目指せ!グローバルエクセレントユニバーシティ~大学におけるIT活用最前線――第2回: 学生の満足度をいかに高めるか


Seminar room of the University of Music, Vienna, AustriaSAPジャパンの新村です。「目指せ!グローバルエクセレントユニバーシティ~大学におけるIT活用最前線」と題して、主に大学のグローバル化にかかわる課題をクローズアップしながら、その解決のヒントとして最新のIT活用例をシリーズでお伝えしています。

第1回では「海外の大学における学生情報管理のあり方」というタイトルで、全学統一の学生情報管理システム整備の必要性について述べました。このシステムは、大学経営を効率化する管理システムであると同時に、高度な応用ソリューションを実現する土台でもあります。この土台を最大限に生かすことにより、きめ細かなケアで学生の満足度を高めるなど、新たな付加価値を生み出すことが可能になります。

そこで第2回の今回は、学生情報管理システム上のデータを活用してエンロールマネージメントをいかに行うかについて、具体例とともに迫ります。

エンロールマネージメントと学生情報管理システムの関係

エンロールマネージメントとは一般に、「大学が学生募集から卒業までの間に一貫して行う修学支援。出席状況、在学中の成績、授業評価、奨学金受給状況、進路などのデータを活用し、入試広報、授業内容、中途退学防止、就職支援、奨学金制度に関する施策を提供する取り組み」と定義されています(参考文献:中井俊樹・鳥居朋子 『大学のIR』より)。

一方、前回述べたように、学生情報管理システムとは、学生の入学から在学中、卒業にいたるまでの情報を学生中心の視点から関連づけて管理するとともに、そこで発生する各種業務をシステム的にサポートするものです。SAPの学生情報管理システムである「学生ライフサイクル管理(Student Lifecycle Management、以下SLcM)」の場合、入学から卒業までをカバーする部分として、学生管理機能、カリキュラム管理機能、学生会計機能、進級・卒業管理機能などの機能群があります。また、財務会計や人事、購買、施設管理などと連携させることで、組織マスターのシステム連携による自動反映、学納金や奨学金情報の財務への連携、教材などの調達と財務連携といったことも可能です。加えて、入学前(入学希望者)や卒業後(卒業生)の情報との連携を容易に実現することもできます。

Picture1

つまり、SLcMは、エンロールマネージメントを行うための土台(インフラ)であり、SLcMを利用することにより、即座に精度の高いエンロールマネージメントを提供することが可能になるのです。

では、このエンロールマネージメントはいったいどのように行えばいいのでしょうか。学生情報管理システムには、学内で発生するさまざまなデータが個々の学生を軸とした視点で格納されていますが、それを活用するための指針は、ユーザーである大学が定めなければなりません。すなわち、「教学マネージメント」を定め、それに従ったエンロールマネージメントを行うことが基本になります。なお、教学マネージメントとは、「教育目標を達成するために教育課程を編成し、その実現のための教育指導の実践・結果・評価の有機的な展開に向け、内部組織を整備、運営すること」(出所:日本私立大学協会)であり、民間企業における経営戦略に相当するものです。

これを説明するために、具体例を見てみましょう。以下は、教学マネージメントのもとに学生情報を活用したエンロールマネージメントを行っている海外事例です。

学生の履修状況に基づくエンロールマネージメントの実践:ケンタッキー大学の事例

アメリカのケンタッキー州にあるケンタッキー大学(University of Kentucky:以下UKと略)は、1865年に設立されて以来、長期にわたってアカデミックエクセレンスを実現してきた大学で、学生数約27,000名と同州において最大規模です。UKのCIO(最高情報責任者)であるヴィンス・ケレン氏は、「27,000名の学生すべてがこの大学で最高の成果を得るということを共通目標に、教職員一同が一丸となっている」と述べています。

この目標を達成するために、UKは以下のゴールを定めたエンロールマネージメントを実施したと言います。

  • 履修状況悪化に伴う中途退学の防止
  • 優秀な学生を育成し社会に貢献
  • 学生数減に伴う収入減の抑止

具体的には、学生個々人の履修状況をリアルタイムで把握し、悪化している学生には、アドバイザーをつけて早期に方向修正などのケアを施す。優秀な学生に対しては、さらに能力が高まるような教育プログラムを提供。その結果、退学率を低下させることができ、リテンションレート(学内留保率)を10%高めることができ、財務的にも大きな成果が得られています。ケンタッキー大学の事例の詳細については、以下の記事をご覧ください。

参考記事:ストレートA(全優)を目指せ ~学生の勉学態度を分析して指導するケンタッキー大学

履修状況データの把握から分析データを生成するまでに、従来は8時間かかっていたところを、わずか1時間に短縮することができたといいます。さらに財務インパクト算定や将来予測なども同時に行い、早期に判断、行動に移すことができているということです。

きめ細かなケアで学生の能力を極大化

日本でも、リテンションレート対策としては、学生の経済的理由による退学を防ぐことなどが、重要なテーマの1つになりつつあります。ただ、大学経営という財務的な観点からは、今までは「入試で学生をいかに集めるか」という課題の影に隠れて、あまり検討されてきませんでした。今後は、財務的な観点からも、よりエンロールマネージメントに注目が集まることでしょう。

学生やその保護者を「顧客」ととらえて、その満足度を高める視点が大学にも求められていることは、以前から指摘されています。大学関係者の実感に即していえば、在学している学生の満足度を高めることが、入試においてより多くの学生を集めるために重要であることは言うまでもないでしょう。そのために、きめ細かなケアで在学生の能力を極大化し、満足度を高める方策は、今後も要注目です。

正課授業以外に、課外活動を積極的に取り入れて、学生の能力を多面的に引き出そうという取り組みは、各大学が力を入れているところではないかと思います。従来の教務システムには取り込まれてこなかったそのような情報も、これからはデータとして取り込む必要が出てくると考えられます。また、入学希望者の情報や卒業生の情報なども、従来は基本的なプロファイル情報だけであったものが、コミュニティーサイトとつながるようになってくると、より多様な情報ソースと組み合わせたデータ分析も可能になります。エンロールマネージメントは、在学時だけでなく卒業生も含めた管理を行う点から、社会人大学院、生涯学習といった潮流に適した考え方でもあるのです。

今後、エンロールマネージメントを推進していく上では、多様な情報ソースをどのようにうまく分析に取り込み、活用できるのかがカギとなります。そして日々増大するデータにストレス無く対応できるような利用環境づくりが、見逃せないポイントとなります。教学マネージメントと合わせ、バランスの良いシステムを取り入れることが重要です。

以上、ITインフラ活用の応用編としてエンロールマネージメントについてお伝えしました。次回は、グローバル人材育成に焦点を当ててお話をします。「グローバル人材育成を大学はどう行うか」というタイトルでお届けいたします。

ご質問はチャットWebからも受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

●お問い合わせ先
チャットで質問する
Web問い合わせフォーム
電話: 0120-554-881(受付時間:平日 9:00~18:00)