しなやかな需要対応が競争力を高める――SAP HANAが実現する高速MRP

作成者:冨田 賢 投稿日:2014年7月10日

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読者の皆様、こんにちは。SAPジャパンの冨田です。皆様の会社では、需要の変化にどこまで対応できていますか?現在、生産者主導経済から消費者主導経済へと確実にシフトしてきていますが、企業として消費者主導にきちんと対応できているところはまだそれほど多くはないでしょう。これは従来のITシステム、例えばMaterial Requirement Planning(以降MRP)の処理能力の限界に起因するところも大きく、諦め気味の方も少なくないようです。しかし、世界に目を向けると、新たな技術に積極的に投資し、需要変化への対応力を高め、在庫圧縮や機会損失低減による収益力向上に成功する企業も出てきています。特に、MRP対象取り扱い品目数が数十、数百万点となるような大量データを扱う企業においては、その効果が顕著と言えます。

そこでこのブログでは、サプライチェーン管理における先進事例や、最新の実証結果をもとに、MRPの革新が競争力の源泉になりえることを具体的に示していきたいと思います。

従来の在庫管理では何がネックとなっているのか?

MRPは、部品表とリードタイム、在庫や入出庫の情報をベースに、手配すべき資材の量と手配時期を算出します。資材の手配を需要情報(受注や需要予測)に直結させることにより、在庫の圧縮と不足の解消を同時に行え、結果的に資金効率の向上に繋がります。

従来はこのようなMRP計算を、ハードディスクを用いたバッチ処理で実施していますが、最大の課題は計算処理に長時間を要することです。処理時間は、MRPの対象となる品目数や部品構成、対象となる工場数などによっても異なりますが、大抵の場合は数時間を要するため、前日のある時間までのデータに基づいて夜間バッチ処理を行い、その結果で翌朝以降の業務を行うという運用になります。次のMRPまでの間に、緊急受注や生産不具合など計画外の出来事が発生する事もあります。こうした事象に対してすぐにMRPを実行して対応する事ができないために、担当者によるマニュアル処理や、バッファとして在庫を多めに持つ、余裕を持ったリードタイムを設定するなどの対応をしている企業も多いと思います。

MRPに長時間を要するが故に実行頻度をあげられず、想定したよりも業務効率化や在庫圧縮に繋がっていないお客様も多いのではないでしょうか。

しかし、こうした従来のMRP の限界に、新技術の導入によって挑戦し、収益力向上を実現した企業がありますので、その事例をご紹介しましょう。

MRP処理高速化で20時間が1時間に! 収益力向上を実現した大手自動車部品メーカーの事例

フランスに本社のあるフォルシア(Faurecia)社は、世界に250の拠点をもつ世界第6位の自動車部品メーカーです(2013年のグループ売上:約180億ユーロ=約2.5兆円)。

同社では通常、顧客である完成車メーカーからの注文を、数週間から1カ月前に「フォーキャスト」として受けるのですが、その受注が確定するのは、顧客のアセンブリーライン上にある車両へ部品取り付けを行う、わずか4時間前だそうです。しかも、完成車メーカーからの要求仕様は、多種性・多様性を増すばかりです。

同社では、5年前からSAP ERPを段階的に導入し(MRP機能を含む)、現在では全体の3分の2の工場で稼働中とのこと。しかしながら、毎日のトランザクション量が膨大なことと、前述のような顧客からのリクエストにリアルタイムで対応するために、SAP HANAを導入することにしました。SAP HANAはインメモリーデータベース上にトランザクション系と情報系が載っており、高速・リアルタイムで大量のデータ分析・処理ができます。

導入した結果、どのような変化が起きたのでしょうか?ある工場では20時間以上要していたMRP処理が、1時間以内でできるようになったというのです。MRP実行時間が20時間以上のときは前日までのフォーキャストをベースに受注対応していたのが、今では、確定受注に対して、精度・鮮度の高い直近の情報に基づいた供給ができるようになりました。サプライチェーン管理を適正に行えるようになり、効率の飛躍的向上、在庫圧縮、サービス品質の向上を同時実現することができたのです。

Picture2

こうした改善は、どんな経済効果をもたらすのでしょうか。同社CIO は、次のように語っています。「過剰在庫や在庫不足は工場あたりの運転資本に数百万ユーロ(数億円)程度の影響を与えるので、それを抑えることができたことは大きな経済的ベネフィットです。収益率で見ると業界平均が5%と低いので、0.5%程度の収益率改善は非常に大きな効果があります。MRP実行結果への信頼性が増したことは、想像以上に大きなインパクトを生み出しているのです」。

フォルシア社のSAP HANA活用事例については、同社CIOへのインタビューを下記動画でご覧いただけます。

このように、グローバル自動車部品メーカーでは、積極的にIT投資を行い、従来不可能と思われていた処理時間でMRPを実行する事で顧客需要に対してフレキシブルな対応を実現しています。従来の常識を壊して業務メリットを最大化する。これこそが今後のIT投資の方向性ではないでしょうか。

実際に測ってみた!

