徹底検証、日本企業の事例から紐解く「戦略的な価格政策」


本連載では、2014年10月9日、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社とSAPジャパン株式会社との共同主催で開催した「戦略的プライシングマネジメント  Pricing & Profitability Management(PPM)セミナー~戦略的な価格政策が継続的な利益を創出する~」の内容を紹介しています。

最終回の今回は、デロイト トーマツ コンサルティングの小高正裕氏による日本企業の事例についての講演内容をお伝えします。小高氏はM&Aや、B2B業界におけるマーケティング、営業改革支援に関するコンサルティングを実施してきており、PPMの検討・導入実績についても豊富な経験を有しています。

講演者:小高 正裕氏(デロイト トーマツ コンサルティング株式会社)

価格がきちんと見えていますか?

IMG_2507小高氏は日本の事例を3 社取り上げるに先立ち、日本企業におけるPPMの課題について述べました。PPMは米国企業のみに通じるものではなく、日本企業でも十分効果が出る戦略で、実際に効果を上げている事例も少なくない一方、B2CとB2Bでは違いが見られるが、特にB2Bの課題について、典型例を紹介しました。

  • 収益最適化の課題:値引き依存を脱却できない、原材料価格が変動する中でコストの価格転嫁がうまくいっていない
  • 営業・マーケティング活動での課題:現場の営業担当者が過度な値引きに走る

このような課題に対応するためには収益と価格との関係の「見える化」を行い、それを会社全体でコントロールしていくことが重要で、これこそが今回お伝えしたいアプローチであると述べました。

大口取引だからといって値引きをしてもよいのか?: A社の事例

小高氏はまず、A社の事例を取り上げました。この会社が扱っている製品は競合が多く、すぐに汎用化(コモディティ化)してしまうために価格を維持することが難しい商品です。それに加え、原材料コストの上昇により、収益確保が難しい環境にもあります。同社としてはこれまでコスト削減努力により乗り切ってきたものの、それでも利益率が低下する傾向にあり、PPMを検討するにいたったということです。

このプロジェクトを実施する前に、A社のCEOは「まだコスト削減の余地があるのではないか」と思っていたそうですが、実際に分析を行った結果からは、すでにリベートやアフターサービスなど顧客関連コストの削減は徹底しており、そこに収益改善余地はほとんどありませんでした。また、原材料費関連のコストは大きいのですが、外的要因が大きすぎて制御するのは難しいことから、価格改定(プライシング)の実施により収益改善を目指すことが必要との方向性が浮き彫りになったと、小高氏は述べました。

【10週間で利益改善効果を特定】

  • ウォーターフォール分析(プライシング・ウォーターフォール)
    →コスト削減の余地が少ないことが明らかになり、価格改定の必要性が浮き彫りに
  • 製品別・顧客別の収益性分析
    →利益率が平均値を下回る、あるいは赤字になっている品目群を特定
  • 値上げのターゲットセッティング
    →値上げの余地を探り、製品・品目別、顧客別の施策を検討

改善効果を弾くだけでなく、一度収益性評価のデータベースができると、いろいろな切り口から収益性の評価ができるようになるとも付け加えました。たとえば、特定の主要顧客に着目し、どのような取引履歴や収益率を有しているかを分析すると、儲かっていると思っていた顧客が実はそうでないとわかり、ただちに対策を打つことも可能になります。

このA社のケースでは10週間の取り組みにより、対象売上に対して2.0~3.6%の利益改善効果を特定することができたということです。これだけの成果を10週間で出せることから考えると、非常に投資対効果(ROI)の高い取り組みではないでしょうか、と小高氏はまとめました。

付加価値分の収益が確保されているか?: B社の事例

次は、B社の事例です。この会社は、もともと高い収益性を有していた企業ですが、さらに収益性を高めるために加工品と新製品の投入を実施。しかしながら、この加工品と新製品は本当に十分な収益性があるのかが把握できておらず、そこでPPMに取り組むことになったということです。

