金融勢力図を塗り替える抜本改革とソリューション――第2回:機械学習が生み出す驚異のマーケティング


SAPジャパンの岡田です。鈴木に代わり、本連載の2回目を担当します。テーマは金融業界におけるマーケティングです。前回は、顧客起点に基づいた基幹系システムの刷新について、主に銀行と保険会社の事例をもとにお伝えしました。今回は「機械学習が生み出す驚異のマーケティング」という題で、金融業界におけるビッグデータを活用したマーケティングをテーマにお話ししていきます。まずは、要素技術となるデータマイニングを自動化するテクノロジーにふれ、その後、前回鈴木裕子からお伝えした金融機関の勘定系システムの上に載る応用領域として、マーケティング業務での活用についてお話します。

リアルタイムマーケティングへの応用

Financial traderさて、今回のキーワードである「機械学習」ですが、これをマーケティングにあてはめると、どういう風景が見えてくるのでしょうか?

金融業界におけるマーケティングは今や、ビッグデータを活用した高度なデータマイニング抜きでは語れないものに変貌しており、イベントドリブン、アクションドリブンで運用されはじめています。そこでは、顧客ごとの過去の全取引履歴を含む膨大な「足跡」を、現在行われているアクションを加味した上で解析し、即座に提案すべき商品や次に予測される顧客のアクションを特定・予測します。その結果に基づき、適切な営業方法・チャネル・体制へのフィードバックが行われます。

このようなマーケティングを、継続的かつ有効性を持って実施できれば、競争優位に大きく寄与します。しかし、このようなアナリティクス系の業務は、職人技に近いモデリング技術やトライアルアンドエラーのプロセスを経てはじめて有効になるケースが多く、経験が重要なスキルセットです。しかも分析の目的は業務であるため、分析のテクニックを業務ノウハウに転嫁するアイデアも必要ですし、データを自由に取り回すためのプログラミングのテクニックも求められます。そのようなスキルフルな人材がどこにでもいるわけではなく、どの金融機関でも簡単一様にデータマイニングの効果を享受できているわけではありません。では、その実践のために何かよい方法はないのでしょうか?

データサイエンティストに依存しないデータマイニング業務は可能か?

一般的なデータマイニングツールにおいて、ベストなモデルを構築するためには、統計的な知識と多くの時間、操作が必要となります。有効なアウトプットを得るためのフロー作成、データ加工、欠損値や外れ値の特定やその扱いなどのチューニングには、豊富な経験と勘が必要だからです。したがって、そういった専門性や特殊技能を持ったデータサイエンティストを採用し、業務を担当させるのがこれまでの常識でした。しかしながら、優秀なデータサイエンティストは、いまや市場で奪い合いの状態になっています。仮に採用できたとしても、分析を必要としている業務そのものの知識・経験を持っているかや、統計解析のカバレッジの広さなどのスキルセットも個人差が大きいことが想定され、何かの理由で異動や退職になった場合、一から同じ採用プロセスを経なければならないことにもなりかねません。

しかし、どこにでも不可能を可能にするチャンスはあるものです。SAPでは、データサイエンティストの個人技を「自動化」につなげるために、ロシア人数学者Vladimir Vapnik氏の理論である「構造リスク最小化原理(SRM原理)」という理論を実現化したソリューションに着目しました。Vladimir氏は迷惑メール振り分け機能などで活用されている機械学習モデルのサポートベクターマシーン(SVM)で有名ですが、このSVMはSRM原理から生まれたものです。SRMはモデルの自己学習機能として、現在最も知られているものの一つです。SAPでは、このアルゴリズムをデータマイニング業務の最適モデル作成自動化に活用し、実際にSAP InfiniteInsightというソリューションとして、お客様にご利用いただいています。

属人性の排除と大幅なスピードアップ

従来のツールでは概ね1モデル作成するのに、少なくとも2~3週間要していましたが、SAP InfiniteInsightでは、数十秒~数時間しかかかりません。その特長は以下のとおりで、データマイニング業務の効率化・自動化に寄与しています。

