グローバル化待ったなし!日本の化学業界――第3回:中堅化学企業における新たな潮流

作成者:中谷 俊哉 投稿日:2014年11月25日

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今回は3回シリーズでお届けしている連載、「グローバル化待ったなし!日本の化学業界」の最終回です。第1回では経営インフラの標準化の重要性について、第2回ではその中でもガバナンス整備とサプライチェーンの最適化を実施し、統合スピードを上げることの重要性について、グローバル規模の大企業を参照軸として述べてきました。今回は、少し視点を変えて、中堅クラスのスペシャリティーケミカル企業におけるグローバル化の方向性について、日本企業を事例に考えてみたいと思います。

中堅化学企業にとってのグローバル化とは?

Worker and business person who works in a factory日本企業でも大手を中心に、M&Aで技術・製品ポートフォリオ、マーケットの拡充を迅速に進めていくケースが見受けられます。一方、中堅化学企業においても、技術的優位性を持つ企業は多々あり、顧客ニーズに合わせた海外展開を積極的に進めている企業は少なくありません。このような企業では製品開発などの研究開発能力が発展のカギを握るため、限られた経営資源を研究開発に集中する必要があります。一方で、海外事業管理には、大手グローバル企業と同様、標準化の推進といった、より合理的な手法が不可欠です。

たとえばパフォーマンス・ケミカルスの三洋化成工業株式会社は、早くから海外展開を行ってきましたが、今後さらに海外展開を積極的に推進していくために、統合された経営システム基盤の整備、海外子会社へのガバナンス強化、IFRS(国際財務報告基準)対応などを実施しようとしています。同社での具体的な取り組みとしては、SAP ERPをSAPのパートナー企業が運営するプライベートクラウド上で統合し、展開しています。オンプレミス(自社運用)に比べ導入コストをかなり抑えることができる点が大きな利点です。以下で、その具体的な取り組みについて見てみましょう。

システム統合によるグローバル経営基盤の構築~三洋化成工業の事例

三洋化成工業株式会社は1949年創業の、京都に本社を構える東証一部上場企業です。2014年3月31日現在の従業員数(連結)は1,917名(うち、研究人員数416名)、2013年度の連結売上高1,651億円、うち海外売上高642億円(海外売上高比率:39%)で、約3,000種のパフォーマンス・ケミカルス製品を製造・販売しています。代表的な製品には、高吸水性樹脂(紙おむつなどに使用)、液体洗剤用/ヘアケア用界面活性剤などがあり、広く活用されています。

同社グループは、国内関係会社5社、海外関係会社14社(中国、台湾、韓国、タイ、米国)、物流・サービス会社4社となっています。うち、連結子会社12社、持分法適用会社5社です。今後、海外事業をさらに拡大する目的で、現在の海外連結子会社の業務システムの統合に踏み切りました。統合前の海外システムは、それぞれが独自にERPを導入しており、日本の本社から海外子会社の状況が見えにくいことが課題となっていました。業務システム統合の目的を整理すると、以下の3点になります。

  • IT基盤の統一と業務の可視化を行い、ガバナンスを強化する
  • 海外新事業所拠点展開時に備えてシステム基盤を準備する
  • IFRS対応のためのシステム基盤整備を行う

なお、適用業務は、販売管理、物流管理、生産管理、品質管理、購買管理、財務会計、管理会計の7業務。導入システムの要件は、以下となっています。

  • 導入拠点は海外3カ国7社で、言語対応必要(中国語、英語、タイ語「帳票対応」)
  • 各国における法規制対応
  • 通貨対応
  • システム構築業務:販売、物流、生産、品質、購買、会計(財務、管理)
  • IFRS対応

上記の課題を解決するにあたり、同社ではSAP ERPとクラウドを中心とするソリューションを活用しています。SAPテンプレートをグローバルモデルとして採用、国レベルでの要件は最低限のものに、会社レベルの要件はオプションとする「グローバル情報システム」という構築指針に従っています。また、本社IT部門におけるインフラ保守の負荷軽減と海外子会社のシステム運用からの解放を目的として、クラウド上の運用としています。

これにより、すでに以下のような効果が得られています。

  • 海外連結子会社の業務/システムの標準化
  • グループ経営の見える化
  • 月次決算の早期化
  • IFRS対応
  • 監査負荷の軽減
  • 決算業務にかかる作業効率の向上

まだ導入間もないため、定性的評価にとどまっていますが、これから定量的な本格効果が現れてくることは間違いないでしょう。これにより同社はグローバル化を一層推進する構えで、2020年度における連結売上高3000億円という目標を掲げています。

精鋭中堅企業がグローバル化の先陣を切る

三洋化成工業の事例に見られるように、中堅企業ならではの身軽さが、逆に日本においてはグローバル化のプロトタイプとして先陣を切っていくことになるのかもしれません。規模の大小を問わず、グループワイドで統合化・標準化された経営管理およびそれを支えるIT基盤があれば、成長スピードを大幅に加速させることは可能です。一方、大手企業においては、全面展開でのシステム統合は容易ではないかもしれません。しかし、大手企業も早々に本格着手しなければ、グローバル化の効果は限定的なものに留まってしまいます。

以上、3回にわたり日本の化学業界のグローバル化に向けた問題提起をしてまいりました。海外のグローバル企業の動きは、標準化・集約化による経営管理と、それを支えるITインフラの統合が必須であることを示唆しています。また、そこでの具体的な課題として、ガバナンス、サプライチェーン最適化、そしてそれらに基づくスピードという3点を確認しました。一方、日本の中堅企業においては、グローバル標準化に向けて本格的に動き始めている企業も出てきており、このような潮流が日本の化学企業の新しいグローバル化を牽引していくように思います。いずれの取り組みにおいても、これまでSAPはさまざまな経験とノウハウを積んできていますので、必ずや日本の化学業界の方々のグローバル化に対してお役に立てると信じています。

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