  • セグメント別、顧客別の収益性分析
    →主要セグメントの収益性が平均以下、また新製品の大半が平均収益率を下回っていたことが明らかに
  • ウォーターフォール分析
    →加工品の収益性も低い。加工賃、倉庫費、小分け費用などの追加コストや営業固定費が十分価格に転嫁されていないことが明らかに

このB社のケースでは、最終的な利益改善効果は、価格改定とコスト削減効果を合わせて、対象売上の1.8~3.2%になったということです。なお、このプロジェクトでは、セグメント別と顧客別の両方の軸で収益性を網羅的に検証し、セグメントや顧客によって、価格改定で対応するのか、コスト削減で対応するのかといった個別の施策にまで落とし込むことに成功したそうです。

その値引きは合理的か?: C社の事例

C社はM&Aによって立ち上がった新会社です。合併後1年を経て、プライシングに対する統一的な考え方を持ちたいと、PPMに取り組むことにしました。また、もともと営業が地域ごとに独立しており、支店が実質的な価格決定権を握り、独自に営業を行っていた上に、元来「定価」がなく、何がリベートなのか、その目的は何なのかがはっきりせず、本社から見ると現場での価格の実態がまったく見えない状況にありました。

  • 定価の標準化
    →単価のばらつきが判明。また価格と販売数量の相関関係がまったく存在しない(販売数量が増加しても単価が下がらない)ことが明らかに
  • リベートの最適化
    →本来の目的に合致するリベートは全体の1割未満。価格補填、販促という名のもとに非合理な値引きをしていた実態が明らかに

このC社のケースでは、定価の標準化とリベートの最適化を柱に、コスト削減効果を含めた利益改善効果は対象売上の1.5~3.3%になったということです。

PPMのメリット

小高氏は最後に、デロイト トーマツ コンサルティングのPPMのメリットとして、以下を挙げました。

  • 短期集中で収益改善機会が特定できる
    • 平均10週間で収益改善のポイントと対策が特定できる
    • 収益性データベースをはじめ、価格と収益性に関わる多面的な分析インフラを整えることができる(製品別、顧客別、セグメント別ほか)
    • 経営、営業など利害関係者の意識改革につながり、実行モードに「勢い」をもって突入できる
  • 売上高の3%に相当する利益改善効果が平均的に期待できる
    • 売上100億円であれば、ミニマムとして3億円程度の営業利益増加を見込める
  • 利益の見える化による「営業型営業」から「マーケティング型営業」への意識転換が進む
    • 経験と勘、気合に基づく従来の属人的営業から、データ分析に基づく理論的で顧客にとって適正な価格で販売できるような科学的営業に刷新できる
    • 経営層において「値決めは経営の死命を決する」(稲盛和夫氏著書「稲盛和夫の実学」より)ことが認識できる
    • プロダクトの価値を訴求できる組織へと、組織全体が変わっていく

このようなまとめとともに、小高氏の講演は締めくくられました。小高氏が取り上げた3社の事例には、皆さんの会社が持つ課題と共通する部分が多いのではないでしょうか。「いいものをつくっても儲からない」から、「いいものをつくったら、正しい価格で売る」へと考え方自体を転換することが、これからの企業の収益向上のカギを握ることは間違いないでしょう。

これまで3回にわたり、PPMについてセミナー報告の形でお伝えしてきました。考え方、フレームワーク、ツール(Vendavo社)、そして事例のご紹介を通じて、なぜ今それが重要で、どのような課題解決方法があるのか概要がおわかりいただけたことと思います。さらに詳しい内容については以下までお問い合わせください。

第1回:値決めこそが経営――戦略的な価格政策が企業利益をもたらす理由とは
第2回:価格決定を「アート(技)」から「サイエンス(科学)」へシフトする方法

ご質問はチャットWebからも受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

●お問い合わせ先
チャットで質問する 
Web問い合わせフォーム 

電話: 0120-554-881(受付時間:平日 9:00~18:00)

●お問い合わせ先 (デロイト トーマツ コンサルティング株式会社)
E-mail: DTC_TA@tohmatsu.co.jp