化学産業の安全で安心なオペレーションのために――第1回:どうしてますか?化学物質管理


本連載では、「化学産業の安全で安心なオペレーションのために」と題して、化学業界を中心としたグローバルなトレンドとそれに関わるSAPの取り組みについて、2回に分けてお話ししていきます。大規模装置産業である化学業界において、日々の技術革新とその安全性管理は、製造現場は言うにおよばず経営にとっての最重要課題です。また、それらの化学品を使用する川下の産業にとっても重要なテーマです。管理や情報開示の手法がより厳しくかつ国際的に問われるようになると企業内における管理に対する負荷が日に日に増大しているのが事実です。そこで、特に注目度が高く、かつ永遠のテーマとも言える「化学物質管理」(第1回)と「安全操業」(第2回)を取り上げ、それに対するソリューションを考えていきます。第1回の今回は、「どうしてますか?化学物質管理」と題してお伝えします。

増え続ける化学物質、国内だけで600以上もの法規制

Worker Labeling Chemical Drums石油やガス、その他の天然資源を原料として抽出・合成される化学物質は世界中で20万種類以上存在します。単純な構造をした汎用品から、複雑な構造をした新規化学物質までさまざまです。これらの化学物質の中には食品や化粧品などにも使われる比較的安全性の高いものから、毒劇物に分類され微量で致死量にいたるものまであります。種類が多いだけでなく、化学物質の数自体が、日々増え続けているのです。

これらの化学品を製造する国々では、多くの法規制により、製造・流通・販売において、その取扱い安全性に注意を払ってきました。日本においても現在、600以上の何らかの法規制に従う必要があります。

そのような中、2002年にヨハネスブルグサミットにおいて「国際的化学物質管理に関する戦略的アプローチ」(Strategic Approach on International Chemical Management: SAICM)が採択されました。SAICMは、「化学物質が、人の健康と環境にもたらす悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020年までに達成する」ための戦略や取り組みについて取りまとめたものです。この動きを受け、REACH(欧州化学品規制)をはじめとする規制強化が世界中で行われるようになりました。

煩雑さを増す化学物質管理 化学企業だけの問題ではない!

では、企業においてはどのような管理をしなければならないのでしょうか。整備しなければならないのは、SDS(安全データシート)と呼ばれる化学物質に関わる重要情報です。化学品を他の事業者に提供する場合に、その化学品の特性および取り扱いに関する情報を事前に提供し、ラベル表示することが義務づけられており、16項目、約10ページ以上におよびます。ここには、化学物質名、登録番号、人体や生態系への環境・危険有害性、事故が起きた時の対処方法、該当法規制などの情報が含まれています。また、危険有害性情報や関連法規制情報などは頻繁にアップデートされるので、その最新情報が抜け漏れなく反映され、社内の関連部署、取引先などとの間でも、速やかに共有されなければなりません。

従来、これらの情報は、調達部門、製造部門、販売部門、研究開発部門、品質管理部門、法務部門、そして各国拠点など、企業内の複数の部門が専門性に従ってそれぞれ整備を行ってきました。複数部門が関わるとそれぞれの部門で必要データがそれぞれのシステム内で蓄積されますが、その更新情報が各関連部署に適切に伝達されているかどうかが問題です。

この重要なSDSはすべての必要情報が最新の状態で反映されていなければならないので、バラバラのシステムにまたがった状態では、不完全な状態になる恐れがあります。また、SDSは製品ごとに整備される必要があるので、取引する製品数が増えると単純にその分の工数が増えます。さらに、日本国内だけでなく海外との取引が増えれば、SDSは現地語で、しかも現地の法規制に沿った記載が必要になるので、そのための作成・確認作業にもかなりの労力を必要とします。

これ以外にも、国によっては流通量が規制されている化学物質もあります。それも化学物質単体だけではなく、電子部品など完成品に含まれているものも含まれますので、それらを含めた移動量の把握が必要になります。注意を要するのは、これは化学企業だけでなく、該当する化学物質やそれを含む製品を用いて組み立てを行う製造業にも適用される点です。たとえばパソコンメーカーが出荷を行う際に、パソコンに使用される基板に含まれる化学物質が何で、量がいくらかといったことを把握する必要があるのです。製造者責任あるいは製品コンプライアンスといった観点から、このような化学物質移動量の追跡が必要になります。

このように、かくも複雑で煩雑な管理を要求されているのが現実であり、従来、手作業でなんとか乗り切ってきた企業にとっても、もはや限界が近づいているのです。

一元管理はどこまで可能か?

