グローバル化待ったなし!日本の化学業界――第2回:克服すべき3つの課題
作成者:中谷 俊哉 投稿日:2014年10月29日
化学産業のグローバル化を考える連載「グローバル化待ったなし!日本の化学業界」の2回目です。前回は、グローバルに統一された経営管理など、「標準化」を行うことがグローバル化には避けて通れないことを述べました。今回はその内容を受け、標準化の具体的な対象や、それを実施する上で克服すべき3つの課題について述べていきたいと思います。
3つの課題領域
グローバル化学企業の成長戦略の肝となる海外ビジネスの伸長のためには、M&Aを活用して、マーケット、ブランドなどを素早く手に入れるといった、これまで国内では想定していなかった手法が必要になってきます。その結果としてシナジーが生まれ、早期に収益拡大を狙うことが可能になるのです。そして、手に入れたマーケットやブランドなどを、統合された経営管理システムに即座に組み込んでいくことも重要です。そのためには、以下の3つの課題を克服しなければなりません。
- 企業統治(ガバナンス)の可視化、一元管理
- サプライチェーンの最適化
- 経営統合のスピード
以下、順に見ていきましょう。
1.企業統治(ガバナンス)の可視化、一元管理
企業統治において基本的に必要となるのは、グローバルに、いつでもどこでも経営状況を見ることができかつステークホルダーに情報を提供すること、すなわち可視化とアカウンタビリティーです。そのためには、IFRS(国際財務報告基準)への対応も必須となるでしょう。また、グローバル人材・スキル情報の一元管理、戦略的人材配置、後任者育成計画案など、人材面での管理も重要事項です。これらをITでサポートし、グローバル展開の規模に合わせたスケーラビリティーを確保することが求められます。具体的なポイントとして、想定されるものを以下に示します。
- 現地独自性を残す領域と、統括的コントロールが必要な領域の峻別
- 属人的ではない、標準化されたビジネスプロセス
- ビジネス速度に合わせた、素早く正確な企業管理情報の収集と分析・アクション
- 現地幹部やキーポジション(マネージャー、特殊技術員など)人材の把握・育成・配置
- 知的財産(特許情報、R&D情報)の十分な保護
2.サプライチェーンの最適化
グローバルにサプライチェーンを最適化することは、あらゆる企業において永遠の課題です。なぜなら、経営環境やマーケット状況、ロジスティクスの技術進歩や貿易に関する規制は常に変化し、それらへの対応が恒常的に求められるからです。そのためグローバル企業では、個社の強みを生かしつつ標準化するにあたり、サプライチェーンマネージメントに関わるKPIを導入しています。また、S&OP(販売および操業計画)も、全体最適を実現するために必須の取り組みの1つです。操業規模が小さければ、さまざまな変化に対応したサプライチェーンの構築も可能ですが、規模が大きくなりサプライチェーンが複雑になると、ロジカルな仕組み、つまりITと運用規則との融合が不可欠というわけです。
また、グローバルサプライチェーンにおける重要な取り組みの1つが、グローバル購買です。グローバル購買を実施する中で、ERPと連携しながらサプライヤーを管理し、支出管理および分析をすることにより、大幅なコスト削減につなげることが可能になります。
サプライチェーンの最適化に関して、以下に具体的なポイントとして想定されるものを整理します。
- 生産拠点の海外現地化にとどまらない、グローバルスケールでのビジネスを支える設備保全、サプライチェーンインフラや情報共有の仕組みの構築
- 現地生産拠点における品質・効率性・収益性の確保などのグローバルレベルでの統合管理
- 現地サプライヤー、フォワーダー(貨物輸送運送業者)も絡んだ複雑なサプライチェーンにおける、タイムリーな情報共有による迅速性と柔軟性の確保
- 化学業界では欠かせない化学物質管理や貿易管理の仕組みの構築
3.経営統合のスピード
M&Aでは、いかにスピーディに経営統合を実施できるかが、その成否を握っています。そして、経営統合をスピーディに実施できるかどうかは、標準化をどの程度実現できているかに依存すると言っても過言ではありません。以下に、具体的に想定されるポイントを示します。
- 販売・生産・物流プロセスの迅速な立ち上げ
- 言葉の壁・文化の違いの迅速な克服、コンプライアンス対応を備えたグループ経営管理スキームへの素早い組み込み(経営統合:PMI)
- 拠点増設やビジネスモデル変化への柔軟かつスピーディな対応
- M&A後の業務を吸収するフレキシブルで標準化されたIT基盤
スピーディな経営統合〜Evonik Degussa社の事例
ポストM&Aにおいては、業界のベストプラクティスと個社の重要プロセスをうまく統合する必要があります。そのために、統合の標準化アプローチが求められます。このツールとして採用されているのがSAP ERPです。第1回でも触れたBASF社のM&A後の迅速なIT統合事例をはじめ、化学業界における経営統合での活用事例は多数あります。以下にその効果について、Evonik Degussa社の例をもとに、簡単に紹介します。
Evonik Degussa社の中国法人(Evonik Degussa (China) Co., Ltd、本社・北京)は、2008年時点の売り上げが8.2億ユーロ、従業員数4000人規模のスペシャルティケミカルズの企業でした。それまで子会社ごとに20種類にわたるITソフトを活用していましたが、地域拠点(Greater China)としての経営統合にあたりSAP ERPを標準テンプレートとして導入したことで、透明性の高い管理システムを構築することができました。具体的な特長として、多言語に対応し、現地の法的要求にきめ細かく対応できると同時に、グローバル管理も柔軟にできるようになりました。また、データの一元管理により、ドイツ本社からは、個社に個別に問い合わせることなく、どこからでも現地データにアクセスでき、適切な経営管理ができるようになったと言います。
グローバル化学企業のパートナーとしてのSAP
以上のようにさまざまな事例において実績を積んできたSAPは、いまや、グローバル化学先進企業にとって、いわば経営パートナーのような位置づけとなっています。そうした立場から、今後、さらにグローバル化学先進企業が取り組むべき課題として、特に注目される領域について、以下にポイントを挙げておきたいと思います。
- グローバルサプライチェーンの一環としての設備保全管理と労働安全領域
- 生産関連技能伝承を含む人材管理領域
- 新たなマーケットにフィットした最適化された販売チャネル構築と利益の管理
- 製品イノベーションと製品安全管理
(SAPユーザー会化学諮問会、Chemical Executive Advisory Councilより)
日本の大手化学企業にとってのグローバル化とは
日本の大手化学企業においても、M&Aに対する取り組みが優先的な課題の1つであり、実際にM&Aを検討、実施している企業も少なくありません。しかしながら、多くの場合、M&A後の経営統合がうまくいくかどうかが、不安要素となっています。その解決のためにも、ガバナンスやサプライチェーンの面での標準装備を行うことが必須であり、それにより、スピーディな統合が可能になるのです。グローバル化学業界における取り組みにより、さまざまな経験とノウハウを積んできたSAPの実績は、日本企業の皆様のグローバル化にも大いにお役に立てると信じています。
次回は、中堅企業における取り組みに着目し、グローバル化の新たな視点を探ります。「中堅化学企業における新たな潮流」というテーマでお届けします。
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