オンプレミスとクラウドの連携――第2回:エンド・ツー・エンドのプロセス連携を可能にするミドルウェア
作成者:奥野 和弘 投稿日:2014年9月19日
SAPジャパンの奥野です。前回は、「ハイブリッドへの移行において、忘れてはならない3つのポイント」と題して、オンプレミスとクラウドを連携するハイブリッド構成を実現する上での基本の考え方や、移行を成功させるためのポイントについて見てきました。今回はそうした考え方にもとづいて、実際にオンプレミスとクラウド間におけるデータ連携とプロセス連携を実現するミドルウェアについてご紹介したいと思います。
オンプレミス/クラウド連携の生産性を左右するSAP ERPとの親和性
オンプレミスとクラウドとを接続する場合のインテグレーションには、大別して以下の2つのパターンがあります。
- オンプレミスのSAP ERPをはじめとするSAPアプリケーションと、クラウド上のSAPアプリケーションそれぞれのインテグレーション
- オンプレミスのSAP アプリケーションと、クラウド上でSaaSの形で提供されるSuccessFactorsやSAP Cloud for Customerなどのインテグレーション
SaaSで提供されるクラウドアプリケーションとオンプレミスのSAP ERPで、接続に高度な知識が要求されるのはやはり後者になります。一般的にクラウドアプリケーションは、外部接続のためのインターフェースがWeb ServiceやREST Webサービスなどの標準的な技術で提供されています。またデータフォーマットも、XMLをベースとしたSOAPや、標準化されたWebプロトコルであるODataが使われています。これらの技術はSOAという考え方が生まれた後に出てきたため、他システムとの連携を前提としてデザインされており、柔軟な連携、接続が可能になっています。
一方、SAP ERPはWebサービスベースのインターフェースも提供しているものの、たとえばユーザー要件に合わせてアドオン開発する際には、依然としてBAPIやIDocといったSAP独自の技術が採用されているケースが目立ちます。また、SAP ERPは膨大な数のインターフェースを持っているため、適切なインターフェースを適切な順序で呼び出すには、SAP ERPに関する高度な知識が必要となります。こうした背景もあって、オンプレミスとクラウドのインテグレーションでは、「SAP ERPといかに簡単に接続できるか」が生産性を左右する大きな要因となってきます。そして、このSAP ERPを他システムと接続するために最適なソリューションが、今回ご紹介するSAP Process Orchestrationです。
SAP ERPと最も親和性の高いデータ連携基盤
SAP Process Orchestrationは、SAP ERPの連携基盤として長い歴史と実積をもつSAP Process IntegrationとSAP Business Process Managementを組み合わせた製品です。SAP Process Integrationは、一般的にはEAIまたはESBと呼ばれるソリューションで、システム間のリアルタイムなデータ連携を担っています。この製品の大きな特長はさまざまなアダプタが無償で提供されている点にあります。そこには当然、SAP ERPと連携するためのアダプタも含まれています。つまり、SAP Process Integrationを利用することでユーザーは大きなコストや労力をかけることなく、BAPIやIDocなどのSAP独自の技術を使ったインターフェースに容易に接続できるようになるのです。
しかし、本当に重要なのはこの部分ではありません。SAP ERP用のアダプタを提供する製品はサードパーティからも多数リリースされており、それ自体はさほど特別なこととはいえません。SAP Process Integrationの本当の価値は、Enterprise Service Repository(一言で説明すると、「SAP ERPに対して特定のオペレーションを呼び出す処理が、ビジネスプロセスごとにエンド・ツー・エンドで定義された辞書のようなもの」)にあります。
たとえば、SAP ERPに外部から購買依頼を登録するとします。最初にEnterprise Service Repositoryのソリューションマップを確認すると、そこに「購買」が見つかります。続いてその中の「購買依頼処理」プロセスコンポーネントを選択すると、「購買依頼管理」というサービスインターフェースの中に「購買依頼登録」というサービスオペレーションが出てきます。このようにEnterprise Service Repositoryを利用することで、ユーザーは実現すべきビジネスプロセスをたどりながら、必要とするインターフェースにスムーズにたどり着くことができるのです。