対策としてはまず、企業内で分散化されていた情報をどこかに統合し、一元管理することが必要になります。また、危険有害性情報や関連法規制情報についても、常に最新情報を得られることが理想です。しかも、海外取引のある企業の場合は、取引先の現地フォーマットでの対応がスムーズにできると、担当者は煩雑な作業から解放されます。

Picture1

では、一元管理を、どのように行なえばいいのでしょうか。SAPでは、SAP Environment, Health, and Safety Management (以下SAP EHS Management)というソリューションを有しています。これは、これまでのバラバラな化学物質管理システムを一元管理するものであり、ソフトウェアと法令コンテンツをパッケージとしてご提供するものです。これにより、自社内の製品や化学物質に関わる情報が一カ所に集約されるだけでなく、世界中の法律や法規制、関連する化学品の危険有害性もすべて一つのデータベースに格納されます。何かの情報がアップデートされれば、自動的に関連データや文書がアップデートされるのです。またSDSも40カ国以上の言語へ自動的に翻訳され、しかも現地のフォーマットでの帳票として自動出力されるため、生産性が格段に向上します。なお、法規制に関しましては、SAPが独自の専門家とのネットワークを通じ、グローバルに各国法規制情報を更新しています。

実際のところ、このような複雑な対応は、以前はベテラン社員の蓄積したノウハウで属人的に行われていた部分が多かったのはないでしょうか。SAP EHS Managementはそのようなノウハウも吸収しています。したがって、ベテラン社員が退職するような環境においても、そのノウハウを担保することができるので、人材の悩みにもお応えできるのです。

製品コンプライアンスをグローバルレベルで自動化する

SAP EHS Managementは15年以上前から欧米のお客様にご利用いただいており、豊富な実績と高い評価をいただいております。日本でもようやく4~5年前から大企業を中心に採用が始まり、その効果を実感していただけるようになってきました。

今年から、このソリューションがクラウドから、サブスクリプションベースで提供されることになり、中堅企業のお客様にとっても、ご利用いただきやすくなっています。加えて、SAPでは中堅企業のお客様や非化学業界のお客様のSDS作成ニーズにこたえるために、オンラインでのSDS作成サービスも始めました。品質管理部門の方々にとっても、独自のシステム構築のためのIT投資が必要なくIT化を実現できるので、導入の検討がしやすくなっているかと思います。

これらサービスをお使いいただくことにより、企業規模の大小や業界、部署を問わず、煩雑な化学物質管理についてのお客様の負担が軽減されることと思います。いわば、グローバルスケールでの製品コンプライアンスの自動化、汎用化に役立つことができるものと考えています。

Picture2+

化学物質管理の負担を減らす

化学産業は製造業の基盤となるプロセス産業であると同時に、組み立て産業にとっても重要な産業であることは言うまでもありません。そして、そこで扱われる物質の安全性や利用の状況、対処方法についてきちんと管理されることは、安心・安全な世の中に欠かせません。そしてこれまで見てきたように、化学物質管理は複雑さを増す一方です。この煩雑さがグローバル化の足枷になっている点も無視できません。

化学物質管理は事業者にとって安心・安全のための必要不可欠なプロセスですが、その管理コストは、ややもすると非常に高くなるものです。しかしIT技術を賢く駆使することにより、安心・安全を実現することが可能となるのです。SAPとしましては、化学業界のお客様との長年のおつきあいにより築いたノウハウと最新技術により、この分野でも皆様のお力になれるよう活動しております。

次回は、安心・安全の別の側面である安全操業に焦点をあて、「化学プラントの安全操業を実現する」という題でお話しします。

ご質問はチャットWebからも受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

●お問い合わせ先
チャットで質問する
Web問い合わせフォーム
電話: 0120-554-881(受付時間:平日 9:00~18:00)