製造業の「モノ」から「コト」への事業変革。サービス事業の強化の流れ:その⑦ Customer Experience ManagementとDesign Thinking
作成者:桃木 継之助 投稿日:2014年10月29日
SAP桃木です。製造業の「モノ」から「コト」への事業変革。今回は7回目です。
今回は、参考となる理論として、B to C店舗業界(対消費者に店舗を設けている業界)で10年ほど前に議論された ① Customer Experience Management(顧客経験管理)の理論と、顧客の求める「コト」を見定めるための手法として ② Design Thinkingの理論について、考えてみたいと思います。
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① Customer Experience Management
Customer Experience Managementは「モノ」ではなく「コト」や「経験」の提供に力点を置く考え方だ。対消費者向けに店舗を設けている業界で発達した理論だが、製造業の「モノ」から「コト」を考える際にも参考になる。
・ディズニーランドは、他の遊園地やテーマパークに比べて高いのに、なぜあれだけ集客できるのか?
・スターバックスは、他のコーヒーショップに比べて高いのに、なぜあれだけ集客できるのか?
その答えは、ディズニーランドが「夢と魔法の国」という「コト」を提供し、スターバックスが「第三の場所」(家庭と会社の2つの場所に加えて、3つ目の安らぎと楽しみの場)を提供するから。
(これはCustomer Experience Managementが議論された際のコンセプト。現在は多少異なる点を留意ください)
提供している「モノ」は似ているのに、提供している異なる「コト」によって、ここまでビジネスへ影響を与える。これら、「コト」や「経験」の提供に注力している企業は、以下の5つの観点で徹底的にビジネスに磨きをかけている。
- Sense ―― 顧客にどのような感覚を持ってもらうか
(安らぐ香りなど、五感) - Feel ―― 顧客にどのような情緒になってもらうか
(楽しい、熱狂しちゃう、高級感がある、偉くなった気がする、など) - Think ―― 顧客にどのような好奇心を持ってもらい、何を創造してもらうか
(なんでこうなっているんだろう? コレとコレで私だけの新しいものが作れるかも?) - Act ―― 顧客にどのように体感してもらうか
(やってみたらおもしろい!など) - Relate ―― 顧客に他者とどのような一体感を感じてもらうか
(私も憧れのメンバーの一員!など)
ディズニーはランドもシーも入り口にアーケード街があり、そこを抜けると、まるで映画の幕が開けるように絶景が広がる、といったSenseやFeelに始まり、他の3つの要素も入念に計画され配置されている。
このような話は、製造業からは遠い話に感じる方もいるかもしれない。
しかし、ハーレーダビッドソンやアップルなどの製造業も、これら「コト」や「経験」の提供に注力している企業の代表であり、製造業においても応用が効く話である。
また、このような入念にデザインされた「コト」や「経験」を、みなさまもセミナーなどに行った際に体験しているかもしれない。
高級なホテルで、セミナー開催企業の担当者が並びお出迎えがされ、高名な教授の話を聞き、ブースでデモンストレーションを間近に見て、ランチやディナーなどで他の人と話をする場面など。
品質にこだわりを持つ企業が工場見学に力を入れ、工場で働く職人その人が説明を行い、品質を向上するための取り組みの一つを体験する、といったデザインも目にしたことがあるかもしれない。
どのような感覚と情緒を得て、何を考え、何を体感し、どのように一体感を得たか。セミナー提供企業や工場見学提供企業が何を意図してデザインし、入念な準備がされているか考えてみるのも面白いと思う。
② Design Thinking with SAP
さて、続いての関連理論として取り上げるのは「Design Thinking」だ。この方法論により、顧客の求める「コト」をより具体的に把握することができる。
Design Thinkingは、ブレーンストーミングのようにアイデアを発散する手法の一つである。各種のアイデア発散の手法と大きく異なるのは、「顧客への共感」をスタート地点としている点である。
SAPでは、イノベーションの源泉として、社内でのソフトウェア開発や、業務改革など多くの場面でこのDesign Thinkingを利用している。また最近では、その手法を体系化し顧客にワークショップ形式で提供も行っている。SAPで体系化したDesign Thinking with SAPでは、20を超える体系化されたフレームワークを提供している。
たとえば、顧客との共感を深めるために、①一人一人の想定顧客の、名前・性別・年齢・家族構成・趣味・似顔絵などを書くペルソナというものを作る。そのあとで、②その顧客が、普段の生活で何を見て、何を聞いて、その結果として、どのような発言をして、どのような行動を取っているかを思い描く。そして、③その顧客が普段の生活をどのように過ごし、その中でどのような感情の起伏を得るかを描く。④その顧客と、周りにいる人を描き、それぞれの関係を見つめる。
このような体系化された思考の手法を用いることで、これまで見つけられなかった顧客が求める「コト」を発見することができる。(20超のフレームワークのうち4つを使うだけでも結構な量の発見が得られる)
このDesign Thinkingは、10年ほど前に、マーケティング分野で流行った「ペルソナマーケティング」に似ているが、「共感」の深さが異なる。また、「ペルソナマーケティング」が特定の一人を想定することが多いのに対して、Design Thinkingは上記のようなセッションを繰り返し、複数人と共感を行い、共通的な「コト」を洗い出すことに長けている。
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今回は、製造業の「モノ」から「コト」への事業変革を考える際に参考になる2つの理論について考えました。Customer Experience Managementにおける5つの視点は「コト」の提供をデザインする際に役立ち、Design Thinkingはお客様の求める「コト」を発見する際に役立つ手法だと思います。
さて、次回についてですが、そろそろ年末ということもあり、これまで7回で考えてきた内容の「まとめ」を行いたいと思います。