2020年までに何を準備しなければならないか?これからのニッポン企業の競争戦略


10月7日に東京コンベンションホール京橋で開催された「SAP All Cloud Connect 業務部門がリードする経営改革フォーラム」今回は特別基調講演として一橋大学教授の米倉誠一郎氏と楠木健氏の2人の有識者により行われた公開ジャムセッション「2020年までに何を準備しなければならないか?これからのニッポン企業の競争戦略」の内容をお伝えしたいと思います。

「高付加価値化の罠」に陥る日本企業

米倉氏_楠木氏公の場での対談は実に十数年ぶりという米倉氏と楠木氏。まず米倉氏は、日本の国際収支が赤字に転落している現状について、日本企業の稼ぐ力が弱まっていると指摘しました。この理由として同氏は、近年、高い経済成長を果たしている新興国や開発途上国への進出が不十分であると考えます。「中国は14億人、インド12億人、アフリカ大陸10億人、ASEAN(東南アジア諸国連合)6億人、南米4億人。世界には40億人のマーケットがあるというのに、日本企業は進出していないか、していても製造拠点という発想。これはよくありません」(米倉氏)

さらに同氏は、日本企業が陥りやすい問題点として「高付加価値化への罠」を挙げます。「安くて品質のいいもの」は競争が激しく、人件費の安い新興国に負けてしまう傾向にあります。そのため、わざわざ競争の激しい市場に参入するのではなく、「高いけれど品質のいいもの」「高くても欲しいもの」、つまり付加価値の高いプロダクトで勝負するのが日本企業の取るべき戦略であるという考えです。

こうした「高付加価値化の罠」に陥っている日本企業が多く、40億人のマーケットに出遅れていると米倉氏は考えます。「スマートフォンに何万円も費やせるのは日本人や一部の先進国だけ。40億人のマーケットを目指すためには、『安くていいもの』を追求しなければなりません。『高くていいもの』は、『安くていいもの』に必ず負けます」(米倉氏)

グローバル人材の不足がグローバル化を妨げる?

この話を受け、楠木氏は「日本企業が高付加価値化やクオリティ企業を目指すのは、きわめて自然な流れ」と反論します。日本は過去に成し遂げた経済成長のおかげで、衣食住など多くの点で恵まれた生活を享受できます。いくら日本のマーケットが成熟したからといって、新興国や開発途上国に進出し新規のビジネスを開拓しようと考えるのは、まだまだ少数派に過ぎない、というわけです。

「米倉先生がおっしゃるように、海外には巨大なマーケットがあり、そこで勝つには『3000円くらいの本当に安くていいもの』でなくてはなりません。しかしそこには熾烈な競争があり、その他多くのコンペティターの中で、日本がより『いいものを安く』提供する必要があります。それにはよほどの覚悟が必要だと思います」(楠木氏)

とはいえ、楠木氏は「2020年に向けた方向性として海外進出というのは賛成」としたうえで、「海外に出ていかないのには理由があり、まずはそれを取り除かなければなりません」と主張します。

取り除くべき要素のひとつが、多くの日本人が持つ「グローバル人材がいないから、グローバル化が進まない」という誤解です。グローバル人材というと、英語が堪能で、外国人とのコミュニケーション能力が高く、グローバルな経営リテラシーをもった人材と思いがちです。しかし楠木氏は、それは単なるビジネスのスキルであって、真に必要なグローバル人材というのは「商売を丸ごと動かすセンス」を持った経営人材であるといいます。

たとえば、南アフリカのプレトリア大学ビジネススクール・日本研究センターで所長を務める米倉氏や、同氏が2014年11月に、ソマリランド共和国に大学を開校する際に、それを主導した教え子もきっと楠木氏がいうグローバル人材に違いありません。疑似相関図

100人中12人の人材をどう増やしていくか

「僕は11歳まで父親の仕事の都合で、南アフリカで過ごしました。父は機械部品の会社に勤めていました。アフリカでビジネスを開拓するために会社から送り込まれた唯一の社員だったようです。いま考えれば父もグローバル人材でした」(楠木氏)

ただし、こうした人材はそうそういません。100人中 1~2人いればいい方ではないでしょうか。「真のグローバル人材がまず出て行って、商売を丸ごと立ち上げその後、英語や経営リテラシーに優れたスキル人材が出ていく、というのが戦略ストーリーです。2020年に向けて一番重要なのは、日本企業の中でこの100人中1~2人の人材をどう増やしていくか、ということではないでしょうか」(楠木氏)

この意見には米倉氏も賛成のようですが、もう少し楽観的でした。「こういうイノベーティブな人材は見つけるのは容易ではありません。しかし、予備軍も含めれば必ずいます。その人たちに外に出るきっかけを与え、真のグローバル人材に育てることがこれからの日本企業に必要です」(米倉氏)

一方で、こうした人材が必要なのはわかるけど、いざ自分のこととして考えると、「正直、同僚にしたくない」という意見も聞こえて来そうです。米倉氏は「組織的に除外しているケースもあるでしょう。それをやめなければいけない。これからの組織はもっと多様性を持たなければいけません」と力を込めます。

日本に好意を持つ外国人をいかに増やすか

そしてお二人はこの日集まった聴衆に向け、この場に外国人がいるかどうか問いかけました。結果はたった1人、中国出身の女性がいただけでした。この事実に対し「これだけグローバル化といわれているのだから、この場にもっと外国人がいいてもいいはず。この状況はきわめてまずいと思う」と米倉氏は警鐘を鳴らします。

一方、「日本を好きになってくれる外国人をいかに増やすかがカギを握る」と楠木氏。グローバル化というと自分たちが外に行くことばかりに目が行ってしまいがちです。来日する外国人に日本に好意を持ってもらうことがグローバル化につながるというのはどういうことでしょうか。

たとえば楠木氏の教え子のインド人は卒業後、日本の企業に就職して、その企業のインド進出で大いに活躍しているようです。日本に興味があって日本の大学に留学して、そのまま日本が好きになり、日本の企業に勤めて、インドでビジネスを拡張する――。確かに自然な流れです。「100人に1~2人のグローバル人材」も必要ですが、それと同じく日本に好意を持ってくれる外国人を増やすことが、日本企業のグローバル化には効果的なのかもしれません。

米倉氏はかつて米ハーバード大学に留学しました。当時は多くの日本人が米国の費用負担で留学したそうですが、1980年代の半ばには日本人の枠が減らされ、代わりに中国人が増えたそうです。

「将来的に経済成長のポテンシャルが高い国の学生を大勢受け入れ、自由に勉強させ、米国に好意を持たせ、母国に返すわけです。私はこれ以上に優れた外交政策はないと思います。その意味では、日本にたくさんの留学生を呼んできて、自由な研究をさせる。それが将来的に日本企業のグローバル化につながります」(米倉氏)

最後にお二人からこんなメッセージをいただき、特別基調講演は終了しました。「私たち学者や教師は、留学生をたくさん受け入れます。ですから皆さんはぜひ留学生を積極的に採用して、組織の多様性を広げてください。そして彼らにどんどん仕事を任せて、40億人の巨大なマーケットに打って出てほしいと思います。今日のテーマは、『2020年までに』ということでしたが、2020年はゴールではなく通過点に過ぎません。そんな気持ちでさらなる事業の発展を目指してください」。

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【SAP All Cloud Connect レポート】2020年までに何を準備しなければならないのか? これからのニッポン企業の競争戦略

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