化学産業の安全で安心なオペレーションのために――第2回:化学プラントの安全操業を実現する


日本の基幹産業の一つである化学産業をとりまく現状をご紹介する連載、「化学産業の安全で安心なオペレーションのために」の2回目です。1回目は、「化学物質管理」をクローズアップしました。化学物質管理に関する国際的な規制強化の流れの中で、化学産業はもとより、組み立て加工業などの製造業にも大きな影響が及びつつある現状についてお伝えしました。今回は、「化学プラントの安全操業を実現する」というテーマです。化学品製造に関わる事故リスクの低減にITはどのように貢献できるのか? そのような観点からお話しいたします。

なぜ今、改めて工場の「安全」がクローズアップされているのか?

Lab technician化学業界に従事する誰もが最優先すべき事項は「安全」です。研究開発、製造、物流、営業のすべての段階で、この思想が徹底されていなければなりません。なぜならば、化学品が持つ漏えい、爆発などのリスクのインパクトは一市町村に影響を及ぼすほど甚大になる可能性を秘めているからです。

こうした問題意識のもと、日本の石油化学業界では、長いこと多くの投資をして事故リスク低減に努めてきた歴史があります。世界的に見ても、安全操業の管理レベルは高いといえます。しかしながら、事故をゼロにすることは究極の目標ではあるものの、決して容易ではありません。

なかなか事故を根絶できないのは何が原因なのでしょうか。一つの手がかりとして、最近の日本における化学業界の事故調査報告書や、識者の見解を参照すると、事故の主な原因や背景として以下が挙げられています。1)設備機器の不具合、2)教育、3)意識、4)コミュニケーション、の4つです。また、定常運転時よりも、メンテナンス作業を含む非定常運転時に事故が起きている傾向もあるようです。

これは一体どういうことでしょうか。設備機器そのものの問題よりも、人に依存する部分がかなり大きい、つまり人材面に課題があると考えられます。人材といえば、やはり原因として大きいのはベテランオペレーターの高齢化、退職の影響です。ベテランのノウハウにより支えられてきた安全という実態があったようで、そのノウハウは後輩に十分伝授されていない可能性が高いのです。

海外で求められる安全管理手法とは?

そこへ来て今、海外工場の安全性という課題ものしかかってきています。日本の化学企業は、海外への生産シフトを進め、現地工場を多数立ち上げていますが、海外で、安全性に関するノウハウが不足している可能性があるのです。日本国内であればまだ、ベテランを再雇用するなどで対応のしようもありますが、海外となると文化の壁、言葉の壁、距離の壁などもあり、そう簡単に行きません。しかも複数の工場・複数現場が同時に対象になることが想定されるので、やはり系統だった安全管理手法が必要となってきます。では、どうしたら良いのでしょうか。

日本の化学企業でのケースを見てみると、安全対策や保全管理への対応は、国内外を問わず工場ごとにマチマチの場合が多くなっています。つまり、標準化された手順書やマニュアルが未整備状態ということです。たとえば米国では、もともと離職率が高いので、今のオペレーターが仕事を辞めてしまっても、次の人が困らないようなシステムが作られていました。米国化学メーカーのデュポン社などは長年、このようなシステム作りをしてきており、その蓄積を活かして安全対策コンサルティングなどを行っています。BASF社では業界基準や各国基準を超える自社安全基準を常に最新にし、世界各国の事業所に徹底しています。

日本でも、蓄積されたノウハウに基づき、完全とまではいかなくとも標準化手順を作ることが先決です。また、保安条件は国によって異なる可能性が高いので、それぞれへの対応を考慮したグローバルな安全管理体制が必要になります。

オペレーショナルリスクをいかに管理するか

標準化を行う一つの方法は、「インシデント管理」です。まず、現場でモバイルデバイス上のレポーティングツールなどを使って、あらゆる“ヒヤリハット”情報を収集します。そして、その頻度と影響度のマトリクスを作成し、注意すべきインシデントの明確化と、その際の対処方法を整理します。

次にこのフォーマットに従って、世界中のどの事業所にどのようなリスクがあり、どんな対策がとられているのかをモニターし、問題のある箇所に対しては作業指示書に安全手順を詳細に併記し、安全対策を怠らないように仕向けます。たとえば、作業ごとの危険度や必要な保護具は何かなどといったことです。

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なお、このようなリスク管理のプロセスにおいて、対処方法などの変更が発生することがあります。この変更を適切に管理する(変更管理)ことは非常に重要なポイントです。この変更の影響がおよぶほかのプロセスや安全手順に対して、適宜変更を加えなければなりません。また、変更に際してのオーソライズの仕組みも管理する必要があります。特に、危険度が上昇した場合には注意を要します。

SAPではSAP Environment, Health, and Safety Management (以下SAP EHS Management)のほかにも、SAP Mobile Apps、SAP Management of Change、SAP ERP/SAP Plant Maintenance、SAP Risk Managementなどのソリューションを用意しています。これらを組み合わせることにより、標準的な管理システムを比較的容易に構成することが可能になります。ここに、安全管理基準やノウハウを埋め込むことで、生きたシステムを構築できるのです。

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安全管理の発展形とは

リスク管理の発展形として、オペレーションそのものを管理、あるいは制御するようなシステムも考えられます。たとえば、デザインされたとおりにしか進まないシステム、あるいは、ある作業が完了すると自動的に次の作業がトリガーされるようなシステムです。また、機器や作業手順を変更する場合は、しかるべき承認者が、しかるべきポイントをレビューしない限り、次の作業が行えないというような仕組みもありえます。

標準化を突き詰めていくと、設備機器、安全性、作業手順などが、素早く迷いなく参照できるように整理・一元化された情報基盤が望まれます。そして、安全手順を適切に実施するためにも、どのような訓練を受け、いかなる知見を持った人材がどこにいるのかがすぐにわかり、人事データと直結しているようなシステムが求められます。こうしたオペレーション管理、タレントマネージメントに加え、世界中のプラントの操業にまつわるリスクを同一基準で分析し、しかるべき投資を行い、安全性向上が行われている状況がモニターできるような統合システムにまで昇華させられれば、グローバル安全管理システムとして理想的でしょう。

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安心・安全をグローバルに実現するために

これまで2回にわたって、「安全」を切り口に、化学業界のかかえる課題について見てきました。第1回は化学物質管理、今回は安全操業にフォーカスしましたが、「安全第一」という問題は古くて新しい、ある種、永遠のテーマとも言えます。ヒトに依存する部分が大きいために、対応が難しく後手に回っていたことも事実でしょう。しかしながら、モバイル技術やSAP EHS ManagementなどのITを活用することにより、安全手順などをグローバルスケールで標準化することが可能になり、優れた熟練者のノウハウをそこに具現化できる余地は大きいのです。

「安全」を切り口に解決策を考えていくことは、技術の伝承の課題、グローバルでのオペレーションの標準化という、さらに大きな課題の解決につながっていきます。SAPといたしましては、グローバルな取り組みで蓄積したノウハウによって、日本の化学企業、関連産業の皆様のより安全・安心な事業展開に寄与できるよう、今後も活動してまいります。

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