それでは、SAP HANAに最適化されたMRPで実際にどのくらいの高速処理が可能になるのでしょうか。SAPジャパンでは、社内にて実機検証を行いました。従来のMRPとSAP HANAに最適化されたMRPをそれぞれ同等スペックのサーバー環境上で、品目点数を徐々に増やしながら約30万品目までの実測を行い、比較しました。

Picture1

30万品目では従来型MRPが約60分を要するのに対し(グラフの緑色のライン)、SAP HANAに最適化されたMRPではでは約15分という実証値を得ました(グラフの赤いライン)。

今回の検証は、部品表の階層は10より深く、工場間の在庫転送オーダーの生成も含むビジネスの現場に近いデータモデルで実施しました。今回の実測は30万品目までですが、図を見てわかるように、従来のMRP に比べてSAP HANAに最適化されたMRP ではグラフの傾きが非常に小さくなっており、100万、200万、300万と大量データになればなるほど、従来MRPとのパフォーマンスの開きはどんどん大きくなることが図から読み取れます。SAP HANAの特性が実測で確認できました。

見やすさ、わかりやすさが業務効率改善のカギ

「速さ」に加えて、SAP HANAに最適化されたMRPと従来のMRPとの違いは、実行結果に対してユーザーが対応するための画面が改良されている点もあげられます。MRP Cockpitという、ダッシュボード型のユーザーインターフェースです。MRPの処理結果を見やすく表示するだけでなく、それに基づいて求められるアクションをいくつかの選択枝として一覧表示する機能があります。たとえば、欠品が予測される場合、どのような対応をとったらいいのかをシミュレーションして複数の選択肢(増産指示、追加購買、在庫転送など)が提示されます。ユーザーはこれら対応策を簡単に比較・検討でき、すぐに最適な対応策を選ぶことができます。これにより、システム処理(計算速度)だけでなく、人間系処理おいても業務効率改善が期待できます。

Picture2

以下の「従来のMRP」と「 SAP HANAに最適化されたMRP 」の違いをご覧いただけばわかるとおり、慣れた人でないと扱えない画面から、直感的に使いやすい画面へと進化しています。

従来型のMRP
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SAP HANAに最適化されたMRP
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変化への対応力が生死を分かつ

最後にSAP HANAに最適化されたMRPによる効果をまとめておきましょう。本文内では詳しく触れませんでしたが、IT部門のメリットも挙げておきます。

業務部門の業務効果

  • バッチ処理で要していた時間を圧縮、部品点数が多ければ多いほどその効果が大きい。
  • 「鮮度」が高い情報をもとに「精度(信頼性)」の高い生産計画を立案・実行することが可能になり、顧客の需要に迅速・正確に対応できる。
  • わかりやすく見やすいユーザーインターフェースにより、担当者の作業負荷が減り、業務効率が向上する。

IT部門の効果

  • 従来はMRPのバッチ処理に時間がかかったため、「試しに回してみる」ことができず、外付けでシステムをつくるケースもあったが、そのような問題が解消され、ITを簡素化でき、業務効率改善や運用コスト削減につながる。

経済効果

  • 過剰在庫や在庫不足は工場の運転資本に大きな影響を及ぼすため、その改善によって収益に及ぼすインパクトが大きい。

つまり、業務面、IT面、経済面、という3つのメリットを同時に享受することができるのです。

なお、MRPというと製造業が対象というイメージが強いかもしれませんが、多種多様な大量品目を扱う業界であれば応用は可能です。たとえば、世界第3位のグローバルホームセンター企業であるイギリスのキングフィッシャー社でもSAP HANAを活用して在庫圧縮を実践し利益を上げています(詳細は、こちらのブログをご参照ください)。

このように、すでにいくつかのグローバル企業で取り組みが始まっており、成果が報告されています。「環境変化への対応力」が企業の勝敗を分ける時代です。ぜひとも、あらゆる変化を積極的にとらえ、勝機につなげていただきたいと思います。

本ブログ記事執筆者のプロフィール

■吉田 祐馬
吉田 祐馬

SAPサービス事業本部に所属。SAPに16年在席し、販売管理コンサルタント、CRMコンサルタントを経て、現在は、コンサルティングサービスの事業開発を担当。

 

 

冨田 賢
Tomita
SAP入社後、コンサルタントとして化学業界を中心にSAP導入プロジェクトを経験。その後はインストラクターとして「製造」に関連するSAP製品のトレーニングを幅広く担当しておりました。 現在はSCM/MFG領域のプリセールス(技術営業)として活動しています。

 

 

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