製造業の「モノ」から「コト」への事業変革。サービス事業の強化の流れ:その④ケーススタディー 歯科器具業界を例に


SAP桃木です。製造業の「モノ」から「コト」への事業変革。今回は4回目です。これまでの3回の連載を通じて、この変革の重要性、各部門への影響、ITへの影響を考察してきました。今回は皆さんが研究したことがないであろう業界をあえて取り上げ、どのような「コト」への事業変革が実際に進んでいるのかを一緒に考えてみたいと思います。

1回目:なぜ注目されているのか
2回目:各部門に求められる変化
3回目:ITに求められる変化

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Germany Bavaria Landsberg Dentist and Female Dentist Assistant wearing mask今回、取り上げるのは歯科器具業界。歯医者さんの診療用の椅子を作っているメーカーである。売上300億円~700億円の規模の企業が多い。もともとは歯医者さんで使う診療用の椅子を作っていたこれらのメーカー企業が、現在では、各種消耗品の代理販売や、開業支援、開業ローン、診療システムのクラウド提供、「患者さん満足度を高める言葉遣いセミナー」、5年間定期保守、ソフトメンテナンス・プログラムの提供、遠隔保守システムの提供、歯科大学への奨学融資の提供、歯科大学の同窓会への協賛などを行っている。

歯医者を志す学生は、この椅子メーカーから、奨学融資を受け、同窓会を開いてくれ、開業支援をしてくれ、開業のローンを組んでくれ、当然ながら椅子を売ってくれ、診療システムのクラウド提供を受け、各種のセミナーを提供してくれ、歯医者で日々利用する消耗品をすぐに持ってきてくれる。至れり尽くせりな相手なのだ。

歯医者のウォレットシェアという観点から見ると歯医者業のコストの大部分は椅子メーカーに払っている。それでいながら、他の椅子メーカーに変える気さえ起きない、という深い関係になっているだろう。

このような多様な「コト」を提供する歯科器具業界のメーカーであるが、当然ながら最初は「モノ」のビジネスから始まった。いくつかの段階を踏んで今日の「コト」ビジネスに至っている。どのような段階を踏んで発展したのかその経緯を紐解いてみる。

STEP1 製品の幅広さ。オプション品の充実

歯医者の椅子という本体製品に加え、さまざまなオプション品がここ数年に一気に充実してきた。炭酸ガスレーザー治療器、根管長測定器、重合用光照射器、麻酔用電動注射器、X線撮影装置、高圧蒸気滅菌器などなど。さらに、カスタマイズの幅も広がっており、歯医者に来る患者の特性に応じて椅子の色や形、ドリルなどさまざまなカスタマイズに対応している。

ビジネスモデルとしては、一般的な製造業と同様である。歯医者さんという顧客が「モノ」を必要なときに「モノ」を提供する。

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STEP2 サービス提供

提供しているモノが壊れれば修理サービスを提供する。歯医者さんにとって椅子というのは商売道具であり、修理は迅速に対応して欲しい。修理の取り掛かりや修理完了までの時間を契約するサービスレベルアグリーメント(SLA)や24時間対応などの付加価値サービスが生まれてくる。また、簡単な修理や日々のメンテナンスはお客様自身にやっていただいたほうが効率的なので、Webサイトにメンテナンスマニュアルなどを掲載するといった取り組みも行われている。マニュアル類は分かりやすさが求められ3D画像などを使うことなどもある。(社内向けマニュアルは多少複雑でも良いが、お客様向けマニュアルは素人でも対応できる分かりやすさが求められる)。また、椅子をインターネットに接続してもらうことにより遠隔保守や予防保守を行うサービスも追加される。

この頃から、サービスによる売上割合が増えてくると同時に、新たなサービスを企画する組織やサービス事業の重要性が一気に高まる。

ビジネスモデルとしてはサービス事業の強化が見られる。顧客に対して「モノ」に付随する「コト」の割合が増えてくる。image2

STEP3 他社製品の代理販売や消耗品の提供

歯医者さんではさまざまな消耗品が必要である。診療用器具、歯冠材料、根管充填材料、接着用材料などなど。それらの消耗品は自社で製造していない商品も多い。顧客の利便性を考えればワンストップショッピングで済むに越したことはない。歯医者さんにとって最大の買い物の一つである椅子を収めている関係、また24時間サポートを提供している関係を考えれば、消耗品を代理販売することが自然である。

顧客の傍にいる機会が多く顧客理解が高まってくる。顧客の注文にもとづき消耗品個々を売るだけではなく、商品の目利きやセット化やパッケージ化など、より提案型での営業活動がさらに増えてくる。

また、多くの製造業は製造会社が親会社であることが多いが、この段階にいたると販売会社が親となり製造会社が子となるケースもでてくる。

ビジネスモデルとしては販売会社の調達やコーディネート能力の拡張が求められる。顧客に対して「モノ」に付随する「コト」はほぼすべてカバーできるようになる。image3

STEP4 ソリューション提供

顧客理解と関係がさらに深まると、自社の製品「モノ」に関係のない「コト」まで提供し、付加価値をさらに高めることができる。

開業した後に売上に悩んでいる歯医者さんがいれば、売上向上の施策やお客様獲得方法について外部講師を招いてセミナーを実施する。歯医者で利用する患者管理システムなどをクラウドで提供する。

開業の際に悩んでいる歯医者さんがいれば、開業ローンを提供したり、開業支援のために商圏分析や空き店舗の検索のサービスを提供する。

開業する前から歯医者さんの卵と関係を築こうとすれば、歯科大学への奨学融資の提供や、歯科大学の同窓会に協賛する。

ビジネスモデルは大きく変わる。これまでの競争力の源泉は自社の製品であった。良い製品を提供しているから自社が選ばれる。それが、この段階にいたると、顧客理解と顧客関係が競争力の源泉となる。「モノ」ではなく「コト」でビジネスを行う。image4

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さて今回は、みなさんが研究していなさそうな歯科器具業界を取り上げてみました。この業界の複数の企業がSTEP4にまで実際に進んでいる、という点が驚きです。顧客像が明確であるという特性のある業界なので、「コト」への変革がしやすかったという事情もあると思います。

次回は、そのような変化の中で役に立つSAPソリューションについてご紹介をしたいと思います。