ダイキンヨーロッパの「シンプル化」を取り入れたIT戦略


現在、SAPでは“Innovation through Simplification”というキーワードを掲げ、シンプル化によるIT変革の重要性を強調しています。一般的に、ビジネスにおけるイノベーションは「何らかの経済効果をもたらす革新である」と定義することができ、特に成熟した現在の社会において、その必要性が強く叫ばれています。しかし、そもそもイノベーションは予測不能で創発的という特性があるため、ビジネスを前提とした場合には、不確実性のあるイノベーションの実現に向けリソースを投下できる余裕が必要になります。

ITの観点では、継続して投下されるシステム保守運用費などを削減することで、イノベーションの実現に向けた原資(人的、コスト的)を創出することが重要となります。ここで鍵となるのが「シンプル化」です。システムをシンプル化することで、現状維持のためのリソースを削減し、イノベーティブな新システム開発など、より先進的・革新的な目的に企業リソースを割り当てることができるようになります。

7月23日に開催されたSAP Forum Osakaにおける、ダイキンヨーロッパ N.V. のITセンター EMEA 顧問である山積啓一氏の講演は、まさに「シンプル化」によるIT変革成功の象徴的な事例といえます。欧州でトップを走る空調メーカーであるダイキンヨーロッパのIT戦略におけるシンプル化の効果とSAPの貢献について、当日の講演内容からレポートしてみたいと思います。

欧州No.1に導いた逆風の中での大英断

SAP Forum Osaka_ダイキン21924年の創業から今年で90周年を迎えるダイキン工業は、2013年度において売上高約1.8兆円、営業利益1500億円という過去最高の実績を記録しました。同社の空調ビジネスをグローバル視点で見ると、日本、米国、欧州など5つの地域でほぼ均等な事業規模となっており、その中でダイキンヨーロッパは、ロシアを含む欧州、中東、アフリカ地域を担当。8つの工場と23の販売会社を擁してビジネスを展開しています。ベルギーのオステンドに本社を構え、昨年の売上高は19億ユーロ、円換算で約2,700億円を計上しています。

空調ビジネスで欧州No.1となった成功要因について、山積氏は1992年の生産工場拡大と販社買収による組織拡大を挙げ、次のように話しました。

「当時のダイキンヨーロッパ担当の日本人社長が本社であるダイキン工業にかけあい、1992年に本格生産に向けた工場の拡大を実施しました。逆風の中で下されたこの大英断が、その後の事業拡大に大きく寄与しました。また、続いて1990年代の後半からは、それまでの代理店販売というビジネスモデルを刷新し、これらの代理店を順次買収して販社化しました。この判断も功を奏し、ダイキンヨーロッパは2004年には欧州域で空調No.1の座を勝ち取ることができました」

「圧倒的No.1」の実現に向けたSAPの活用

しかし、欧州の景気低迷に加え、韓国や中国メーカーなどの同業他社との競争の激化もあり、現在は欧州での空調ビジネスNo.1の座は守り続けているものの、営業利益率については年々低下傾向が見られるといいます。これを挽回するため、現在は戦略計画「FUSION15」に沿って、利益率を15%に引き上げるべく全社一丸となって「ダントツ(圧倒的)No.1」を目指していると山積氏は強調します。

現状の“欧州No.1”からさらに一歩進め、“ダントツ(圧倒的)No.1”を実現するにあたり、山積氏は「シンプル化を取り入れたIT戦略」の重要性について言及しました。シンプル化とは、システムの標準化・統合化によるスピード経営、低コスト経営の実現を意味します。また、そこでは経営トップ、IT利用部門(現場)、ITセンターという3つの立場を横断した全社一体となった取り組みが不可欠です。そして、前者のシステムの標準化・統合化において、大きな役割を果たしているのがSAPソリューションです。

2002年からSAPをベースにした全社システムの構築を推進してきたダイキン工業が特に意識しているのは、単一システムへの機能集約と標準機能の活用です。標準化されたシステムを活用して、アドオンなどの独自機能の開発を最小化することで、シンプル化されたシステムを実現しています。山積氏はFUSION15におけるITの全体図を示し、同社の統合システム実現に向けた取り組みを説明しました。

個々のシステムに着目すると、ダイキンヨーロッパがもっとも力を入れているのが売上拡大支援です。受注以降のシステムについてはすでに整備されていましたが、国ごとに異なるプリセールスの支援にあたっては、これまで手付かずの状態でした。今回の開発ではSAP CRMを使用し、統合化システムの実現を目指しています。

