フィリップス66の最新事例に学ぶ――エンタープライズモバイルに本当に必要な3つのステップ

作成者:井口 和弘 投稿日:2014年8月7日

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こんにちは、SAPジャパンの井口です。2014年6月に米国フロリダ州のオーランドで開催されたSAPの年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW」から、エンタープライズモバイルにおけるイノベーションの最新事例をご紹介する本連載。2回目は、中長期的なビジョンに立ったロードマップをもとに着実にモバイル戦略を実現しつつある、世界的な石油精製・販売企業であるフィリップス66の取り組みについて見ていくことにしましょう。

モバイルありきの前に、まず戦略がなくてはならない

276493_l_srgb_s_gl営業や販売の現場でのスマホやタブレットをはじめ、これらのデバイスを使って、時や場所を選ばずにリアルタイムでデータを参照・分析できるBIツールの活用など、その領域は確実に拡がりつつあります。

しかし、こうしたトレンドとは裏腹に、中長期的な経営戦略に基づくモバイル活用のシナリオを明確に持っている企業はごくわずかです。

手軽に今すぐというならば、既存の業務システムや情報系システムにアドオンする形でスマホやタブレットを使えるようにする方法もあります。しかし、今後マーケットもビジネスも激しく変化していく中で、その変化に伴うシステム改修や開発に膨大なコストと時間がかかってしまっては、かえって逆効果です。

モバイル戦略の実現にあたって必要な3つのステップ

フィリップス66の事例発表に先だって登壇した、モバイル市場調査・分析企業ロペス·リサーチ社のマリベル・ロペス氏は、「エンタープライズモバイル=モバイルを活用したビジネスの実現には、下の3つのステップを経ていくことが必要だ」と語ります。

  1. エクステンド(拡張):既存プロセスへのモバイル導入、モバイル化
  2. エンハンス(向上):ワークフローやビジネスプロセスへの取り込み、新たなビジネスプロセス機能の開発
  3. トランスフォーム(転換):新しい販売網などの構築。拡張現実(AR)やビッグデータとモバイルの統合などによる、まったく新しいビジネスプロセスへの転換
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図1:エンタープライズ モバイル実現に向けた3つのステップ

エクステンド(拡張)は、最初のステップです。たとえば経費精算をスマホで行えるようにするといった、既存の業務を「モバイルでも」できるようにすることが主になります。次のステップであるエンハンス(向上)では、時間や場所を問わず本社サーバー内の資料にアクセスできる、出先で撮影したビデオや画像などを即座に業務データベースに格納・共有できるといった、モバイルならではの差別化要素をビジネスプロセスに組み込んでいきます。そして、3つ目のステップであるトランスフォーム(転換)では、モバイルによる新しい販売の枠組みなどの構築。また他領域の新しいテクノロジーとモバイルを融合した、「これまでになかったビジネス」の創出にまで到達します。

「これらのステップを進めるにあたって、最初はあれもこれもと欲張らずスモールスタートで成果を出しながら、自社のモバイルプランを策定することが大事です」(ロペス氏)。社員にとって身近な経費精算あたりから始めて、社内にその便利さや可能性を理解させつつ、戦略に沿ってプラットフォームの統合や拡張、新たなテクノロジーとの融合といったより高いフェーズへのステップアップを図るべきだと、同氏は主張しています。

3つのステップをベースにモバイルの戦略的導入を進行中

フィリップス66は、世界的な総合石油エネルギー会社であるコノコフィリップスから2012年に独立し、石油精製・販売を手がける企業です。独立当時、同社では業務プロセスの中にいかにしてモバイルを導入し、業務効率を向上させるかが大きな課題でした。

そこで同社では、前章でも紹介した3つのステップのコンセプトに沿ってモバイル戦略を策定。そのロードマップに沿って、プラットフォーム選択やアプリケーション開発を進めていったと、モバイルプラットフォームおよびモバイル開発の責任者であるマイク・ドナルドソン氏は語ります。

「モバイルはまったく新しい環境とあって、最初にモバイルプラットフォームのPOC(概念実証)を行いました。ここは『エクステンド』に当たる部分なので、全社員向けのB2Bアプリや社内の旅費精算のような、すぐに成果があらわれるものから着手しました。その成果をもとに開発したアプリケーションを、別の部門やユーザーに展開し、啓蒙活動を行うことで全社に広げていく戦略をとったのです」

最終的に、端末はiPhoneを採用。その管理ツールには、MDM(Mobile Device Management)ソリューションであるSAP Afariaが導入されました。また、モバイルアプリケーションプラットフォームにはSAP Mobile Platform(SAP Sybase Unwired Platform)を採用しています。

現在は、約3,000台のデバイスをSAP Afariaで管理。現在はSAPの設備保全管理ソリューションに対応したSAP Work Manager 導入に向けて、SAP Mobile Platformの最新バージョンのランプアップを実施中だとドナルドソン氏は明かします。

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図2:フィリップス66とモバイル環境の概要

戦略からアプリ展開までのベストプラクティスを目指して

ともすれば単なるモバイル端末の導入ばかりが議論されがちな中で、フィリップス66の事例は、企業全体の将来像を見すえた上で、中長期的展望に沿って自社のモバイル戦略を策定。統合されたプラットフォーム環境の上に、個々のソリューションやアプリケーションを展開していくという、大きなビジョンとシナリオに基づくエンタープライズモバイル導入のベストプラクティスといえるでしょう。

フィリップス66の事例からもわかるように、企業におけるエンタープライズモバイル導入にあたっては、既存の業務プロセスをどのようにモバイル化していくかという視点が不可欠です。もちろん、社内の啓蒙やモバイル活用体験の提供といった意味では、メールをスマホで見られるようにする、外出先からクラウドのストレージを使える仕組みを導入するといったことも、ごく初期の段階では有意義な試みだといえます。

しかし、モバイルを「エンタープライズモバイル」、すなわち「モビリティによってビジネスプロセスそのものを強化し、イノベーションに導く」という視点でとらえるならば、フィリップス66のような戦略レベルからの、そして全社的な取り組みが欠かせないことは明らかです。またモビリティだけにとどまらず、BCP(事業継続計画)や情報セキュリティを考える上でも、モバイル戦略はそのまま経営戦略にも直結する重要課題となっていくことは間違いありません。

SAP ではSAP Mobile Platformを始め、今回ご紹介したようなモバイル領域を網羅し、かつ統合されたプラットフォームを持つ各種モバイルソリューションを提供して、エンタープライズモバイルのイノベーションを支援しています。モバイル導入をご検討中であれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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