なお、SAP Process Integrationではさらに生産性を向上させる仕組みとして、連携シナリオごとの定義済みのコンテンツも提供しています。開発者は、このコンテンツをベースに非常に効率的にシステム連携を定義していくことができます。これについては、次回あらためてご紹介していきます。
柔軟なプロセス定義を可能にするSAP Business Process Management
SAP Process Orchestrationに含まれる、もう一方の製品であるSAP Business Process Managementについてもふれておきましょう。SAP Business Process Managementは、国際標準のビジネスプロセスモデリング表記法であるBPMNによるプロセスモデリングが可能なBPM製品です。また、ビジネスルールエンジンも組み込まれており、ルールベースで動的に変化する柔軟なプロセスを簡単に定義できる点が大きな特長になっています。
せっかくなので、従来のSAP Process IntegrationとSAP Business Process Managementが組み合わされて、新たにSAP Process Orchestrationとなった歴史的な意義についても簡単に触れておきましょう。
SAP Process Integrationはすでにふれたように長い歴史をもつ製品で、もともとはSAP独自の開発言語であるABAPベースのシステム連携製品でした。その後、SOAの考え方が一般的になってくるにつれて、SAPはSAP Process IntegrationにSOA基盤として必要な機能を追加するとともに、標準技術であるJavaプラットフォームへの移行を進めてきました。しかし、この過程で最後までABAPベースのコンポーネントとして残っていたのがプロセスエンジンの部分だったのです。
そこで、あらためてJavaベースの製品であるSAP Business Process Managementとの統合を強化し、旧来のSAP Process Integrationのプロセスエンジンの部分をSAP Business Process Managementに置き換え可能にすることで、完全なJava対応を果たしたのがSAP Process Orchestrationというわけなのです。
システム連携における注意点
最後に実際のシステム連携を行うにあたって注意が必要となるケースと対応ソリューションについても、簡単にふれておきたいと思います。
① 2つのシステムで異なるマスター管理が行われているときは?
まず、2つのシステムをインテグレーションする際に、両システムですでに異なる運用体系でマスター管理がなされており、マスターコードの読み替えが必要になるケースがあります。こうしたケースではSAP Process Orchestrationだけで対応するのは難しく、別途マスター管理のための仕組みが必要となります。こうしたケースにそなえてSAPでは、目的に応じてSAP Master Data GovernanceとSAP Master Data Managementという2種類のマスター管理ソリューションを提供しています。
② ネットワークセキュリティも忘れてはならないポイント
クラウドとの連携を行う以上、ネットワークセキュリティについても十分に注意する必要があります。セキュリティ確保でもっとも簡単なのは、オンプレミス環境とクラウド環境を専用線で接続してしまう、もしくはVPNを使って常時接続しておくことです。
しかし、さまざまな制約でそれが難しい場合、DMZ上へのWAFの導入や、DMZ上に配置する「外部Process Orchestrationサーバー」と内部ネットワークに配置する「内部Process Orchestrationサーバー」を分けるといった、企業が必要とするセキュリティレベルを確保するための追加の仕組みをあわせて検討する必要がでてきます。こうしたセキュリティ上の要件についても、システム企画の早い段階で検討しておくことが大切です。
今回はオンプレミスとクラウド連携のためのソリューションとして、SAP Process Orchestrationを紹介しました。SAP Process Orchestrationは、サーバーにインストールして利用する一般的なミドルウェアです。しかし、一方では「ミドルウェア自体もクラウドのサービスとして提供してほしい」というご要望もあるでしょう。次回はそんなお客様の声にお応えするSAPのもう1つの連携技術についご紹介したいと思います。
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