値決めこそが経営――戦略的な価格政策が企業利益をもたらす理由とは


2014年10月9日、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社と弊社との共同主催により、「戦略的プライシングマネジメント  Pricing & Profitability Management(PPM)セミナー~戦略的な価格政策が継続的な利益を創出する~」が開催されました。本連載では3回にわたり、当日の内容をダイジェストでお伝えします。

第1回は、Deloitte Consultingのジョン・ノークス氏による基調講演「戦略的プライシングマネジメントのフレームワークとグローバル事例」についてお伝えします。ノークス氏は25年間にわたり、五大陸において幅広い業種の多国籍企業に対してコンサルティングを手がけてきた人物です。なかでもDeloitte Consultingにおいては、一貫して企業の収益性向上に取り組んでこられました。

講演者:ジョン・ノークス氏(Mr. John Norkus, Practice Principal, Pricing & Profitability Management, Deloitte Consulting)

 

「値決めこそが経営」である理由

冒頭、ノークス氏は次のように切り出しました。「これまでの25年間、多くの企業はサプライチェーン、製造、購買などのプロセス改善、CRMの高度化などを成し遂げてきました。しかしながら、プライシングに着目し、具体的な取り組みができるようになったのはここ10~15年という、比較的最近のことです」。

続けて、ノークス氏は京セラ株式会社創業者、稲盛和夫氏の次の言葉を引用しました。

「値決め(プライシング)は単に売るため、注文を取るためという営業だけの問題ではなく、経営の死命を決する問題である。売り手にも買い手にも満足を与える値でなければならず、最終的には経営者が判断すべき、大変重要な仕事である」。

image1ノークス氏は、プライシングの効果をこう説明します。1ドル高く価格に上乗せすることができれば、それはそのままマージンの源泉になる。ところが、仮にサプライチェーンを改善して変動費を1%抑制しても、あるいは固定費を1%削減しても、販売数量を1%増加させたとしても、価格を1%改善(上乗せ)する効果には及ばない。つまり、プライシングこそが収益力を向上させる強力な梃子(てこ)である、と。このような考え方のもと、デロイトでノークス氏は約10年にわたり、PPM(Pricing & Profitability Management)のコンサルティングを手がけてきました。

なぜプライシングが実施されてこなかったのか

しかしなぜ、これまで多くの企業がプライシングに本格的に取り組んでこなかったのでしょうか?なぜなら「価格」は企業のあらゆる部署に関連するためです。ノークス氏は、2020年の東京オリンピックの例を挙げました。オリンピックを成功裏に実施するためには多くのことを同時に成し遂げなければなりません。スタジアムの建設に始まり、交通や物流の確保、高いセキュリティの実現、選手村の整備、来訪者の受入など。プライシングもこれと同じで、期待される効果は絶大ですが、さまざまなことを同時に実施する必要があるのです。

これをノークス氏は、「『価格』はすべてと関わり、すべては『価格』と関わる」と表現しています。まず、マーケティング部門、営業部門、財務部門、IT部門など、それぞれの部門が「価格」に関与し、経営陣が最終的な判断をする。これがエクセルやERP、データベースなどのツール上で組織内で共有される。さらに、チャネルとしてフィールド営業、卸、小売、ベンダー管理在庫(VMI)、ウェブとのやりとりなどを経て最終的な「価格」が決まる。このように、価格決定には企業内に多くの利害関係者がおり、複雑で煩瑣な作業を要することから、収益性は、組織を通じて生み出されもし、失われもしてきた、というわけです。

プライシングのフレームワーク:シックス・ボックス・モデル

このように、プライシングは非常に複雑なものです。最終的な販売価格は、ディスカウント、リベート、その他販促金などを含んで決まります。そのような複雑なプライシングのアプローチとしてデロイトが提唱するのが、「シックス・ボックス・モデル」と呼ばれるフレームワークです。ノークス氏は、6つのボックスについて、それぞれ以下のように説明しました。

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  • プライス実行
    意図した価格で顧客との取引を行うことで、以下に示すプライシング戦略や分析などを忠実に実行するプロセスです。そのためには、営業トレーニング、営業の報酬体系変更、報告の義務化、情報システムを活用した実際の取引のフィードバックを与えるしくみの整備などについて検討する必要があります。
  • プライシング戦略
    経営戦略、事業戦略、商品戦略とプライシングの整合性をとること。目指す方向に合わせた値決め、販促、その他奨励金などを戦略的に設定することです。
  • 高度な分析と価格設定
    市場での販売価格(店頭価格)について、需要分析などを通じて価格設定することです。
  • プライシングテクノロジーとデータ管理
    上で述べた、価格設定のための分析を行うには、テクノロジーとデータ管理が必要となります。これらのデータは、ERP、エクセル、データマスター、外部ソース、競合価格データ、CRMシステムなど、多様なところから集める必要があります。これらのデータを統合して「収益性(プロフィタビリティ)データベース」に格納し、高度な分析を実施します。
  • 組織の連携とガバナンス
    プライシングの意思決定をする人が必要となります。いかに優れた分析レポートができても、それを企業内で理解し、戦略へと落とし込まなければなりません。そのために、報酬体系を変えたり、プライシング戦略のグローバルベストプラクティスを定めたりすることも必要になります。
  • 税務と法規制の実効性
    プライシングには、国ごとに違う税制と規制を考慮する必要があります。

