通信業界の新しい成長戦略とは――第2回:協業による法人クラウドサービス構築


Interior of server room in Cape Town, South AfricaSAPジャパンの村山です。通信業界における現在の課題を見据え、具体的な打開策について、「通信業界の新しい成長戦略とは」と題し、3回シリーズでお届けしております。前回は、通信業界のニュートレンドと対応策の全般について、さらに、対応策の1つ目として「顧客接点再構築」を中心に解説しました。オムニチャネルの整備と販売方法の最適化をスピーディに実施することにより、大幅な収益改善が実現できるというものでした。

今回は、売上拡大にかかわる新領域として注目すべき「法人クラウドサービス」に焦点を当てて解説したいと思います。ここで言う法人クラウドサービスとは、SLA(サービスレベルアグリーメント)別にサービスを提供したり、通信事業者が他業種へ進出する1つの目的である業種別ソリューションを構築したり、そこで必要となる共通プラットフォームをクラウドで提供するといったことを含みます。IoT(モノのインターネット)やM2M(Machine to Machine)と呼ばれる、センサーネットワークのプラットフォームなどもここに入ってきます。

そこで重要となってくるのは、協業です。通信事業者だけで実施できるものではなく、ITベンダー、ユーザー企業との共同開発が基本になります。しかも、このような「協業」をうまく活用することにより、商品開発やサービスの市場投入までの時間を大幅に短縮することも可能になります。今回は、そのような観点から事例を交えて解説していきたいと思います。

クラウド協業モデルの先進事例~ポルトガルテレコム

最初に、具体的な事例をご紹介しましょう。ポルトガル最大の通信事業者であるポルトガルテレコムは、国内で非常に高い市場シェアを有している企業です。ただ、ポルトガルの国内市場は大きくありません。そこで積極的なグローバル化を進めてきています。最初はポルトガルに支社をもつ海外企業にサービスを提供する、といったことから始め、現在はポルトガル語圏を中心に世界各国に進出してビジネスを展開しており、ブラジルやアフリカなどに主要な拠点を有しています。

SAPと協業しているポルトガルテレコムのクラウドサービスは、以下のように、ユーザーセグメントや目的に応じて提供されています。

  • SAP HANA Developer Edition:分析基盤をオンディマンドで提供
  • SAP Business Suite powered by SAP HANA:大企業向けクラウドサービス
  • SAP Business One:中小企業向け
  • Multi-Tenant SAP Business One Cloud:ポルトガルに進出している海外企業の子会社向け
  • mPaaS/Enterprise Mobility:企業向けモバイルソリューションの開発基盤やセキュリティツールの提供
  • Real-Time Analytics:アナリティクス系アプリやツールの提供

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上記のうち、mPaaSとは、モバイル向けのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス:ソフトウェアを構築および稼動させるための土台となるプラットフォームをインターネット経由のサービスとして提供するもの)です。ここではSAPの企業向けモバイルビジネス支援ソリューションSAP Afariaが使われています。これにより、たとえば外国企業のポルトガル現地法人などで、現地の従業員に渡すモバイル端末に本国と同じレベルのセキュリティや機能などのサービスレベルを付与することが可能になります。したがって、わざわざ現地にIT管理者を置く手間が省けます。それ以外のクラウドサービスではインメモリープラットフォームSAP HANAを活用しています。また、ブランディングにも工夫を凝らし、欧州などの先進国では、現地の大手通信事業者と提携しダブルブランドで展開しています。先進国以外の国のうち、自社リソースを持たない地域では、オペレーションを現地の通信事業者にアウトソースしつつ、ブランドはポルトガルテレコムによって展開しています。ポルトガルテレコムではSAPとの協業を通して、このような体制づくりを短期間に実現することができました。

チャイナテレコム、Swisscom、CenturyLink、AT&Tなどでも同様に、SAPが基盤を構築し顧客紹介を行うなどの協業が行われており、グローバルスケールでのクラウドサービス提供のモデルとなっています。Swisscomの場合には、モバイルプラットフォームを用いて遠隔医療や電子カルテなど地方自治体が必要とするアプリケーションを共同で作り込み、Swisscomが販売するという形態をとっています。また、経費精算などの業務管理システムをSaaSの形で一般企業にも販売するという協業も行っています。

日本国内におきましても、SAPはNTTグループなどと協業してマネージドクラウドサービスを提供する運びになっています。

IoT/M2M領域での、協業によるクラウドサービス 

IoTやM2Mにおける取り組みは、現時点ではたとえばトヨタのM2M、日産のM2M、ホンダのM2Mといったように、企業ごとに別々になっているものが多いと言えます。資金力のある大企業であれば、個別サービスとして推進していけるのですが、中小企業などでは独自のサービス提供が難しいので、クラウド上でのM2Mサービスがあれば使いやすくなります。また、小売や卸売のように、M2Mの対象が常に変化するような業態においてもクラウドでのM2Mは魅力的に映ります。このようなクラウドサービスは通信事業者のほか、ネットワークインテグレーター、そしてデバイスメーカーなどが協調して、標準的で固有なプラットフォームを作っていく流れとなっています。

通信事業者が協業の核となって、さらに、ここに小売などのユーザー企業が加わることにより、M2MやIoTの業界標準プラットフォームにまで発展させていくことが可能になるでしょう。その際、SAPは取得したデータの分析・活用という観点で通信事業者を補完することで、広範でより付加価値の高いサービスを提供していけることと思います。

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ここでドイツテレコムの事例を見てみましょう。ドイツでは、製薬業界においてメーカーが製造した薬品は、通関や卸、小売、あるいは病院、アフターサービスといった流通段階を経るたびに管理番号が変えられてしまうので、最終的に正しく処方されているかどうかをメーカーが把握できないという課題があります。そこで、ドイツテレコムがクラウドサービスを提供し、製造した薬品を仮想的にトラッキングできるような仕組みを実験的に提供しているのです。このように、異なる事業者をまたいでサプライチェーンを一気通貫にカバーするといったことは、通信事業者の強みを活かしたクラウドサービスであり、今後注目すべき方向性であることは間違いありません。

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協業でスピードアップ!

通信業界はこれまで、種々の開発において自らが中心となって独自に実施してきた経緯から、従来のスタンスを変えて柔軟な共同開発を行うということには、まだ慣れていないかもしれません。自社だけで開発のスピードアップを図るのは困難かもしれませんが、スピードの速い開発パートナーと協業で実施すれば、それもそう難しいことはないでしょう。協業をうまく活用したサービス開発・市場投入が求められています。

次回は、コア領域である顧客獲得および長期リテンション確保におけるチャレンジについて、解説したいと思います。「長期的な顧客ロイヤリティをどう獲得するか」と題してお届けします。

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