「IDバレー」で知られる全日本女子バレー監督眞鍋氏が語るデータ活用


DSC04262最新のテクノロジーを駆使して、膨大な情報の中から新たな知見やアイデアを引き出すデータの分析・活用は、いまやビジネスにとどまらずスポーツの世界でも広く用いられるようになっています。7月23日に開催されたSAP Forum Osakaの特別講演で登壇した「IDバレー」で知られる全日本女子バレーボール代表監督の眞鍋政義氏は、まさにデータを活用して数々の実績を積み重ねてきたスポーツ界の先駆者の1人です。今回は同氏が語るデータ活用について講演内容をお伝えします。

選手の選抜基準にデータを活用して、チーム内の不満を解消

2008年に全日本女子バレーボールの代表監督に就任した眞鍋氏は、2010年に日本で開催された世界選手権で、iPadを片手に選手に指示を出す姿が話題を呼びました。以来、選手のデータをリアルタイムで采配に活用する知将として日本代表を率い、2012年のロンドンオリンピックでは銅メダルの獲得という結果を残しました。

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図1:iPadを手に試合中の選手に指示を与える眞鍋監督

眞鍋氏がチーム指導・試合運営にデータを活用するようになったのは、全日本女子チームの監督に就任したことが大きな契機だったと語ります。

「男子チームは戦術や戦略を決めれば、それに忠実に行動してくれます。一方、女性は指導者とのよりメンタルな結びつきを重視します。この監督について行こうとか、この監督のために頑張ろうといった共感を得られない限りは、なかなかこちらの思惑通りに動いてくれるものではありません」

そこで同氏は、まずコミュニケーションスキルを磨くことに専念し、ビジネスパーソン向けのコミュニケーション講座なども受講したといいます。しかし、コミュニケーションが深まるにつれ、各試合やポジションに誰を起用するかといった意思決定において、監督と選手に齟齬が生まれるようにもなりました。選手各人の納得を得るために客観的数値=データを活用するようになったのは、ここからです。試合では誰かが1回ボールに触れるたびに、すべてのプレー情報をチームの情報戦略班のアナリストたちがPCに入力していきます。

「それらのデータが試合終了後、一人ひとりのプレーの成果としてアタック決定率、効果率、サーブ効果率といった詳細な数値として上がってきます。この数字の良い選手から優先して試合に登用すると選手の前で明言した結果、『なぜ自分だけが』といった不満はまったく聞かれなくなりました。数字は公平だということを、各人がきちんと納得してくれたのです」

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図2:試合中のプレー結果は選手ごとにすべて画面に表示される

「非常識を常識にする練習」で身長差の壁を克服

全日本女子チームは現在、2016年のブラジルでのオリンピックを目指して懸命にトレーニングを続けています。そうした中で眞鍋氏がスローガンに掲げるのが「非常識を常識にする練習」です。

「2008年に代表監督に就任した時、当時日本バレーボール協会名誉会長だった松平康隆先生から『金メダルはそう簡単には取れない。だが、非常識を常識にする練習を指導できたら、もしかすると取れるかもしれない』というお言葉をいただいたのです」

この言葉を受けて、同氏がまず考えたのが日本人選手の大きなハンディである身長差の克服でした。海外の女子選手の平均身長はロシアの191.5cmを筆頭に180cm以上が大半を占め、平均177cmの日本女子とはかなりの差があります。実際には平均を大きく下回る選手もおり、いずれにしても日本人選手の身長はロンドンオリンピックでの各チーム平均を見ても、もっとも低くなっています。

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図3:日本選手の身長ハンディ克服は大きな課題

「そこで、相手方コートに190cmを超える男子選手に入ってもらい、女子選手めがけて4mくらいの距離を思いっきり打ち込んでもらう特訓を行いました。まさに非常識なトレーニングなのですが、適応力の優れた選手は1カ月くらいで目が慣れ、身体が反応するようになり、3カ月もすると全員が強烈な打ち込みを確実に拾えるように変化していきました」

データが「現状の客観的把握」と「思い込みの排除」を可能に

「アイデアは非常識の中から生まれてくる」と語る眞鍋氏ですが、その一方ではやはり重要なのがテクノロジーだと強調します。

「チームには常時3名体制の情報戦略班がいます。私はいつも彼らに『身長の低い日本が世界一になるには、情報活用でも世界一になろう』と言っています」。

試合中に情報戦略班のアナリストたちがPC に入力した各選手のデータは、リアルタイムで監督の手にしたiPadに反映されます。誰がアタックを何本打ったか、また決定率や効果率は何%かといった数値がリアルタイムで表示され、このデータをもとに監督はメンバーチェンジを行ったり、相手チームの選手のコンディションに応じて柔軟に作戦を変更していくのです。

また同氏は、データ活用の大きな利点をとして、以下の2つ挙げます。

「まず1つ目は、『状況を客観的に把握できる』ことです。データは現状を客観的に把握するのにきわめて有効です。2つ目は、『あいまいな記憶や経験による思い込みを排除できる』ことです。現状を正確に把握することができれば、固定観念や決めごとにとらわれることなく、そのつど柔軟な対応がとれます。たとえば、いつもセッターのポジションに決まっている選手でも、調子が良くないと見れば他の選手に交代させることもあります。その時も、本人にはすべての数字を見せて説明します。特に女性の場合は数字だけの理詰めの説明ではなく、映像や図表といった理解しやすい方法を用いることが、本人の共感や納得に結びつきます」

「シンプル化」で次期オリンピックの金メダルを目指す

DSC04286セッションの終盤ではSAPジャパンバイスプレジデント Chief Innovation Officerの馬場渉が登壇し、眞鍋氏とのトークセッションが行われました。馬場はまず、同氏がすでに30年前から試合の VHS ビデオを観ては手書きメモで“データ収集・分析”に取り組んでいたというエピソードに触れ、「今日ではさまざまな先進テクノロジーによって、人間では知ることのできなかった新たな知見を得られる時代が来ています。今後、より多くのデータを活用できるようになれば、バレーボールはさらに変わっていくとお考えですか」と尋ねます。

この質問に対して、眞鍋氏は「変わります」と即座に明言。「日本の選手は複数の身長の高い相手選手にブロックされると、それだけで気圧されてミスにつながるケースが少なくありません。そうした場合も、あらかじめ相手の選手の癖などまで分析しておければ、相手の得意パターンの裏をかくといった戦術も可能になります」と指摘します。

また、馬場が言及した「シンプルさがイノベーションの土台になる」というSAPの提言についても、同氏はまさに全日本女子チームにとっても今年のテーマは「シンプル」だと明かします。

「バレーボールというのは、決められた点数を決められたセット数取れば勝ちというシンプルなスポーツです。そこで今年からは、従来のポジションにこだわらず、点数を多く取れる選手から試合に投入しようと思います」

こうした戦術も、いわゆるバレーボールの世界の常識から見れば“非常識”ですが、ブラジルオリンピックでメダルを獲得するためには必要だと語る眞鍋氏。この決意表明に馬場も、「新しい時代には、古い既成概念をもう一度シンプル化して、ゼロベースで立ち上げるチャレンジが不可欠です。2年後の成果を大いに期待しています」とエールを送りました。

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