明確な定量値に基づいて、販社の営業活動を強化

一般的に、システム導入など新規投資に関わる内部承認では、投資効果の予測が不可欠ですが、欧州全体の景気低迷という向かい風もあり、ダイキン工業では「営業マンのお客様訪問回数の向上」を指標として挙げ、こちらの定量値によって投資効果を測定するというアプローチを取りました。現時点で7つの販社へのSAP CRM導入が完了しており、導入済の2販社では、目標として掲げた「営業マンの顧客訪問回数、前年比30%増し」という定量効果が発揮されています。

営業支援活動の別の側面となる販促情報の電子化については、SAP NetWeaver Master Data Management(SAP NetWeaver MDM)を活用した取り組みを行っています。以前は、紙で販促情報を印刷して、カタログという形で各販社に配っていたダイキンヨーロッパですが、複数言語への対応などもあり、このオペレーションはコスト、対応作業ともに非常に大きな負荷がかかっていました。SAP NetWeaver MDMで統合システムを構築することによって、マスターに登録するだけで、その後は各言語に自動翻訳され、販社に送付できるため、配布までの大幅なスピード化を図ることができました。SAP NetWeaver MDMによる効果について、山積氏は「年間で1億円以上の経費削減が図れた」と話します。

一貫したビジネスプロセスで物流、生産を一元的にコントロール

さらに山積氏は、SAP ERP Central Component(SAP ECC)による一貫した機能による効率化と業務精度の向上を挙げ、「従来の個別システムであれば、それぞれの販社で受注入力し、発注。さらに、ダイキンヨーロッパで受注入力を行い、物流業者に出荷指示を行い、請求を立てるといった作業が行われ、手間がかかるだけでなく、ケアレスミスなど精度の低下も発生していました。SAP ECCにより、販社側で1回受注入力が行われると、以降のプロセスが再入力の必要なく流れるようになりました」と話します。

一方、製品の供給と受払いについては、SAP SCMを使用してワンストップの対応を実現しています。20数社におよぶ販社から月2回の頻度で届く販売計画と最新の受注情報に基づき、ダイキンヨーロッパの供給センターが生産計画情報と突き合わせを行い、各工場に対して生産の増減依頼を発信します。さらに、これをベースに各販社に対する販売割当額を更新。このような精度の高い生産コントロールがSAP CRMにより、完全に週次で実施できるようになりました。

システム統合と可視化から生まれた「24時間の配送サービス」

情報の可視化という視点では、SAPのBI機能が活用されています。すべての販社とダイキンヨーロッパの工場において、販売実績、受注情報、在庫情報、各社への振り当て枠情報といった内容が可視化され、不要な問い合わせや情報が分からないことによる不信感などの一掃に貢献しています。

物流については、2002年より在庫統合とシステム統合を順次実施し、以前は販社が独自の意志で個別に仕入れていた対象を、すべてダイキンヨーロッパでコントロールできるようになったため、各社で在庫管理する必要がなくなっています。またこれによって、欧州域の主要な拠点に対し24時間の配送サービスを実現しています。

このようにダイキンヨーロッパにおけるSAPソリューションの導入は逐次進行しており、2014年8月にはチェコの工場もSAP化する予定で、順次生・販・財のワンシステムに向けた取り組みを進めています。さらに、2014年度中でのSAP HANAの導入も決まっています。

シンプル化に向けた意識改革の重要性

最後に、山積氏は「シンプル化」に向けて必要となる意識改革に触れ、「情報システムに携わる管理職や中堅SEにとって重要なのは、経営視点でシステムを捉えるということです。複雑な仕組みをシステムに組み込むことはさほど難しくありませんが、その結果、運用メンテナンスが不能になったり、処理時間が長くなったりすることの弊害を常に意識する必要があります。また、シンプル化の目標を常に心がけ、ITコストの変革を行う姿勢が重要となります」と強調しました。

シンプル化によるイノベーションの実現というテーマでは、冒頭にSAPから説明があった通り、保守運用費の圧縮が重要となります。ダイキンヨーロッパの場合、新規開発に回せる費用が全体の40%、保守運用費が60%となっています。この保守運用費も気を抜けばすぐに70%になってしまうと山積氏は自らの危機感を明かし、その講演を締めくくりました。

長く欧州No.1という地位にありながら、そのポジションに甘んじることなく、あくまで“ダントツ(圧倒的)No.1”を目指すダイキンヨーロッパ。山積氏の講演には、圧倒的なポジションにまで駆け上がろうという強い意思が垣間見られ、また、その実現にあたって不可欠なSAPへの期待が溢れていました。

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