経理システムの抜本的な改革を通じて、「標準化とコンプライアンス強化」を徹底する近畿日本鉄道

作成者:SAP編集部 投稿日:2014年9月1日

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こんにちは、SAPブログ編集部です。7月に東京、大阪、名古屋の3都市で開催されたSAP Forumで公開された貴重なセッションの模様をお伝えする本連載。今回は7月23日に開催されたSAP Forum Osakaから、SAPのユーザ会であるJSUG西日本フォーラムとの併催セッション「内部統制強化、業務の効率化と高度化、IFRS適用準備の3つを同時に狙った近鉄事例とは?」の内容をご紹介します。

SAP へのシステム移行を機に経理業務全体の改革を目指す

railroad tracks近畿・東海エリアを代表する鉄道会社として、総営業キロ数508.1kmを誇る近畿日本鉄道株式会社(以下、近鉄)。最近では日本一の超高層ビルとして話題を呼んだ「あべのハルカス」などの不動産、流通事業などでも知られている。同社では、2005年4月にSAP ERPによる新経理システム「Asura」を導入して以降、2011年11月にはグループ展開を見据えたバージョンアップを実施、2013年4月からはグループ経理システムの展開・運用を開始するなど、標準化を軸にした経理業務の効率化と内部統制の強化に向けた取り組みを積極的に進めてきました。当初からSAPプロジェクトに参画してきたキーマンの1人である経理部長の泉川氏は、SAP導入の直接のきっかけを「ひんぱんな制度変更への対応に向けたシステム刷新」だったと語ります。

「近鉄では、長年にわたって自社でスクラッチ開発したシステムを使用していましたが、2000年の会計ビッグバンを契機として会計制度の変更が盛んに行われるようになり、それに対応するためのシステム改修が大きな負担となっていました。こうした状況を受けて、経理システムを刷新しようという議論が社内に起こってきたのです」

同社では、これを単なる経理システムの刷新ではなく、経理業務そのものの改革に向けた大きなチャンスと捉えました。そこでSAPを含むパッケージ製品の候補を比較検討。「製品の機能そのものの比較だけではなく、BPRの検討フェーズを設定して標準業務と近鉄の現行業務のフィット&ギャップ分析を行った結果、目指す業務改革のシステム基盤として、SAPが十分なポテンシャルを備えているとの確信を得ました」と泉川氏は当初の経緯を語ります。

「標準化」にこだわり、ほぼアドオン無しでシステムを完成

新しい経理システムの導入にあたって、近鉄がもっとも強く意識したのは「標準化」でした。システム改革のプロジェクトマネージャーに就任した泉川氏が、まず基本方針として掲げたのが「とにかくアドオンは徹底的につぶす」ことでした。

「ERPというのはやはり高価なシステムだけに、一度導入すれば将来にわたって一蓮托生でつき合っていかなくてはなりません。そう考えるとSAPの標準をガイドラインとして、そこに全体を収束させていくのが良いと判断したのです」

アドオンに費やすイニシャルコストの抑制はもちろん、将来必ず発生するバージョンアップや機能改修、さらに近鉄グループ内への展開を見据えた上でも、SAP標準だけで構築するということには大きな意義がありました。

「どうしても標準に収まらない部分は、運用で乗り切っていく。しかし時間がたてばそうした当社独自の要件も不要になる時が来ます。その段階で順次標準に取り込んでしまえば、標準化、つまり業務改革が進んでいくと考えました」

現場からアドオンの要請が出てきた場合は、プロジェクト内でアドオン判定会議を開いて徹底的に議論します。ここでも基本スタンスは「標準だけで進める」ことであり、最終的にはほぼアドオンを行うことなく完成。2005年4月から、新たな経理システム・購買システムとして「Asura」の運用を開始しました。この構築時の徹底した標準化は、カットオーバーから6年後のバージョンアップにも大きな影響を与えました。

「経理システムとしては、非常に少ない費用でバージョンアップできました。SAPは高価だと言われますが、プロジェクトの進め方次第でそのコスト問題は解決できるということを、今回の事例で身をもって体験できました」

グループ経理システムをコンプライアンス基盤としても活用

「標準化」に加え、近鉄のシステム改革のもう1つの重要テーマが「コンプライアンス強化」でした。

「お恥ずかしい話ですが、Asuraシステムが安定稼働し、さあこれからグループ展開を検討しようとしていた時期に、2件の大きな経理上の不正が発覚しました。社会的にも大きな指弾を受け、改めて上場企業が背負っている責任の重さを痛感させられました。この反省を踏まえて、二度と不正を許さない経理システム作りに全社を挙げて取り組むことになったのです」と泉川氏は振り返ります。

加えて、効率的なIFRS対応や熟練した経理担当者の定年退職、そしてグループ展開に向けた布石作りといったさまざまな課題にも取り組まなくてはなりません。これらを考慮した場合、今後はやはり経理業務の中央集権化による業務効率・品質の担保やガバナンス強化が必須の課題となります。

その実現に向けた具体的な手段として、たとえば「グループ統合データベース」を構築し、取引データを「見える化」することで、これまでは見えなかった不適切な処理などを的確に把握することが可能になります。また「グループ会計処理ルールの標準化」が実現すれば、グループ経理業務のセンター化が加速します。

近鉄では、2015年4月からホールディングス化への移行を2014年2月に発表しています。その変化に対応するべく、発表と同時に経理部の中に『経理センター』という組織を立ち上げました。これはホールディングス体制移行後に各事業会社の経理業務を集中・効率化するための、グループ経理処理の実行組織であると同時にガバナンス強化の要にもなっています。この点について、泉川氏は「今後グループ企業の支払い業務は、基本的にすべてこの近鉄本体の経理センターで集約して処理していくことになります。支払い先などのマスター登録も同様です。子会社の判断だけで行うことは許されず、必ず経理センターを通して登録する仕組みを構築していきます」と説明します。

強力なリーダーシップと「経営・業務/情シスの協業」が成功のカギ

今後のさらなる展開・発展に向けて、泉川氏は成功の条件となるポイントとして「強力なリーダーシップ」を筆頭に挙げます。

「まずグループ会社のトップの強い標準化への意思、すなわちBPRに対する意識なくして成功はありえません。その上で明確な指示とアナウンスメントを行うことが必要です。大きな組織ほど社内の抵抗も大きいので、そうしたリーダーシップは不可欠です」

もう1つ重要なのが、「オーナー部門」と「情報システム部門、グループ会社および外部ベンダー」が一体の方向性や意識を持ってプロジェクトを推進することです。経営陣や各事業部門は「こんなことを実現したい」というニーズはあってもITシステムは専門外であり、一方、情報システム部門は必ずしも業務を詳細に理解できているとは限りません。これは近鉄のみならずJSUG全体でもしばしば議論される共通の悩みであり、いかにオーナー部門と情報部門が両輪となってプロジェクトを推進していくかが重要かを示しています。

「現在、近鉄では、経理部門で3年程度のキャリアを持つ人材を情報システム子会社に出向させ、一定の経験を積んだ後に戻すという人事を実施しています。これはかなりの効果が認められたので、今後もっと大規模に展開させていきたいと考えています」

最後に泉川氏は、「システムは導入して終わりではなく、導入こそがスタートです。そうした意味でもプロジェクトの開始時点から本社だけでなく、展開対象となる子会社からもプロジェクト参加要員を募り、グループ一体となって取り組んでいきたい」と力強く抱負を語り、セッションを締めくくりました。

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