先進小売企業への道のり~多様化する消費者側の変化を乗り越えて――第2回:小売企業の基礎体力強化

作成者:土屋 貴広 投稿日:2014年8月4日

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SAPジャパンの土屋です。前回は、オムニチャネルコマース実現に向けたポイントについてお伝えしました。その結論は、フロント力を高めるには、その機動力を担うミドルエンドレイヤー(競合)の存在が重要。さらには、その機動力を担保するにはバックエンドレイヤーの合理化も必要となるというものでした。ただ、企業にとって「変革要因(Change Driver)」がなければ、仕組みを変える必要性は成り立ちません。

そこで、今回は、バックエンドレイヤー(基幹領域)における各社の改善ニーズが大きい「人材育成」と「間接材・サービス調達の最適化」の2つのテーマにフォーカスを当て、その変革要因を探ってみようと思います。

「人材育成」がなぜ大事か?

さて、「人材育成」について見ていきます。多くの従業員を抱える小売業では、「採用人員効率の最大化」について従来から取り組まれています。店舗と従業員を継続的に増やし規模を拡大する小売業にとってみたら、この効率性は利益の源泉であり、そのオペレーション品質をいかに向上させるのか?は従来からの経営課題だと思います。ただ、昨今、消費行動は多様化し、細業種との垣根も狭まり、さらには少子高齢化も加わり、人が集まらないことを前提にオペレーション品質を向上させるという大変難しい状況を招いています。各社とも自社のブランド力による差別化を推進している今、ブランド力と直結する人の質を向上させることが、避けられない経営課題の1つになっています。

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また、他業種と比べてパート・アルバイト比率が高い小売業では、そのカギとなるのが「店長(図の①)」の存在です。店長は、マネージメントと従業員の接点の役割を担うことから、店長をエンパワーすることが店舗全体の生産性向上につながります。そのためには、会社全体としての戦略をオペレーションのKPIにブレイクダウンしたモノをモニタリングする必要があります。つまり、結果のみのKPIでは、そこにいたるプロセスの評価ができないのです。たとえば、質的な改善に向けて先行指標を定義し、何を目指すか、何をやるか、何をやったかを確認することが重要なのです。これは、ただでさえ多忙な店長の仕事を増やすモノではなく、店の看板である店長としての人材を効果的に育成・展開するために必要な仕組みだと考えます。

SAPはSuccessFactorsという、タレントマネージメントや人事(HR)関連アプリケーションをクラウドベースで提供できるアプリケーションを用意しています。教育や研修に関しては、このようなタレントマネージメントシステムに格納された標準化したソリューションを導入し、PDCAサイクルを管理します。店舗が多岐にわたるので、教育・研修はクラウドサービスを利用することが効率的です。必要に応じてe-ラーニングも採用できるでしょう。SuccessFactorsは、店長人材などのリクルーティングにも活用できます。こうした人材育成ソリューションを、多忙な店長のデスクワークと連携することにより、実態に即した価値を提供できると考えています。

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見落としガチな直接費以外の仕入コスト(間接材・サービスの調達コスト)?

次に、意外と見落としガチなのが直接費以外の調達コスト(つまり、間接材・サービスの調達コスト)の削減、最適化というテーマです。小売業は店舗を運営するためのさまざまな間接材・サービスの調達をしており、その規模が大きくなるとコストも大きくなるのは言うまでもありません。

販売商品の仕入コストについては、各社相当の努力をもって原価低減に努めているのに対し、それ以外の調達コストとなると二の次になっている感じを受けます。特に変革要因が大きいのはグルーバル展開企業かも知れません。国内展開時には特定のサプライヤーの什器を使い展開を図っていたが、これが海外に展開しようとすると「輸送コスト」がバカにならない。そこで、現地で同等品質のサプライヤーを見付ける方が、コスト的には時間的にも効果的であるというのが典型例だと思います。海外に展開していない企業においても、ブランドをまたがって施策できれば同じ効果を得ることができます。

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これは、マージンに対するプレッシャーが厳しい今、全体として下げられるコストは下げ、「お客様にその価値を還元する」という小売の基本思想に合致しているかも知れません。

SAPでは、グループ内にARIBA NETWORKという世界最大の商材調達ネットワークを有しています。クラウドベースのソリューションで、21カ国40拠点を有し、73万社の登録サプライヤーから商材を調達することが可能です。この商材調達ネットワークを活用することにより、間接材・サービスの調達コスト+ガバナンスの課題はある程度解決可能となるでしょう。

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クラウドの活用によるスピード確保と効果の早期回収

Woman walking into a shop今回に取り上げた2つのソリューションを含め、その多くはクラウドの活用が可能です。クラウドの利点は、スピーディに実施可能で、その効果を早期に回収できることです。特に海外展開など新市場へ進出する際にクラウドを採用すれば、事業立ち上げにかかるリードタイムを大幅に短縮できる上、自前主義のローカル企業よりも先進的で効率的な小売システムを作り上げることが可能になります。あとは、顧客接点部分に工夫を凝らし、商談を成立させるノウハウは、各事業者の腕の見せどころと言えます。

日本企業は元来、システム利用に当たって自前主義をよしとして、外部リソースを使うことを潔しとしない傾向があるかも知れません。しかしながら、コア領域を中心にパッケージが適用されたように、今後は明確に企業の差別化要素と成りえないモノは外部リソースを利用する傾向は強まるでしょう。ただ、企業にしてみれば「すべて」という話は少し飛躍しすぎていますので、上記条件に該当する領域から徐々に移行し、その余剰を利用して新たな投資に仕向けるというのが現実解なのではないでしょうか。

上記の話とは別に、全体のビジネス設計は自社資産として蓄積すべきで、ITも同様のことが言えます。多くのグローバルリテーラーが数百名規模のIT組織を持っているのは、この領域を強化することこそが戦略と連携したITの姿だと考えているからです。そのためには、開発/運用の部分は外部リソースを匠につかい効率を高めています。そのため、SAPも『基幹』部分はアウトソーシング、『競合/差別化』部分は自社ノウハウでの運用といったハイブリッド型が基本になると考えています。当然、SAPもすべての小売ソリューションをクラウドベースに移行する計画を進行中であり、オンプレミス、クラウドを併用できるハイブリッド型を提供し始めています。

真のこだわりを見つけ出し、現在の複雑性を解消すべし

国内・海外を含めの業界に共通しているのは、「商品中心の発想から顧客中心の発想への転換」というテーマです。つまり、商いをするエリアを変えない限りお客様は変えられないため、そのお客様からの収益を最大化するという意味です。当然、競合もある世界なので「変革スピード」はITにとって大きなチャレンジとなります。ただ、新しいモノを追加しようとすると既存の複雑性が増す構図は避けられないため、従来の何かを変え、改善するための余剰を創出しなければなりません。その施策の1つが非差別化領域のクラウド化であるものの、そこで創出した余剰を使い何かを改善してこそ、クラウド化する意味なのだと考えます。「そんな簡単なことじゃないよ!」と指摘を受けそうですが、動かない限り何も変わらない訳であり、多くのトップマネージメントはその「変革スピード」を要求しているのも事実です。

一部の企業で始まっている、新市場への展開などから着手し、それを日本などの既存市場にもあてはめていくようなアプローチも今後増えていくと考えています。

最終回の次回は、オムニチャネルコマースで検討すべきキーワードで『競合』部分に関わる「アジャイルマーケティング」、「カスタマーインサイト力とビジネスインサイト力(需要と従来ビジネス改善に関わる洞察力)の実態について、先進事例を交えながら「リアルタイムリテールプラットフォーム」というテーマでお届けします。

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