先進小売企業への道のり~多様化する消費者側の変化を乗り越えて――第3回:リアルタイムリテールプラットフォーム


SAPジャパンの土屋です。「先進小売企業への道のり~多様化する消費者側の変化を乗り越えて」と題してお届けしてまいりました。第1回は「オムニチャネルコマース成功の条件」というテーマで、小売企業が直面している変化についてお話しました。そこでのメッセージは、フロント力を高めるには、その機動力を担うミドルエンドレイヤーの存在が重要。さらには、その機動力を担保するにはバックエンドレイヤーの合理化も必要となるというものでした。第2回は「小売企業の基礎体力強化」というテーマで、とくに『基幹』部分の強化に向けたソリューションについてお話しました。

そこで3回シリーズの最終回となる今回は、基礎体力強化を経たトータルソリューションとそれに基づく先進小売企業の姿を、成功事例を交えながらお話します。タイトルは「リアルタイムリテールプラットフォーム」です。

リアルタイムエンジンで何が可能になるのか?

フロントを支えるミドル部分は、大きく2つの処理をします。1つは消費者とのインタラクションやトランザクションから、消費者行動の傾向や購買行動のきっかけなどに関わるカスタマーインサイト(洞察)を得ること。もう1つは、そのインサイトを既存ビジネスに対するビジネスインサイトに変換し、それをオペレーションに(確実に)展開すること。そこには、販売/商品/品揃え計画、プロモーション、マークダウン、補充、ロイヤリティプログラムなどの『競合』として位置づけられる業務機能が含まれます。(つまり、他社よりも高効率で実施することが企業にとっての優位性に繋がる部分と言っていいでしょう)

従来も同様のことは行われていましたが、大半は個別機能領域ごとの最適化だったと思います。ただ、「(タイトルにもなっている)消費者の多様性」にアドレスすると、これらの改善サイクルを顧客中心に連携させる必要性が高くなっています。

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しかし、SAP HANAを用いた高速処理環境では、消費者プロファイルに加え、リアルタイムでのインタラクションをインプットし、時々刻々とマーケティング施策にダイナミックに反映させることが現実になっています。

SAPは小売業向けには約10年前から、従来のPost ERPというDWHの規定概念を変え、ミドルの位置にDWH(SAP POS Data Management)を提供し始めました。ただ、チャネルが増え、顧客中心に発想が変わった今、「計画対比を見る→考える→アクションする」では、結果を評価する改善サイクルとして遅すぎると考えた訳です。さらには、このミドルを単に分析基盤として捉えるのではなく、業務プラットフォームとして位置付け業務アプリケーションを連動させれば、人が実行しなければならない業務を最小化できると考えました。

この発想自体は、すでにお客様で実装され成果をあげています。その事例をお話しし、実践のポイントを探ってみたいと思います。

リアル店舗でのリアルタイムデジタル装備 カシーノの事例

Germany, Cologne, Mature man using smart phone in supermarketフランスを中心に南アメリカ、アジアなど9か国に11,000店舗を展開し、約23万人を雇用する、世界最大級の食品小売りチェーンであるGrupo Casino(グルッポ・カシーノ、売上:290億ユーロ=約4兆円)では、「お買い物リスト」というiPhoneアプリを用いて、店舗における小売高度化を実践しています。具体的には、消費者が店舗を訪れると、アプリに登録しておいたお買い物リストに対し、当該店舗でのおすすめや目玉商品、お買得情報などを提供するというもの。つまり、より高価な商品の購買につなげるアップセル、グレードダウンした商品を提示するダウンセル、関連商品を提示するクロスセルを適宜実施し、顧客あたりの購買単価アップを実現しているのです。これらの情報は、店舗におけるプロモーション施策、在庫状況、売り切り意向、消費者購買履歴・好み・属性、時刻、天候、今現在の関心事などに基づき提示される仕組みです。

重要なポイントは、店舗でありながら、プロモーション施策やレコメンデーションの効果がリアルタイムに計測でき、効果に応じて即座に次の手を打ち続けることができるということ。特に店舗内のどこで、どのようなプッシュメッセージに対し消費者が反応したかを把握できるというのは、大きな利点でしょう。そしてもう1つ重要なポインントは、この仕組みにより、消費者と店舗双方にとって、Win-Winのメリットが発生すること。つまり、消費者にとっての利便性や快適さ、楽しさ、満足感が実現されると同時に、店舗にとってもインターラクションデータやトランザクションデータを大量に蓄積、活用することにより、効率よく販売でき、その効率性を高めることが可能になるのです。これはまさに、店舗におけるリアルタイムリテールプラットフォームと呼ぶにふさわしい、象徴的な事例と言えるでしょう。なお、このマーケティングデータのリアルタイム処理は、すべてSAP HANA上で行われています。

