【JSUG Leaders Exchange Interview】 複雑化する通信業界における計測機器メーカーのトレンド予測の実態
作成者:JSUG Leaders Exchange 投稿日:2014年9月16日
「JSUG Leaders Exchange」(以下、JSUG LEX)の参加企業から、所属する企業における企業価値を高めるデータ活用についてお話をうかがう連載インタビュー。前回は、携帯電話やスマートフォンなどの通信機器向けの計測器を開発、製造、販売するアンリツ株式会社の中島久美子氏に、事業内容やデータ活用に関する課題をお話しいただきました。引き続き今回は、SAP ERPのデータ活用について、B2Bビジネスを行うメーカーのお立場からより具体的なお話をうかがいます(聞き手:SAPジャパン 濱本 秋紀)。
Just In Time(JIT)のための適正在庫の実現が重要
─計測器メーカーであるアンリツさんの、データ活用のポイントはどこにありますか?
中島 製造業においてはJust In Time(JIT)、つまり適正在庫、適正生産をいかにして維持するかが非常に重要です。生産現場は「この製品は、いつできるのか?」という要請を常に販売側から求められます。以前は勘や経験で判断することもあったと聞きましたが、データを通じて在庫や生産の状況を把握することができれば、受注量のトレンド分析などと合わせて、生産を加速したり、ブレーキを踏んだりすることが可能になると考えています。
─計測器の市場特性上、在庫量をグローバルで把握し、過去の売上げを分析しながら最適な生産量を予測することは、実際に可能ですか?
中島 計測器は一般消費財とは異なるので、過去の売上などから生産量を予測することは難しいと思います。重要なことは、マーケティングの戦略と合っているかどうかです。マーケティングや営業が「今ここにこの計測器を売りたい」と思ったときに、その製品が納期通りに製造できないことだけは避けなければなりません。
─計測器のマーケットにも、流行り、廃りといったトレンドはあるのですか。
中島 もちろんあります。計測器のマーケット分析をしているシンクタンクがあり、そこの会員になれば携帯電話の出荷台数などの実績が手に入りますので、そうした数字からある程度トレンドが見えてきます。しかし、通信の世界は、グローバルにダイナミックに市場が変化するので難しいですね。
─例えば、4G対応のモバイル端末がこのタイミングでリリースされて、生産台数はこれだけだから、将来はこういう計測器が必要になるといった予測をするわけですね?
中島 そうですね。ただ通信のグローバル化が加速している現在、状況は複雑化しています。欧米アジア各地域の動向を注視し、どのような計測器がいつ必要になるかといった予測を常に行っています。
─最新の技術を牽引する企業や端末メーカーを常にウォッチしていないと市場で生き残っていけないということですね。
中島 通信機器の開発段階から情報を追いかける理由はそこにあります。開発者が欲しいと思っている計測器の仕様は、彼らが次に作ろうとしている通信機器そのものなので、アンリツの営業は、開発部門に密着して情報を入手しています。もちろん、競合他社の情報やマーケットも注視していますが、どちらかといえば業界の上流から情報を入手して、次を予測することが中心になります。
─全社の在庫情報を把握しながら、外部の市場データも参照し、営業が前線で取得してくる情報にいち早く反応して技術部門と生産計画を練るのですね。
中島 各部署がばらばらにやるのは大変ですから、マーケティング、技術、営業の3部門が一緒に動いています。かなり日本的な仕事のやり方ですが。
─過去のデータを大量に保持して分析するより、反射神経が要求される仕事のように感じます。
中島 はい、最新の技術トレンドは重要ですが、一方で、ロングスパンの履歴データも必要だと考えています。継続して受注を獲得するためには、今はこうだけど、次はこの方向に行くといったような分析ができるデータを会社は求めています。営業の視点から「販促した結果、こうなりました」といったデータもたしかに必要なのですが、会社をドライビングしていく意味では、むしろ急激に部品在庫が増えた理由はなぜかといったことが説明できるレポートも必要なのだと思います。
ネクストステップで求められる「セルフサービスBI」
─データ活用以前の話になると思いますが、グローバルレベルでの在庫の可視化はすでに実現しているのですか?
中島 国内の在庫状況については、部品と製品の両方が見える仕組みをつくっています。SAP ERPでいうと、品目の項目で、部門を選んで、次に場所を選んでドリルダウンしていくと、最終的に利益センターくらいまでいきあたり、どこに何個の在庫があるかが、1日遅れくらいで見えます。
─ERPの画面は何かツールを使って見ているのですか?
中島 SAPを直接見ているものもありますが、在庫や営業実績などはWeb画面で見られるようにしています。見える化は、最適化を模索し試行錯誤しているので、開発時期により見るツールが異なります。もちろんツールを1本化するのが望ましいので、現在も模索中です。
─在庫は明細レベルまでリアルに見えているのですか?
中島 かなりのレベルまで、リアルに見えるようになってきたかと思います。ただ、もう一歩進めて受注のトレンドといった付加要素を加えて、在庫をコントロールする活動につなげられればと考えています。
─明細レベルまで見られるなら、ユーザーに分析ツールを提供すれば、データ活用レベルがさらに高まるかもしれませんね。
中島 そうですね。ユーザーの技術力に差があるので、同じツールを提供しても、自分たちでうまく使えるチームと、情報システム部門にお任せしますというチームが出てくる可能性が高いのが悩ましいところです。それを含めて、もう少し楽になる中間的なツール、たとえばテーブルを出せば、あとはユーザーがドラッグして見られるようなものができれば、活用が進むのではないでしょうか。
─最近の傾向として、業務部門が自ら自由に分析する「セルフサービスBI」にニーズが高まっています。
中島 そうですね。アンリツの場合、経営層が定期的に使う資料は情報システム部が固定の形式で出すようにしています。しかし、マーケティングの分析なら、本来は元のデータをユーザーに渡して、現場の人たちでやってもらうほうがいいですよね。元のデータはどんどんビューで見せていって、現場で使ってもらう。そういうサイクルを回していくことが理想です。
──ありがとうございました。次回は具体的なデータ分析についてお話をお聞かせください。
■略歴
中島久美子(なかじま・くみこ)氏
アンリツ株式会社
経営情報システム部
BPR推進チーム
課長
日本大学を卒業後、アンリツ株式会社に入社
営業部門のアシスタント業務を経て、2002年より計測事業部門の基幹システムR/3導入プロジェクトに従事。
2006年4月に国内営業統括本部 営業支援部を経て、2011年4月より現職。
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