デザインシンキングの方法論を活かしたネスレのUI変革

作成者:井口 和弘 投稿日:2014年8月1日

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こんにちは、SAPジャパンの井口です。モバイルのビジネス活用が急速に拡大する中、こうしたトレンドに追随しながら、どのようにすれば投資に見合う成果を上げることができるのか、具体的な方策に悩まされている企業は少なくないはずです。そこで今回から、2014年6月に米国フロリダ州のオーランドで開催されたSAP最大の年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW」のセッションから、モバイルを最大限に活用してイノベーションの実現に成功した企業の最新事例を、3回にわたってご紹介していきます。

モバイル活用の成否を分ける「ユーザーエクスペリエンス」

モバイルのビジネス活用を考える上で、重要となるのが「ユーザーエクスペリエンス」です。業務データへのアクセスからタスク処理まで、すべての操作がタブレットやスマートフォンなどの小さな画面上で行われるモバイル環境では、外出先や出張先などさまざまな場所で快適に操作できる使いやすさが何より重要です。誰にでもわかりやすい直感的なユーザーインターフェース(UI)が求められています。

SAPでは、2012年にUI画面のカスタマイズツールSAP Screen Personasを、そして翌2013年にはモバイル、デスクトップ用アプリケーション群SAP Fioriを発表。さらに2014年6月からは、SAP FioriとSAP Screen PersonasのいずれもがSAPソフトウェアの基本ライセンスに同梱され、すべてのSAPユーザーが実質的に無償で利用できるようになりました。

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すべてのデバイスで統合されシンプルなUIを提供するSAP Fiori

SAP Screen Personasは、ユーザーの業務要件に合わせて画面を柔軟にカスタマイズし、従来のSAP ERPの標準画面では得られなかった高い操作性をユーザーに提供します。またSAP Fioriは統合されたデザインによって、誰もが直感的かつ簡単にSAP ERPなどのバックエンドにアクセスできる、シンプルで使いやすいユーザーエクスペリエンスを実現します。この2つを組み合わせることによって、モバイルユーザー向けのシンプルなUIの迅速な展開と、自社の業務に特化したカスタマイズ画面の開発の両立が可能になります。

具体的な活用シナリオとしては、汎用的で多くのエンドユーザーに利用される画面をSAP Fioriのアプリケーションに置き換え、一方、各ユーザーの業務に特化したカスタムアプリケーションのリニューアルには、SAP Screen Personasを適用するという使い分けを提唱しています。この背景には、使用頻度の高いUIを迅速に刷新しながら、同時に業務要件を十分に満たせるカスタマイズのための環境を提供していくという、SAPのユーザーエクスペリエンス戦略があります。

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SAPが掲げるユーザーエクスペリエンス戦略

モバイルデバイスでの利用に特化する新規アプリケーションは、最初からモバイルデバイスに最適化して開発。また、既存アプリケーションに関してはビジネスユーザーによる利用頻度が高いアプリケーションはSAP Fioriで標準アプリケーションを提供、さらにSAP Fioriのカスタマイズで対応。特殊性が高いアプリケーションはSAP Screen Personasで個別対応するソリューションを提供します。

導入事例:全社的なモバイル利用を加速するネスレのUI変革

SAP FioriとSAP Screen Personasを利用して、自社のモバイル環境におけるユーザーエクスペリエンスの向上に取り組んできたのが、世界でもトップの売上高を誇る総合食品飲料メーカーであるネスレです。SAPはより優れたUI開発を目指して、2012年から同社を始めとするユーザー企業との共同研究を進めてきました。今回のSAPPHIRE NOWで発表された事例は、その大きな成果の1つといえるものです。

ネスレでは、かねてからモバイルアプリケーションの拡充と利用範囲の拡大に取り組んできました。しかし、新たに導入されたモバイル環境を有効利用するためには、そのためのトレーニングとスキルの習得が必要となり、ユーザーへの浸透が思うように進まないことが課題となっていました。

同社のプロジェクト担当者であるダフネ·ヴァン·デン·ブリュレ氏は、「当初はアプリケーションの入れ替えが可能なものはSAP Fioriに置き換え、それでも要件を満たせない場合はSAPの業務系UIフレームワークであるSAPUI5でカスタマイズしていました。その後、この部分にSAP Screen Personasを導入することで、よりシンプルなカスタマイズ処理が実現できると考え、全面的なUI環境のリニューアルに向けたSAPのデザインシンキングチームとの共同開発に踏み切ったのです」と語ります。

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既存のログオン画面(左)をSAP Screen Personasで大幅にシンプル化

成功の秘訣は、用途に応じて選択すべきテクノロジーの見極め

ネスレでは業務システムのUI刷新にあたって、まず注文変更処理をシンプル化することから着手。その後は順調に導入範囲を拡大し、現在は購買承認処理など6つのSAP Fioriアプリケーションが稼動中です。

「SAP Screen Personasを使ったカスタムアプリケーションについてもPOCが終了し、発注変更処理などのパイロットシステムがすでに稼動中です。現在は、全体のデザインメソドロジーの見直しやパフォーマンス向上にも取り組み始めているところです」(ブリュレ氏)

同社では、アプリケーションの見直しに必要なポイントとして、「SAP Fioriによる置き換えの可否」と「モバイルでの利用の有無」を挙げます。プロジェクトを進めるに先だって、SAP FioriとSAP Screen Personasいずれのテクノロジーを選択するかの見極めは重要です。また、そのためにはビジネスニーズの詳細な把握も求められます。同社では以下のような手順でテクノロジーの選択を進めていったといいます。

  1. SAP Fioriが自社の業務要件に適合するかどうかを検討し、OKであれば置き換えるだけでUIの迅速な改善を実現
  2. 業務要件によってカスタマイズが必要な場合も、SAP Fioriに少し手を加えればすむのか、SAP Screen Personasを使うべきかの見極めを実施
  3. いずれの方法でも要件を満たさない場合、SAPUI5でのカスタム開発を選択
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業務要件に最適なツール選択を行うことが成功につながる

「成功を収めるには、POCなどを実施して事前にメソドロジーやテクノロジーの標準化と実現性の立証を行っておくことです。さらに、関連組織やシステムの統制方法などガバナンス面でもきちんと検討しておく必要があります」と、ブリュレ氏はプロジェクト成功の秘訣を明かします。

ネスレの事例を見てもわかるように、SAP FioriとSAP Screen Personasを活用することで、エンドユーザーにわかりやすく使いやすいUIが、業務用途に最適化された形で容易に実現することができます。また、この2製品の無償化によって、SAPユーザーであれば誰もが基本ライセンスだけでユーザーエクスペリエンスの飛躍的な向上にチャレンジできるようになりました。

SAPは今後も、デザインシンキングの思想をベースに拡大を続けるモバイルソリューションの領域に向けた積極的な支援と、新たなプラットフォームやソフトウェアの提供に取り組んでいきます。モバイルへの取り組みを検討される企業は、ぜひお気軽にご相談ください。

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