通信業界の新しい成長戦略とは――第3回:長期的な顧客ロイヤリティをどう獲得するか


Smiling woman looking at cell phones in electronics storeSAPジャパンの村山です。「通信業界の新しい成長戦略とは」と題して3回シリーズでお届けしてまいりました。これまでは新規事業領域での売上拡大を目指す中で、「顧客接点再構築」「協業による法人クラウドサービス構築」について解説してまいりました。最終回は、通信事業における「長期的な顧客ロイヤリティの獲得」(顧客リテンションの長期的確保)、すなわち顧客の囲い込みという観点から解説します。

適切な販売戦略を立案実行することにより、短期間に契約数を増加させることは可能です。しかし、それは逆に言えば、対策を打たなければ顧客を奪われる可能性が高くなるということでもあります。そこで今回は、足元の顧客管理を徹底して行うための施策について述べていきます。

はじめの7日間が勝負! 優良顧客化へのカギ

新規加入者の多くは、加入後、初期の段階で付加サービスを契約したりアプリをダウンロードするなどして、使いやすい環境を自分で整えるものです。その契約初期の関心が高い時期に効果的なオファーをすると、反応率が高いことがわかっています。逆に、加入してから時間が経過した後にオファーをしても、反応率はあまり高くない傾向があります。つまり、「鉄は熱いうちに打て!」ということです。では実際に、加入初期の段階で適切なオファーを実施し、優良顧客囲い込みに成功した事例についてご紹介します。

PT XL Axiata(XL)社の事例

PT XL Axiata(XL)社はインドネシアにおいて4000万の加入者を擁する、同国最大規模の通信企業の1つです。同社の顧客はその多くがプリペイドによる加入で、しかも市場は飽和しつつあるため、解約率をいかに下げるかが収益性に大きく響いてきます。

同社では、新規加入者を4タイプに分類する予測モデルを構築しました。4タイプとは、「解約者」「解約者予備軍」「優良顧客予備軍」「平均的な加入者」です。その結果、加入から最初の7日間のうちに適切なオファーをするかどうかで、解約者予備軍を引き止めたり、優良顧客予備軍を優良顧客に仕立て上げたりすることができるということがわかりました。同社はこれにより、月次で15%の解約率削減に成功しました。

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低ARPU顧客だからといって単純に切り捨ててはならない!

XL社の分析には、ソーシャルネットワーク分析が適用されています。興味深いのは、単純にARPU (Average Revenue Per User)の多寡だけで判断すると優良顧客を見誤るということ。以前は、ARPUが低い顧客は単純に重要顧客から省かれていましたが、ソーシャルサークル全体でのARPUの多寡を見て、その中心にいる顧客を特定することが重要だということが分かったのです。仮にARPUが月10ドルと低い顧客でも、その人が数人のコミュニティの中心にいて、合計月400ドルのARPUをコントロールしている場合があります。一方で、月100ドルという、一見、高ARPUの優良顧客であっても、コミュニティリーダーとしては月110ドルのARPUしかコントロールしていない場合もあります。この場合は、前者の月10ドルの顧客の解約を阻止することが、全体としての収益に大きな影響をおよぼすことになるのです。

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同社では、このようなキャンペーン設計、予測モデル構築、分析などを、SAPの予測分析ソリューションSAP InfiniteInsightを活用することにで、毎月75万ドルのリターンに加え、月次で15%の解約低減を実現しました。また、年間で600モデルという途方もない数のキャンペーンの設計を矢継ぎ早に行うことにより、キャンペーンの反応率を200%に向上させるといった成果を上げています。いかにスピーディに顧客対策を実施することが重要か、お分かりいただけたかと思います。

キャンペーンの高速化で顧客リテンションを大幅向上~T-Mobile USの事例

キャンペーンマネージメントという視点から、もう1つ興味深い事例をご紹介します。T-Mobile USは、最近ソフトバンクがアメリカにおいてSprintに続いて買収を試みた企業です。買収は実現しませんでしたが、ソフトバンクが買収を試みたのもよくわかります。なぜなら、T-Mobile USは近年、さまざまな改革を実施している要注目企業だからです。2012年までの同社は、アメリカの4キャリアのうち最も解約率が高く、ARPUの低い新規顧客ばかりを抱え、サービス認知度も低い状態でした。加えて社内での離職率が高く、開発、マーケティング、キャンペーンなど、何をやるにしても時間がかかり、しかもその基礎となるデータの管理などもほとんどなされていなかったのです。

その後、現在の新しいCEOが就任して大ナタを振るうことになったわけですが、その結果、解約率は30%低減し、ブランドカスタマーから高い利益を獲得するようになり、新規プランや新たなマーケティングを次々と実施できるようになりました。それと同時に離職率も低減し、開発などの活動も盛んになり、技術基盤が統合されたことで非常に効率的な経営が可能になりました。

その中でカギとなった仕組みが、キャンペーンマネージメントシステムです。これは、キャンペーン実行指針に基づき、キャンペーンをできるだけ短いサイクルで投入し、トライアルアンドエラーでキャンペーンの精度を上げていくというものです。このような高速高回転のシステムを実現したのは、SAP HANA Enterprise Cloud上においてであり、短期間の開発を可能にしました。

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T-Mobileの事例については、こちらの記事からもご覧いただけます。

参考記事:広告費よりはるかにローコストなソーシャルメディア・マーケティングで快進撃を続けるTモバイル

やはりスピードが大事

以上見てきたように、優良顧客囲い込みにも「スピード」が重要です。通信業界では自社開発が中心で、外部ベンダーのパッケージソフトは敬遠されがちですが、スピードを担保するうえで、1つの選択肢として活用する手はあると思います。

これまで3回にわたり「通信業界の新しい成長戦略とは」と題したシリーズをお届けしてまいりました。第1回では、全体の動向を俯瞰し、新規領域での売上拡大と、コア領域での顧客リテンション強化が重要であるという結論を得ました。その中で売上拡大を図るための「顧客接点の再構築」について触れ、それを早期に確立することが急務と解説しました。第2回では、新規領域での売上拡大という観点から「法人クラウドサービス」を取り上げて解説しました。ポイントは、外部リソースを有効活用して、スピーディに基盤を作っていくということ。これは通信事業者にとって他業種進出という観点からも重要な取り組みです。そして、最終回である今回は、通信事業者のコアである優良顧客の囲い込みについてお話ししました。従来までの単なる価格競争ではなく、タイミングよく顧客分析やキャンペーンを行っていくことにより、大きく経営改善ができる可能性について示しました。そのためには、高速高回転というスピーディな取り組みが不可欠であり、それに見合った体制を整えて実施すべきでしょう。

いずれにしましても、グローバル時代に向けて、通信事業者の生き残りには非常に多くの課題があります。SAPは、世界各国の大手通信事業者支援の経験を通して、日本の通信業界の皆様が少しでもスピーディに経営戦略を実行できるよう活動してまいります。

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