みを含め、次回は「グローバルで勝つ!グローバリゼーション2.0」というテーマで解説いたします。
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