価格決定を「アート(技)」から「サイエンス(科学)」へシフトする方法

作成者:SAP編集部 投稿日:2014年12月3日

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本連載では、2014年10月9日、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社とSAPジャパン株式会社との共同主催により開催された、「戦略的プライシングマネージメント  Pricing & Profitability Management(PPM)セミナー~戦略的な価格政策が継続的な利益を創出する~」の内容を紹介しています。

前回はこちら:値決めこそが経営――戦略的な価格政策が企業利益をもたらす理由とは

2回目の今回は、Vendavo社のCEOであるニール・ラスティグ氏による講演内容をお伝えします。2000年に設立されたVendavo社は、PPMのITソリューションベンダーとして、Deloitte ConsultingやSAPと戦略的提携関係にあり、フォーチュン誌が毎年ランキングするトップ企業「フォーチュン500」への導入実績が多数あります。本講演では、Vendavo社の基本理念と、同社が提供するPPMのITソリューションについて、事例を交えて紹介が行われました。

講演者:ニール・ラスティグ氏(Mr. Neil Lustig, President & CEO, Vendavo)
*2014年10月9日時点(2014年12月3日現在のCEOはDavid Mitchell)

価格決定を「アート(技)」から「サイエンス」へ

image1まずラスティグ氏は、自身が社会人として最初にキャリアを積んだIBMでの営業時代の話から始めました。80年代に入社したラスティグ氏が初めて販売したのは、メインフレームコンピュータでした。新入社員だった当時、ニューヨークの金融機関に対して15%のディスカウントで販売できたことを、ラスティグ氏は非常に誇らしく感じたと言います。ところが、同じ支店の同僚が、自分の顧客と2ブロックしか離れていない別の銀行の顧客に、まったく同じメインフレームを50%もディスカウントして売ったというのです。

販売にあたり、会社からは「顧客が払いたいと思っている金額はいくらか」ということについて指示はありませんでした。主に自らの直感に基づいて販売したと言います。なぜこれほどの差が生じたのでしょうか。営業担当者はつねに、「お客様のテーブルの上にお金は残っていないか(取りこぼしはなかったか)?」ということを気にします。つまり、「顧客に対して課すことのできる最大価格はいくらか?」「公正な市場価格はいくらか?」と考えます。しかし、営業担当者は、テーブルの上にお金を残してしまったとしても、その過ちに気づくことはできません。交渉中には誰も教えてくれなければ、警告されることもないからです。

多くの企業が、価格に課題を持っています。「いくらで売れば買ってくれるのか」「リベートを提供すべきか」「何かを供与したり、別の商品と組み合わせたりすべきか」といった疑問を抱えながら、限られた知識と経験と勘を頼りに意思決定をしています。しかし、価格に関する意思決定を「アート(技)」にゆだねるのではなく、データ分析やアルゴリズムなどに基づいた「科学」的アプローチを取り入れるべきであると、ラスティグ氏は述べました。ただしその際、ITが営業マンにとって代わるというのではなく、あくまでも意思決定を行う営業担当者に必要な装備を与えて、ビジネスの意思決定の成功確率を上げていくことが重要だと。

このような考えに基づき、Vendavo社ではこれまでさまざまな地域で数多くの企業を対象にPPMを実施してきました。その結果、過去5年間で平均1.7%(最大5%以上、最低でも0.5%以上)のマージンの改善を実現してきました。これらの企業の多くは成熟産業であるにもかかわらず、例外なく改善してきたというのだから驚きです。成熟産業だから諦めるのではなく、成熟産業だからこそ実施する価値があると、ラスティグ氏は指摘します。対照的に、年に数十パーセント成長するような成長産業においては、価格戦略よりもむしろ成長戦略に注力すべきだと述べました。

まずデータ分析から始めよ

では、具体的にどのように実施すればいいのでしょうか。まずは、データを分析することから始めるべきだとラスティグ氏は言います。過去の取引データと、競合情報、外部の市場データを分析し、営業担当者のアクションにつながるようなガイダンスへと変換するのです。「この価格で押していっても大丈夫か?」「送料は無料にすべきか?」「リベートは提示しないほうがいいか?」「価格に関して、よりアグレッシブになるべきか?」といった具体的な問いに答えるようなガイダンスを作成します。これにより最適な価格を算出し、交渉で価格に上乗せができれば、それはすべて利益の源泉になるというわけです