要因分解により真の価格とマージンを探る

image2このようなフレームワークに加え、ノークス氏は「プライシング・ウォーターフォール」というもう一つの枠組みを提示しました。これは、実際に市場で取引される時のプライシングプロセスと利益を、項目ごとに要素分解して管理する手法です。

たとえば製品の基本価格に、オプションなどを加えることで価格を上乗せできます。また、海外など別の市場に販売する際に、価格の上乗せが可能な場合もあります。一方、顧客とのこれまでの取引関係や大口取引を理由に値引きを行ったり、輸送費を無料にしたり、プロモーション割引を行ったりといった、値引き要素も加味されて、正味の価格(ネット価格)が決まります。そこから顧客に課すことのできない手数料などを差し引いたものがポケット価格(手取り価格)となり、さらに売上原価を差し引いたものがポケットマージンとなります。このように、1つの取引を制御可能な独立した項目で詳細に分解することにより、実際の販売価格とマージンを制御できるのです。

以上をふまえて、「PPMとは会計の対極に位置づけられる。なぜなら会計は平均や合計を求める活動だが、PPMは分解を求める活動だから」と、ノークス氏はPPMの特徴をまとめました。

最終損益の4%(約160億円)の改善!~米国ビール業界での事例~

PPMのフレームワークが把握できたところで、ノークス氏は「最終損益の4%の改善」を実現した事例を取り上げました。数千億円の売上を持つ米国ビール会社のケーススタディです。この企業は、全米に300の流通センター、小売、ホテル、レストラン、ハイパーマーケット、スーパーマーケット、流通業者(間接販売)など60万以上の顧客、10種類のブランドと120のSKU(Stock Keeping Unit:単品として管理すべきユニット)を保有するトップシェア企業です。しかし、業界トップシェア企業でありながら、これまで価格の詳細については把握しておらず、どこで儲けているのか、どこで損しているのかがまったく分析できていなかったと言います。セールスパーソンに対しても、ただ売上数量を伸ばすことだけをノルマとして課し、数カ月連続で売上数量が減るとクビにするといった荒っぽいやり方でした。しかし、市場が成熟するにつれて同業者との競合が厳しくなり、企業文化そのものが失われようとしていたのです。

そこで、デロイトが最初に行ったのは、顧客データと販売データを集め、収益性データベースを構築し、どこで収益が上がり、どこでロスしているかを分析することでした。これにより、2割を超える数の顧客との取引で損失が発生しており、しかもその大半が、販売数量が小さい顧客であることがわかりました(赤字小ロット)。そして、なぜこのような価格設定になっているのかを、先の「プライシング・ウォーターフォール」で分析すると同時に、価格アップに関する精査を行いました。地域特性やパッケージ売り、組み合わせ販売ごとに価格を最適化できれば、売上を極大化することが可能になり、適切なプロモーション戦略により必要不可欠な値引き幅を設定できます。また、ビールのサイズを大きくするといった新製品の開発などにより、単価アップについても検討しました。

その結果、実施されているプロモーションのうち、40%は利益を生んでいないことが判明しました。また、流通業者に対するプロモーションプログラムの多くも、利益にはつながっていませんでした。こうした結果をふまえ、特に収益性データベースで「赤字小ロット」について手を打つべきという結論にいたりました。それが、「Fix or Flush Program」と呼ばれる取り組みであり、先の要因分析で対応できるかどうか(Fix)、できなければやめる(流してしまう:Flush)という選択を強いたのです。

また、先のシックス・ボックス・モデルに従いPPMを実施した結果、「コンビニチャネルでは、単なるパパママショップよりも低い価格で提供すべき」というプライシング戦略を実施することにしました。このような取り組みの積み重ねにより、最終的に全社で毎年1億5500万ドルの利益改善が認められました。営業の現場では、「過剰プロモーションをしない」、「過剰値引きをしない」、「過剰リベートを払わない」ということを確認し、対象顧客別にそれぞれ実践する方法を身につけることができたと言います。それだけではなく、価格設定のベストプラクティスを身につけ、社内で共有する仕組みを作ることができた点が、このケースでの非常に大きな成果と言えるでしょう。

PPMは必須の戦略ツールに

最後に、ノークス氏は、以下のような点で当てはまるものがないか、会場に問いかけました。

  • 売上は伸びているのにマージンが伸びていない
  • 販売決定時や交渉時に、価格やマージンに関する情報がない(見えないものは管理できない)
  • 営業部隊が往々にして買い手の価格で販売している(販売数量重視)
  • 報酬とインセンティブが連動していない
  • 投資家から長期的視点よりも短期的視点で対応するようにプレッシャーを受けている
  • プライシングの効果について十分な報告ができていない
  • 価格指標変化などによるコスト変動を会計処理に反映させることが困難
  • 価格弾力性や、顧客が払ってもいいと思う最大価格についてもっと理解したい

「このような事柄が当てはまるようであれば、PPMを試す価値があります」とノークス氏は述べて、講演を締めくくりました。

シックス・ボックス・モデルは、戦略的プライシングマネジメントにおいてデロイトの優位を確立するカギになった、とノークス氏が自ら述べたとおり、その概念やそれを実践した証である事例は、非常に説得力のあるものでした。PPMが日本企業の今後の事業戦略において必須のツールとなることが、この基調講演を通して実感されました。

次回は、第2回として、PPMソリューションをデロイトとタイアップして提供しているVendavo社の社長兼CEOであるニール・ラスティグ(Neil Lustig)氏による、「PPMを支えるソリューションVendavo」と題した講演をお届けします。

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