参考:iPhoneアプリ「お買い物リスト」で実店舗をEコマース化――プレシジョン・リテーリングを推進するカシーノ

マルチチャネル化と自動発注システムの最先端 スイスコープの事例

スイス最大の小売業であるスイスコープ社は、スイス国内に約800の店舗とネットショップを擁しています。同社ではSAP HANA上で動くSAP POS/DMとSAP CAR(Customer Activity Repository)を導入し、リアルタイムで需要予測を行っています。これにより、どこのお客様が、どのような頻度で何を買っているのかをつぶさに見て、購買予測や発注の精度の向上に効果を上げています。また、欠品や過剰在庫を防ぐことが可能となり、自動発注の品目数は、いまや85万件に上ります。その結果として、ネットショップの発注1回あたりの購買単価が約250スイスフラン(約28,000円)と、スーパー系の金額としては高額になっている点も特徴的です。

具体的には、お客様の購買履歴、最近の閲覧状況、商品の粗利率などを指標に、最適なクーポンをメール送信したり、ウェブ表示させたりしています。このようなパーソナライズされた情報発信の効果もあり、コンバージョン率(成約率)は通常の8倍にまで上がっているとのことです。同社におけるネット売上比率は全体に比べると決して大きくはありませんが、確実に伸びており、前年比22.8%となっています。

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参考:「マルチチャネル」化を着々と進めるスイスの巨大小売業、コープ

リアルタイムリテールプラットフォームでの在庫最適化 キングフィッシャーの事例

キングフィッシャーは、ホームデポ、ロウズに次ぐホームセンター業界世界第3位の企業で、売上は約108億ポンド(約1.89兆円)に上ります。イギリスをはじめ、アイルランド、フランス、スペイン、ポーランド、ロシア、トルコ、中国の8カ国で9つのブランド、1,002店舗を展開、従業員は約8万人を擁しています。ホームセンター業界の課題は、小売業平均の約半分程度の低在庫回転率のビジネスで、過剰在庫、不良在庫を抱えやすく、運転資金負担が大きくなるケースが多々あること。特に大規模展開した場合は、その品種の多さ、ベンダー数の多さなどから、全体での管理が難しくなり、実情が見えづらくなります。そこで、キングフィッシャーではSAP HANAを導入し、「全社横断の在庫・仕入・需要予測データベース」を開発。個品レベル、ベンダーレベルでの在庫の最適化と、それに基づくグローバル調達の合理化を行っています。

たとえば、サプライヤーごとの在庫日数を比較することにより、回転効率の悪いベンダーを特定することが可能になります。このベンダーの過去の仕入れ・在庫実績に、需要予測データを加えて分析すると、今後の最適在庫が見えてきます。この結果に基づきベンダーと交渉し、過剰在庫を持たないように1回あたりのオーダーロットを小さくしたり、取引頻度、取引条件などを調整します。具体的には、数億件のデータにリアルタイムで照会をかけることで実施します。また、品目ごとに同様の分析を行い、全社レベルで統合、共同購入を実現し、調達コスト低減にも役立てています。このように、リアルタイム分析を通じて、何千万ポンドもの運転資金を節約し、利益につなげ、IT投資を上回る成果を出しているのです。

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参考:わずか7週間で「在庫・仕入・需要予測データベース」を構築、ロングテールな在庫の回転率を単品レベルで最適化、数十億円を節約するキングフィッシャー

統合ソリューションセットとしてのリアルタイムリテールプラットフォーム

上記以外にも、ウールワース、ロブロウ、ミグロスなどでも同様の試みがなされ、成果をあげています。このことからもわかるように、小売業にとってリアルタイムリテールプラットフォームは価値をもたらすことが分かるかと思います。IT側面で言うと、「バッチ」という制約が多かった小売業のビジネスを変えることができるものだと確信しています。

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以上の内容をふまえ、ポイントをまとめると以下のようになります。

  • 顧客データ、インタラクションデータ、トランザクションデータ、現場データ、在庫データなどを受け止める高速リアルタイム処理を行うエンジン(競合)の役割が肝
  • その上で業態、チャネル特性を加味した対応策を実施。特にリアル店舗系での工夫は重要(事例が参考になる)
  • 消費者と小売業の双方のベネフィットを可能な限り一致させるWin-Winをデザインすること
  • フロントからのインサイトを確実に従来オペレーションの改善につなげる

ここまで見てきたように、小売業界の向かっている方向性は、日本も海外も本質的には変わりません。当然、日本企業の持つきめこまやかさはプラスに働く要素でもあるので、各社の強みを活かすために、従来の何かしらの制約を解放し、それらを具体的なロードマップとして描く。こんな取り組みを皆様とはご一緒できればと考えています。

先進小売企業から学ぶ

以上、3回にわたり「先進小売企業への道のり~多様化する消費者側の変化を乗り越えて」という題目のもと、話をしてまいりました。重要なポイントは、以下でした

  • 各社とも成長戦略に直接寄与するIT投資にフォーカスしている
  • それらを推進するには、既存から改善余剰を創出しなければならない
  • そのためには、時代変革と共に捨てなければならない従来のこだわりがある
  • 多くの事例を見ても、コア→競合とステップアップした企業の方が、差別化領域における実現スピードが速い

この事実を受けて何をするのかが非常に重要であり、各社の戦略にアドレスした定義が必要だという事になります。日本の小売業の皆様が新たな取り組みを進めていけるよう、SAPは引き続き活動を続けてまいります。

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