「まるでATMのようだ」

Vendavo社の創立後、Deloitte ConsultingおよびSAPと提携を行ってきた中で、次の3つの柱が形成されたとラスティグ氏は述べています。すなわち「理解(Understand)」、「戦略化(Strategize)」、「実行(Execute)」です。

1つ目の柱である「理解」を実現するのがVendavo Profit Analyzerです。プライシングにおける「見える化」ツールと言えます。どのセグメントで利益が出ているのか、逆に利益が出ていないのか。第1回で説明したプライシング・ウォーターフォールを用いて、儲かっているところ、損しているところを即座に洗い出すのです。Vendavoの顧客である3M社は、Vendavo Profit Analyzerをグローバルで採用し、どこに収益の源泉があるのかを導き出し、3.5%のマージンの改善を実現しました。同社の担当者いわく、「このソフトウェアはまるでATMのようだ」。

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2つ目の柱である「戦略化」を実現するのがVendavo Power & Riskです。これにより、顧客や商品に基づく販売対象セグメントごとにターゲット価格を設定することができます。しかも、単に価格を提示するだけでなく、なぜこの価格がベストなのかも示します。そしてこの情報は、SAP CRMなどと連結させ、PCやタブレットなどでいつでもどこでも営業担当者に届けることが可能です。これにより、営業担当者は自信をもってお客様と交渉ができると、ラスティグ氏は強調しました。

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3つ目の「実行」を支援するのがVendavo Deal Managerです。このツールは、個別の交渉を支援したり、営業本部と協力して代替条件を提示したり、営業担当者に交渉のガイダンスを提供するものです。そして、もう1つがVendavo Sales Negotiatorです。これは、iPadなどのモバイル端末を用い、営業担当者が、自分が交渉している案件の収益性などを確認することができるツールです。たとえば提示価格が目標収益を下回っていたとしても、その価格で決着したい時は、営業本部から承認を得る必要があります。さもなければ、提示価格を上げて交渉に臨むことになります。あるいは、新たな価格や条件について本部から提示を受け、交渉を続けます。こういった営業本部とのコラボレーションがリアルタイムに可能になるのです。

適切な価格設定のみならず、値下げ抑制でも成果

ラスティグ氏は、これらツールを活用して成果を上げた2社の事例を紹介しました。1社目は、カーペットや床材などを設計・製造し、直接・間接販売を行っているモーホーク社(Mohawk)です。同社は扱う商品数が多く、しかも複雑で、どこで利益を上げ、どこで損失を出しているのかがほとんどわからない状態でした。しかしデロイトがコンサルティングを実施し、Vendavoを導入したところ、6カ月で成果を上げることができたと言います。

もう1社はモレックス社(Molex)という、電気製品のコネクターなどを作っているグローバル企業です。同社の場合、多くの企業と異なり一切値上げをしないという方針です。値上げのためではなく、できる限り値下げ幅を抑えるためにVendavoを導入しました。電気製品のコネクターはつねにコスト低下圧力にさらされており、気をつけていないと、あっという間に価格が下がってしまうためです。実際、モレックス社は可能な限り値下げのタイミングを遅らせ、その幅を小さくとどめることに成功しました。この試みは非常に収益力が高いことから、ウォール街の証券アナリストにも賞賛されたと言います。

プライシングは機能ではなく、戦略の柱

最後にラスティグ氏は、改めてプライシングの重要性を強調しました。価格は独自に決まるものではなく、企業戦略や執行、報酬体系、商品計画など、あらゆる企業活動との関係の中で決まるものです。つまり、プライシングとは戦略的な柱であって、単なる機能ではないのです。また、本質は経営の問題だということ。プライシング戦略を導入することは、組織変革・企業変革をすることにほかならないのです。

プライシング戦略は大変効果的なものですが、では、いつ行えばいいのでしょうか。「まさに、今です。すべての道具立ては整っています。後は実行のみです」という言葉で、ラスティグ氏は講演を締めくくりました。すなわち、SAPを使用しているお客様であれば、データはそろっていますし、営業部門からの期待もある中、まさに今、プライシングの施策を行う条件は整っているといえます。

次回は、最終回として、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 小高正裕氏による、「日本における顧客導入事例」と題した講演をお届けします。

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