  • 必要なリソースを最小化:データサイエンティストに依存しない分析プロセスの確立
  • 自動化:変数の選択、変数の加工、モデル構築、モデル検証などの処理を全自動化
  • 効率性:目的別のモデル開発も短期間で構築可能。年間数百~数千にわたるモデルの構築が可能
  • メンテナンス性:モデルの精度を検知し、自動で再モデル作成が可能。モデルの精度を常に維持
  • スピード:専用アルゴリズムやデータベースとの連携により大量変数を利用した大量のモデル作成/スコアリングを短時間で処理
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SAP InfiniteInsight の Modeler モデル機械学習、自動作成の流れ

営業収益35%改善! バークレイズ銀行の事例

では、このソリューションの有効性を具体例で示します。イギリスに本社を置くバークレイズ銀行では、アクティブな1,400万口座の顧客に対するアップセルとクロスセルを目的としたアウトバウンドのセールス・キャンペーンを実施しようとしていました。そのためには、データマイニング技術を活用して、最適なチャネルとタイミングで最適なアクションを起こすことが必要と考えいました。ですが年間で実施したいマーケティングのキャンペーン数は200を超えるため、それらのキャンペーンすべてにデータマイニングを適用することはできていませんでした。そこでSAP InfiniteInsightで自動モデリングを実行し、実施するすべてのキャンペーンに活用したところ、以下のような成果を得ました。

  • キャンペーンのイニシャルレスポンスが160%に向上
  • 分析モデルの投入に4~6週間かかっていたものを1~2週間へ短縮(75%削減)
  • 240にわたる年間すべてのマーケティングキャンペーンを最適化
  • メール配信のボリュームを70%削減
  • 営業収益が35%向上、マーケティングキャンペーンにかけていたコストを30%削減

特筆すべきは、リードタイムの大幅な短縮と効率向上、それに伴う売上アップとコスト削減が定量的な成果として目覚しかったことです。また、属人性を可能な限り排除できたので、人事異動などによる影響を受けずにすみ、継続性と有効性を担保できていることも競争優位の向上に大きく寄与しています。

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また、個別の顧客に対するコンタクト方法の最適化がこのイニシアチブのなかで得られたことも大きな成果でした。「どのお客様がどんな提案を受け入れるのか」「その中で最も収益性が高いものは何か」というターゲティングに対し、それを実現するための個々のコンタクトのチャネルやタイミングを適切に管理する施策を導入することができたということです。

バークレイズ銀行以外にも、イタリア最大手の銀行であるUnicreditや、日本国内でも銀行やカード会社でのマーケティング活動において、同様の成果を上げています。

参考記事:バークレイズの財務・会計システム改革――リーマン・ブラザーズとの統合はどのように実現されたか

リアルタイムマーケティングへの進化

こういったマーケティングは、キャンペーンにとどまらず、個々の顧客の置かれている状況やイベント発生時に合わせて実施することにより、効果が高まることが想定されます。イベントとは、結婚、就職、出産といった前向きなものだけでなく、離婚、死別といったようなものまでをも含みます。SAPの日本のお客様では、地方銀行や保険会社などが積極的な検討を行っています。また、第1回でご紹介したオーストラリアのCBAによるリアルタイムでの営業活動制御では、口座の増減情報と残高の増減情報をSAP HANAを用いてリアルタイムに把握、可視化し、その動きに基づいて営業メンバーの配置や訪問先を都度見直すというものでした。このように、マーケティング活動はリアルタイムで実施されるようになり、一刻一秒が勝敗を決するといっても過言ではない状況になっています。

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リアルタイムマーケティングを一気通貫で

金融業界におけるマーケティングは、ビッグデータの解析と、そこから得られた示唆を瞬時にオペレーションに反映させることが肝要となっていることがお分かりいただけたかと思います。そして、そのためにはデータマイニングモデル作成の非属人化、自動化、効率化を第一歩とすることが有効で、マーケティング活動自体の大幅なスピードアップと効率向上が見込めます。SAP InfiniteInsightは、この一連のマーケティング活動をワンストップソリューションとして提供し、皆様のお役に立てるように活動しております。

次回は、再び鈴木にバトンタッチし、「金融機関が真のサービス業になるために」というテーマで、規制強化やその他の新しいトレンドの中での課題とソリューションについてご紹介します。

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